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ネット掲示板に顔を晒してしまった俺が電脳世界で伝説となるまで 第1話

本作は以前小説家になろう様に掲載していた作品を創作大賞2024用に改題、加筆修正を加えたものとなります。

あらすじ

北海道在住の中学生、多田安弘は大規模なインターネット掲示板『BBS SPECIAL』通称スペシャルにて多数の匿名ユーザに煽られ、自分の顔写真を晒してしまった。
このままでは一生物のデジタルタトゥーとなってしまう。そう危惧した安弘は自身の通う学校の教師である秋見の手を借り、画像消去の為にネット上の仮想空間に飛び込むのだった!

第1話

 俺は北海道在住中学生で非リア充の多田安弘ただやすひろ
 最近は部活のサッカーから帰ってきたらすぐに着替えて大規模な電子掲示板であるBBS SPECIAL。通称スペシャルへ行くのが日課となっている。
 家族は父と母と姉がいるが、父は外国へ出張に行っていて滅多に帰ってこないし、母は夜遅くまで仕事で帰ってこない、姉も東京にある大学の寮で生活しているので、12時頃に母が帰ってくるまでは基本的に自分しかいない。つまり12時頃に母が帰ってくるまでは家で何にも縛られる事が無く好きなことができる。宿題? 受験勉強? なにそれおいしいの?

 俺は自転車で学校から家に帰るとすぐに部屋着に着替え、スマホの電源をつけてスペシャルを開いた。

「おっ! 俺が朝立てたスレスレッドに100レスもきてる!」

 俺以外に誰もいない部屋でつぶやいた。
 俺が立てたスレッドに100以上の返信レスが来るのは久々である。

 早速スレを見て見るか……どれどれ……。

BBS SPECIAL
雑談掲示板
誰かオンラインゲーム一緒にやろうぜ

1 チープ◆cheap 2052/10/30 9:11 ID oukuia11
誰かフレになってやろうぜ
俺が学校から帰ってきたら開始するからそれまでやりたい人書き込んでくれ

2 名無し 2052/10/30 9:22 ID kah5sdn5
チープ死ね
はよROMれや

3 名無し 2052/10/30 9:23 ID wkre5h71
そーだそーだ!
クソコテ死ね

 俺はスレッドスレを開いて、一瞬で荒れている事を悟った。
 チープというのは掲示板で俺が使ってる固定ハンドル名コテハンのことだ。一応本名の安弘の安から取っている。
 俺は昨日他のスレを荒らした為、嫌われて自分が建てたスレが荒らされるのも仕方が無いとは思った。

 あれ? 擁護してくれる人がいない。一人くらいは擁護してくれる人が一人くらいいると思ったんだけどな。昨日調子乗って荒らしすぎたか。返信レスしてみるか。

122 チープ◆cheap 2052/10/30 19:11 ID oukuia11
きてやったぜ

 俺がレスをして間もなく、3件ものレスが来る。

123 名無し 2052/10/30 19:11 ID wahau4a1
まだ消えてなかったのか消え失せろ

124 名無し 2052/10/30 19:11 ID kah5sdn5
昨日の事の謝罪しやがれ

124 名無し 2052/10/30 19:12 ID nrbn5j89
こんなボコボコにされてる中現れるなんて勇気あるな。まぁただ馬鹿なだけだろうけど
許して欲しけりゃ顔写真晒せ。そのくらい勇気が無いと許してやらねぇぞ
そもそも1が昨日荒らしたからいけないんだからな。償いだと思って晒せ。そのくらいの勇気がないならさっさと死ね
ほんとは糞親の顔が見て見たいところだがお前の顔で我慢してやる
どうせ1も1の親もくっそブサイクゴミ顔なんだろうけど


 俺は124番目のレスを見て、堪忍袋の緒が切れた。 
 流行り廃りの激しいこの掲示板では、今回のように荒れていても、明日になれば別の話題になっているだろう。俺に対するちょっとした誹謗中傷なんて、スルーしておけばいい。しかし、自分はどう言われてもいいが親のことを悪く言われることだけは絶対に許せなかった。

 晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。晒してはダメだ。と、心の中で呟く。

 インターネットが普及した昨今、インターネット上に自画像を載せるのは珍しくもない。むしろSNSなどに自分の生活の一部を切り取った写真を載せるのは友人とのコミュニケーションやインフルエンサーの活動において、非常に有用な手段と言えるだろう。
 しかし、今顔を晒す行為はそれらとは全く異なるものである。お世辞にも民度が良いとは言えない電子掲示板で、煽りに乗って顔を晒す行為は自殺行為だ。各所に拡散され、コラ画像の素材となり、最悪住所などの個人情報まで特定されてしまうだろう。黒歴史、デジタルタトゥーの完成である。顔を晒すのは絶対にダメだと俺の理性がそう言っている。


 しかし、俺の身体は理性を無視して親の名誉を守るために自然と動いていた。興奮した俺は、スマホでカメラのアプリを開き、インカメで自分の写真を撮る。

 これは俺の為なんかじゃないっ! 親の名誉を守るためだ! 俺の親は決して糞なんかじゃないっ! 親の名誉にかけて俺は顔を晒す!

 そして俺は顔を晒してしまった。

 俺は掲示板に顔を晒すレスをしてから数秒は頭の中はぼんやりしていた。しかし、すぐに自分の犯してしまった過ちに気づく。

 ああっ! 晒してしまったあああぁぁぁぁぁ!

 俺は掲示板に写真を晒してしまったという取り返しのできない事実に気づき、絶望に襲われた。

 俺はいったいどうなるんだよぉ! 俺の住所が特定されるのか⁉︎ 学校生活に支障がでないよなぁ! 頼むから家族だけには迷惑がかからないでくれっ!

 とてつもない不安と恐怖で頭がいっぱいになる。取り返しのつかない事をしてしまった。
 ネット上で何があっても自己責任だ。これからどんな人生になろうとも、その人生を受け入れなければならない。

 俺はすぐにスレの削除要請を運営に出した。しかし、時はすでに遅く、少なくともスペシャルの雑談掲示板は俺が顔を晒したことに関係するスレで埋め尽くされており、スペシャル内の他の掲示板にも俺が顔を晒したことに関係するスレが立っていた。俺が晒した顔を晒したスレはすぐに運営の手によって消されたが全ての関係するスレが消される事はなかった。
 俺は完全にパニック状態に陥り、全身は震えていた。体が思っているように動かない。それでも全身が震える中で力を振り絞り、水を飲むことで少し落ち着き、現実から目を背けるようにベッドの中へと入った。

「ふぁぁぁぁ……」

 あれ? いつから寝てたっけ……。
 俺は寝ぼけて、寝る前の事を忘れていたが、すぐに思いだした。

 俺……顔を晒しちまったんだよな………………。

 体はまだ少し震えたままだったが、昨日よりは冷静になっている。

「安弘! もうもう8時よ! いい加減起きて学校行きなさい!」

 リビングから母さんの声が聞こえる。この様子だと家族、少なくとも母さんには顔を晒した事実は知られていないようだ。
 母さんに昨日のことを伝えるか、数秒悩む。このまま放っておいて良いはずがない。ただ、知られるのが時間の問題だとしても、自分の口から顔を晒したとは絶対に言えない。事実を伝えた時に怒られるのか、それとも失望されるのかは分からなかったが、とにかく伝えた時の親の反応を見るのが怖かった。
 俺は何かあったと察されないようにいつものように朝飯を食べると、制服に着替えて家を飛び出した。

 学校へ行くのも本当は怖い。掲示板のあの伸び方ならば学校にも既に俺が顔を晒したことを知っている人はいるだろう。本当は仮病でも使って学校に行かずに引きこもっていたい。しかし、俺以外にスペシャルを見ている同級生がちらほらいる。俺のいない教室で晒したことが噂されて広がるのはもっと怖かった。
 それに、もしかしたら学校に行けばインターネット関係に強い人がこういう時の対処法を教えてくれる可能性があるかもしれない。正直学校の友達や先生にも晒してしまった事実を知られたくはないが、背に腹は変えられない。俺は藁にも縋るような思いで学校へと急いだ。

 学校に到着すると始業3分前、危うく遅刻するところだった。

「あ! 安弘だ!」
「顔晒した奴がきたぞ」

 教室に入ると、早速クラスメイトが近づいてきた。馴れ合い厨のような奴らだ。正直こいつらと話すような心の余裕はない。俺は下を向き、聞こえないふりをして自分の席へ移動する。

「そういえばもやしが呼んでたぞ」

 もやしというのは生徒指導の秋見颯太あきみそうたという先生のことだ。痩せていて背が高く、しかも好きな食べ物がもやしだったのでもやしというあだ名がついた。

「朝のホームルームと1限は公欠でいいから職員室に来いだって。絶対叱られるぞ」
「ああ、そう、ありがとう」

 適当に礼を言ってバッグを置いて職員室に向かう。
 あいつらに関わるとろくなことがないからなぁ……。

 職員室前に着くと、すぐにもやし先生こと秋見先生がいた。
 職員室に入って呼ぶ手間が省けた! ラッキー! でもこのタイミングということは俺が晒したことに対しての要件だろうな……やっぱり最悪だ。

「秋見先生……きました……」
「やぁ……待ってたよ、君は叱られると思っているかも知れないが僕は君を叱ることはないよ。ただ、ちょっと僕についてきてもらうよ」
 あれ? ここで叱られると思ったんだけど他の場所で叱られるのかな……でも叱ることは無いって言ってたしな……。

 俺は先生に言われるまま先生専用の駐車場へ向かった。

「多田君、これは僕の車だ。ちょっと乗ってくれ」
「は、はい……」

 俺は先生に言われるまま先生の白い軽自動車に乗る。俺はどうなるのだろうか。

「ごめんね、多田君。ちょっと学校じゃできないことだからこうするしかなかったんだ」
 学校ではできないことと聞いて不安になった。まさか誘拐? いやまさかな。

 そして車で走ること約10分。俺を乗せた車はモダンな雰囲気の住宅街の一角にある家の前に駐車する。家の表札には秋見と書いてあったのですぐに先生の家だと分かった。

「さぁ、降りていいよ。ここは僕の家だ。鍵をあけるからちょっと待っててね」

 先生は車から降りると、ズボンのポケットから鍵を取り出し、家の鍵を開ける。

「あがってもいいよ」
「お邪魔します……」
「ちょっとこっちの部屋へ来てくれ……」

 俺は先生についていき、2階の和室に入る。4畳半の和室の中には、中央にこたつと座布団がある他、和室にそぐわない銭湯などに置いてあるような日焼けマシンのような機械が2台鎮座し、奇妙な存在感を放っていた。

「まぁ座ってくれ」

 そう言って先生は俺にお茶を出してくれた。

「まさか君が顔を晒しちゃうなんてね。思っても見なかったよ……」

 やっぱり顔を晒したこと関係のことか……。

「今日はね、これ以上の画像流出を防ぐために画像をネット上の仮想空間に飛び込んで画像を消去デリートしてもらおうと思ってね。多田君を呼んだんだ」

「ネット上の仮想空間に飛び込むってどういうことですか……?」

 先生は俺の事を馬鹿にしてるのか?

 俺には何が何なのか全く理解できなかった。ネット上の仮想空間に飛び込むなんてできる筈がない。そう思ったのだ。

「多田君は20年前のIIDS事件を知っているかい?」
「たまにテレビで特番をやっているやつですよね。確かインターネット情報破壊システム(Internet Information Destroy System)の略ですよね。そういう特番とか見ないから詳しくは知らないですけど」
「そうだよ。そういうのに興味がないなら無理はないか……」
「で、それとの関係って何なんですか?」
「IIDSっていうのはネット上の世界に入って情報を内部から破壊するシステムのことでネット上に個人情報を晒してしまった人がその情報を消すために開発されたんだ」
「つまりそのシステムを使って俺の昨日晒した画像を消去しろってことですか」
「そういうこと」

 秋見先生はうなずいた。

「そういえば20年前の事件って何が起こったんですか?」
「事件のこと……聞きたい?」

 秋見先生は急に声のトーンを低くする。

「20年前の夏にネット上にアップした情報を内部の空間に入って管理人の権限を無視して消す事ができる機械が開発されてネット上で話題になったんだ」
「それがIIDS……ですね」
「うん。それの開発されたという情報がインターネット上で広がっていった。そしてインターネット上で発売されたんだ」
「それでどうなったんですか」
「発売価格10万円という値段にも関わらず、インターネット上にアップした情報を消したい人だけでなくインターネット上の世界への興味本意で買う人が続出した。当時小学生の僕も貯めておいたお年玉を全部使って買ったよ」

 そこまで言うと先生は深いため息をついた。

「でも事件はここから始まった。インターネット上の世界に入ったのはいいけど、時空の狭間に閉じ込められて一生意識が戻らない人が出たんだ。でもそれだけじゃない。インターネット上の世界で何者かに襲われて脳が死に帰ってこれない人も現れた。それにその事件が明るみになる以前から管理人の権限を無視していることに対して風当たりも強くてね。この事件が決め手となってこのIIDSは販売禁止へと追いやられたんだ」
「なんでネット上の仮想空間で脳が死ぬなんて事があるんですか?」
「あの空間内で脳はデータ化される。つまり空間内でデータ化した脳が、深刻なダメージを受けると現実世界に戻ってこれなくなってしまうんだよ」
「先生はそんな危険なことを生徒である俺にやれと言っているのか⁉︎ 冗談じゃない!」

 俺は感情的になり、先生に怒鳴った。

 俺は晒した画像を消去したい。でもそのために命を危険にさらすなんて嫌だ!
 俺はまだ中学生だ。まだやり残したことはたくさんある。
 好きな漫画も最終話まで見たいし、彼女も欲しい。まだ行ったことのない外国にも行ってみたい。
 俺はまだ死にたくないっ!

「先生は教師失格だっ! そんな危険な事を生徒である僕にやらせようとするなんて!」
「もちろん、無理にとは言わない。けれど、もしインターネットに情報が残り続けたら、君が思い描く未来は一生やってこないかもしれない」

 確かにそうだ。俺が何もしなければ、俺の晒した顔写真はデジタルタトゥーとなり、インターネット上に残り続けるだろう。そしてそれが、進学や就職、結婚といった人生の岐路で足を引っ張る可能性は大いにある。

「それにこれを勧めているのは何も僕だけじゃないんだよ」
「えっ⁉︎」
「実はな……インターネットの世界に入って情報を消すように頼んできたのは君の母親なんだよ」

「ええっ⁉︎ それってどういうことですか?」

 母さんが既に俺が顔を晒したことを知っているという事実を言い渡され、頭の中で様々な感情が交錯する。

 いつかは母さんも俺が顔を晒したことを知るとは思っていたがまさかもう知っていたとはな……。というかなんで朝家出る前に何も言ってくれなかったんだよ。

「実は僕と君の母親は昔一緒にインターネット上の世界に行ったことがあるんだ」
「そうなんですか……えええええぇぇぇええ⁉︎」

 俺は驚きを隠せなかった。

 母さんが昔から秋見先生と知り合いなんて知らなかったぞ……母さんの昔話は嫌というほど聞いたのにそんなことは聞いた事が無かったな。
 でも母さんも母さんだよなぁ。あの世界が危険だって知ってるのに行かせようとするなんて……。

「20年前に僕も顔を晒してしまったことがあってね。その時に丁度IIDSが発売されたんだよ」
「先生も顔を晒したことがあるんですか?」
「まぁね……だから君が顔を晒したことに対して僕が君にとやかく言う権利はないんだ。それでIIDSを買ったんだけど間違えて2台買っちゃったから当時近所に住んでた君の母さんに画像消去を手伝って貰ってたんだ」

 間違えて2台買ってしまったと聞いて大爆笑した。

 間違えて2台買ったってどういう状態だよ。ドジな秋見先生らしいな。

「この話はここらへんにして本台に戻ろう。これ以上は言いたくない事もあるし…………」

 先生がそう言ったので笑うのを我慢した。言いたくない事というのが気になったが、言いたくないなら聞かないでおこう。

「君の母さんは自分のやってしまったことは自分でなんとかしなさいって言ってたよ。多分多田君に沢山の経験を積んで欲しいから死の可能性のある場所にも送りだせるんだよ」
「でも……」

 俺は正直言って不安だ。母さんに言われたことは守りたいけど死の可能性がある事はやっぱり怖い。

「一度起こした事はもう取り返しがつかない。だからこそこれからの君の行動が大切だと思うんだ。インターネットで晒し物にされて自分が死んだ後も晒されるのと画像を消去して少しでも晒されないようにするのではどちらがいい?」

 これは自分の運命を大きく分ける選択だと分かっていたので慎重に考えた。そして俺は答えを出す。

「やります! 死の可能性がある事は怖いけれども死んでからもネットの晒し物になるなんて嫌だっ!」

 俺は声高にそう宣言した。

 俺の判断はこれでいいのかは分からないけどもう言葉に出してやるって言っちまったしな……もうやるしかねぇか!

「よく言った!」
「あの……IIDSの機械ってどういうやつですか?」
「あの日焼けマシンみたいなのがあるだろう。あれがIIDSだっ!」

 話の流れで大体察してはいたが、一応聞いてみたらやはりIIDSだった。

 やっぱり不自然に2台も日焼けマシンが置いてある訳がないもんなぁ……。

「早速行ってみよう」
「えっ、今から行くんですか?」
「そうだよ。何事も速いほうがいいだろう」

 そういうと秋見先生は立ち上がりIIDSの前で立ち止まり、「さぁっ! 多田君もこい! 僕は先に言っているよ!」と言うとIIDSの中へと入っていく。

 俺は出されたお茶を飲んでから立ち上がると、もう一台のIIDSの中へ入った。
 IIDSの中には椅子のような物とモニターとコントローラーとヘッドギアがある。俺はコントローラーの電源ボタンを押し、IIDSを起動する。

 どうなるんだろう……間違ってないよな。

 すると画面にIIDSと表示され、次に『音声ガイダンスによるサポートを使用しますか』と出てきた。

 使用するでいいかな…………。

「アカウントを新規作成しますか?それともログインしますか?」

 アカウントを新規作成するかログインするかの選択画面がでてきた。当然アカウントは持っていないので、『アカウントを新規作成する』を選択する。

「アカウントを新規作成します。作成するアカウント名とパスワードを入力してください。アカウント名は変更不可能です」

 アカウント名はコテハンと同じチープでいいかな。パスワードもcheapでいいや

「同じアカウント名が既に存在します。別のアカウント名を入力してください」

 えええっ。安いなんて意味の名前をつける物好きが俺以外にいるのかよっ!

 俺は吹き出しそうになる。

 どうしようかな。秋見先生をアカウント名なんかで待たせる訳にはいかないし……。
 俺の名前の安弘の安と弘を反対にしてヒロヤスにするか!

 そう考えると俺は『ヒロヤス』と入力した。

「アカウント名『ヒロヤス』でアカウントを作成します。アカウントは変更不可能ですがよろしいでしょうか?」

 俺は『はい』を選択した。

「アカウントの作成が完了しました。次に身体のスキャンを行います。終了しましたとモニターにでるまで中央に立っていてください」

 音声ガイダンスに言われるがままに中央に立つ。

「身体のスキャンが完了しました。次にネット上のどこへ行くのかを入力してください」

 ええっと……BBS SPECIALっと。いくつか候補出てきたけどこれっぽいな。

「最後にヘッドギアを装着して椅子に座りマジックテープで体を固定して下さい。固定が完了した事が確認されたら仮想空間にワープします」

 なんか体をこんな感じに椅子に固定されてるとなんだか誰かに拘束されたみたいで変な感じだなぁ……。
 仮想空間ってどんな世界なんだろう……ちょっと楽しみだなぁ。

 俺は死への不安とは別に仮想空間への期待もしていた。

「準備が完了しました。これより仮想空間へのワ―プが始まります」

 すると目の前が一瞬にして激しい光に包まれる。

 ううっ…………眩しすぎるぞおおおぉぉ! これは目に悪いだろおおおぉぉ!

 15秒程すると意識がだんだん遠のいてきた。

 意識がっ…………。

 そしてさらに5秒。俺の意識が完全に現実世界から遮断された。

「うっ……ここは……どこだ…………?」

 気がつくと俺は原っぱに仰向けになって寝ていた。

「気がついたかい?多田君。ここはもうネット上の世界だよ。立ち上がって周りを見てごらん!」

 ふと呼ばれた方を向くと、先生が俺の隣で座っていた。俺は立ち上がり、周りの様子を見る。
 原っぱの先には現代的なビルが建っている区域と中世ヨーロッパの風の区域に綺麗に別れた町があり、異様な雰囲気に包まれている。そして、その町の中心には巨大な中世ヨーロッパの城がそびえ立っていた。

 ここが……ネット上の仮想空間か…………違和感が半端無いな。

「違和感が凄いと思っただろう。この建物はもちろんこの世界にあるものは全てインターネット上にアップされた画像や絵からできている。だからこのように異様な街並みになっているんだよ」
「そうなんですか……そういえば制服が軽くなっている気がするんですけど、どうしてですか?」
「体をスキャンした時に容姿、身長、体重の他に身体能力をスキャンしたんだ。それで体をデータ化する時に身体能力だけ10倍したんだ」
「どうしてそんなことをするんですか?」
「それはね。データに襲われても一撃では死なないようにしているんだ。人間の体は意外と脆いからね。それとデータに攻撃する時のためだよ」
「どうしてデータが襲ってくるなんて事があるんですか?」
「僕たちはデータを破壊しようとしてるだろう?それに対してデータは破壊されないように抵抗するんだ。君だって何かに襲われたら抵抗するだろう?それと同じだよ。その他にも攻撃的なデータが攻撃してくることもあるけどね。もちろん身体能力を10倍したからといっても危険な状態になる時はあるけどね。その時は警告がでてくるから逃げればいいよ。死んでしまったら元も子もないからね」

 一撃で死なないようにしていると聞いて少し安心したがそれでも危険な状態になると聞いてまた不安になった。

「あの空中を流れてる文字って何ですか?」

 空中には多数の文字列が浮遊している。

「あれはね。スペシャルのレスだよ。誰かがスペシャルに書き込んだものがそのまま反映されるんだ。あれは基本的に無害だから気にしなくても大丈夫」

『チープ安い顔してんなwww』

 よく見てみると、空中に浮かぶ文字列の中には俺が顔を晒したことについて触れられたものもあった。元はと言えば自分が蒔いた種ではあるが、無性に腹が立ってくる。

「多田君! 今から画像を消去しに行くよ!」
「どうやって画像を消去するんですか? 画像を見つけたら殴ったりすればいいんですか?」
「もちろんそれでもいいけどそれだと相手に近づく分、攻撃を受けやすいからこれを使うといいよ!」

 そういうと先生は刃渡30cmほどの短剣を差し出してきた。

「剣……ですか……?」
「そうだよ。身体能力は10倍になっているからこんな短い剣でもかなりのダメージを与えられるよ」
「でもどうしてこんなものを持っているんですか?」
「前きたときに拾ったんだよ。ログインするとログアウト前の状態からスタートできるからね」

 俺は一度剣を振ってみた。すると周りにそよ風が吹いた。

「凄いなこりゃ。一度振っただけでこんなになるのか」
「切れ味を確認する為に適当に空を流れてるレスを斬ってみて!」

「でもあんな空高いと届きませんよ」

 俺は『昨日顔晒した奴のコラ画像素材としての汎用性高杉ワロタ』というレスを見つける。レスはおおよそ上空5mほどのところにあった。

「言っただろう。身体能力は10倍になっていると」
「じゃあ跳躍力も10倍になっているってことですか?」
「そういうこと」

 俺は思いっきり力を込めて跳ぶ。

「いっけええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 俺は一気に空高く跳び上がりレスを短剣で真っ二つに斬る。すると斬られたレスは徐々に小さくなっていき、最後には完全に消えて無くなってしまった。
 自分の悪口を書かれたレスを思い切り斬る爽快感はとても気持ちよかった。

第2話

第3話

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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