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第11回「ライセンス(上演権)を獲得する(さらに続き編)」~創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで

こんにちは!TARRYTOWN翻訳・訳詞・演出の中原和樹です。

創作ノートもついに11回を数えて(漢数字表記から数字表記にしました笑)、少しずつ読んでくださる方も増えていることもあり、大変ありがたく思います。

今回は、少し前に書いた「上演権を獲得する」テーマで、もう少しマニアックな(?)内容に踏み込んだものを書いていこうかなと思います。
ミュージカルの作品内容ではなく、あくまで権利関係についてのことなので、読みづらかったり、読む方によってはつまらないなぁという内容もあるかもしれませんが、今回は特にご興味ある方向け、ということでご了承いただければと思います。

参考:上演権にまつわるノートはこちら


第六回のノートで、上演権を持っている権利元(今回は、作者のAdamの所属する事務所です)とのやりとりのリストを載せました。
そのリストの内容を少し踏み込んで書いていこうかと思います。



【稽古開始前まで】

■挨拶

これは文字通りです。笑
私自身の紹介(今回は英語のポートフォリオ:経歴や作品歴をまとめたものを送付しました)から始まり、この企画の概要の説明、期間や規模感などの説明などです。
なるべく具体的に、こちらのプロダクションを理解してもらうという段階です。
この際に、どうしてタリータウンを上演したいと思ったか、その熱も頑張ってお伝えしました。今回は先方にとって商業的な収入としては少ない案件であるものの、日本初演という作品でもあったので、最初にこちらの想いがきちんと伝わって欲しいという願いがありました。


■上演契約(ライセンス)条項の確認、締結

挨拶ののち、すぐに実際の上演権についての話にうつります。
今回は先方から上演契約のフォーマットが送られてきました。
概要としては、大きく以下の条項がありました。
条項を確認しつつ、内容について齟齬がないように、またこちらの条件(予算面や期間など)による条項への変更願いなど、複数回やりとりし、条項全体を双方の対話で修正し、最終的な合意に進むという作業でした。

・上演するための条件
(プロ/アマ、上演する地域はどこか、その期間や地域での別のプロダクションが上演可能か/それとも一つのプロダクションだけが上演出来るか(排他的上演)、俳優/スタッフ/翻訳者のスキルがきちんとあること、生身の人間による上演でなくてはいけない、など)

作品が上演される際に、その品位を損ねないように、作品へのリスペクトを含めてきちんとした上演を求められます。

作品上演という行為は、なかなかに抽象的になりがちな(創り手に委ねられる部分が大きい)イメージでしたが、契約内容の具体的な指示があるという今回の経験で「作品が尊重されることが当たり前である」ということの大切さを改めて実感しました。



・上演する際の録画録音などの規制、またCOVID-19によってライブ公演が中止になった際の措置など

コロナ流行に起因して、ライブ上演が不可能となった場合のみ、条件つきでストリーミング配信を可能としてくれていました。


・作者の招聘についての条件・記載

今回は予算上、作者のAdamを日本に招聘することは叶いませんでしたが、上演権の中に、作者の招聘についての記載がきちんとなされていました。
エアの詳細、宿泊場所から劇場への距離などです。
ここでも作者が尊重されることの当たり前さのようなものを感じました。


・翻訳についての条件

脚本や歌詞を日本語に翻訳したものを、さらに英語に翻訳し直した「逆翻訳」の送付、そして日本語で歌った音源の送付などが今回の条件でした。
これは作者Adamから、翻訳プロセスに関わりたいと言ってくれたことに起因しており、それをエージェントが契約内容に盛り込んでくれたという経緯があります。

今回はマテリアルの獲得から上演までの期間がタイトだったこともあり、なかなかAdamとの協働として作業することは叶いませんでしたが、翻訳や訳詞について、作品について、いつかAdamと話したいと思っています。
(Adamもぜひやろう!と言ってくれています。嬉しい限りです。)

ここでも、もともとの作品の作品性を損なわないということに主眼が置かれている印象でした。チェック機能として、作品が勝手に改変されたり、内容の変更をされないようにするための条項でした。


・権利関係の明記

もともとの著作者はAdamであることはもちろんですが、翻訳者が持つ権利、つまり翻訳物の権利関係の記載がありました。
翻訳物は二次的著作物に属するので、基本的には原作者と翻訳者に権利が付与されます。その翻訳物の勝手な使用などは、翻訳者だけで行うことは出来ないため、その明記と、もし他のコンテンツとして利用したい場合はどうするかの確認事項がありました。


・宣伝美術やデザイン、クレジットに関する条件

作品タイトルに対しての作者名表記のサイズ割合や記載場所の条件記載もありました。
フライヤーやプログラム作成がある場合それを送付する必要もあり、上演される脚本・楽曲のみならず、その作品へのイメージ・デザイン・広告的な意味も含めての「作品」であることが重要であるということが、改めて示されたように感じます。
今回の場合、宣伝美術デザインがあがってきた段階で先方に送付して、チェックをしてもらいました。パンフレットに関しても同様です。

日本版タリータウンの宣伝美術。デザインはLEI'OHさん。


・上演料/物販ロイヤリティの詳細

実際の上演料の内容、支払い方法(海外送金の指定)、またプログラムやその他物販があった際の支払いの詳細条項です。


・その他

上記以外にもいくつか「なるほど」と思うような条項がありました。
初日が明ける24時間以内に、オープニングナイトの案内を送付すること、
劇評・レビュー・記事などを送付することがそうです。
オープニングナイトに関しては、海外のプロダクションの文化を感じましたし(初日はオープニングナイトと言って、劇評家やゲストの招待があり、パーティもあります)、
劇評なども、条項に記載があるほど、作品性の担保、そして今後の展開のための重要なファクターであるということを感じました。


■上演用素材(マテリアル)=台本、楽譜、サントラなどのデータ受取り

上記した条項の締結が済んだのちに、台本や楽譜、サントラデータなどの受取がありました。
今回はデータでの取り扱いでしたが、エージェントや契約次第では、船便やエアなどで、データではなく紙面での送付となることもあります。
紙面でもそうですが、特にデータの場合、外部流出や不正使用が起きないように、プロダクションへの配布をどうするかの考慮と、データや作品の取り扱いに関しての周知も必要となります。


■上演形態の相談(今回はピアノ伴奏について)

もともとはサントラを聞いて「TARRYTOWN」を上演したいと考えたので、サントラ楽曲のバッキングトラック(歌無しの音源)が使用できるかどうかを問い合わせました。
(お時間ある方は創作ノートの第一回、第二回、第三回をお読みいただけたらと思います!)

編曲も素敵なサントラなのですが、

・編曲者が持つ、編曲そのものの権利があるので、その確認が必要
・サントラに収録されている楽曲の進行が、実際の舞台上演のものと違う箇所が多いこと

などあり、今回は先方と相談の上、ピアノ演奏となりました。


【稽古開始後】

■SNSなどに挙げる、宣伝用の素材(動画など)の確認、許可を得る

上記した上演権の締結に際しては、作品の内容を動画に撮ったりネット上にアップしたりすることは禁止だったのですが(作品の権利を守るため)、日本初演ということもあり、

・日本での「TARRYTOWN」の知名度があまりないこと
・作中の楽曲が事前に少しでも紹介出来れば、観客のみなさまにとって作品を見るかどうかの判断がつきやすくなるということ

を先方にお伝えして、許可を頂きました。上演に関する条項は締結していても、あくまでプロダクション側と権利元の対話、そしてこちらが作品を尊重する前提で、必要な交渉を行うことの重要性を実感しました。

■上演用の台本翻訳、歌詞翻訳をしたものを、さらに英語に翻訳する(逆翻訳)の送付

実際の翻訳・訳詞にかなり時間がかかってしまったため、上演前のぎりぎりの段階となってしまいましたが、エージェントに送付、チェックをしてもらいました。英語→日本語→英語というプロセスの中で、作品創作とは別角度で、その作品の本質を考える時間にもなった実感があります。

特に訳詞の場合、もう作詞と言っても差し支えないような場合も多々あり、その訳詞をさらに英語にする場合、その言語形態がさらに変化するため、客観的に内容を確認するということにも繋がりました。


【終演後】

■公演報告、支払い

収入・支出の決算がある程度まとまったのち、海外送金の手続きを踏み、上演権をお支払いして、一応の区切りです。
海外送金の方法は銀行やインターネットなど複数ありますが、なかなかに慣れないものなので、結構な時間がかかりました。



各プロセスに踏み込んで書いてみましたが、こうしてみるとやはり「条件の具体化・文面化の重要さ」を感じます。

0から1を創り出すクリエイターとしての作者の権利を最大限保護すること、そしてその作品へのリスペクトを持つこと、そういった当たり前に重要な事柄をなぁなぁにせず、双方の合意のもとで記録としても残すこと。
そういったことが、ひいては文化の発展や作品の質の向上に繋がり、最終的には観客のみなさまのもとに届くものでもあると、学ばせてもらったと思います。


今回もお読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!

中原和樹

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