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ネット掲示板に顔を晒してしまった俺が電脳世界で伝説となるまで 第3話

第3話

「おい! そこで何をしてる!」

 俺が俺の生首との初戦を終え、安堵していたのも束の間、緑のマントに身を包み、大剣を持った筋骨隆々な集団が現れた。

「ここは立ち入り禁止の場所だぞ! 看板が建てられていた筈だ! ここで何をしていた!」

 集団の先頭に立っていた男が問いかける。

「が……画像を消去しに来ました……」

 俺は生首を追いかけるのに必死で看板に気付かなかったのだろう。
 大声で怒鳴られて殺されるのではないかと死を覚悟して正直に此処へ来た経緯を話した。

「20年前にも同じような事を聞いたな……お前は異世界人だな?」
「は、はい……」

 こちらの世界から見たら、俺らの住む現実世界は異世界だから俺は異世界人という事になるのだろう。俺は正直に否定せず「はい」と答えた。

「この者を城まで連行しろ! こいつは異世界人だ! 生かしちゃおけない!」

 すると俺の手と脚を手錠で縛り、短剣を取り上げた。
 俺は何が起こったのかが分からずに混乱していた。

「待てよ! 俺が何したっていうんだよ! 離せっ!」

 謎の集団は俺の訴えに対し、聞く耳を持たずに無視する。
 俺は中世ヨーロッパの城に引きずられながら連行され、地下牢に収容された。

「俺を出せよ!」

 集団は何も言わずに地下牢から立ち去った。
 完全に集団の姿が見えなくなったことを確認すると無理矢理牢屋を壊そうと試みたが全くビクともしない。

「無駄だよ……牢屋は相当頑丈にできている」

 隣の牢屋から声が聞こえる。
 隣の牢屋に目線を向けると赤毛で鋭い目つきをした男が座っていた。年齢は20歳前後といったところだろうか。

「貴方は……?」
「俺はお前と同じ現実世界からやってきた人間だ」

 俺は20年前の事件があったため、もう来てる人は自分たち以外にいないと思っていた。しかし、その認識は間違っていたらしい。

「俺以外にもこの世界に来てる人が居たのか……貴方も何か自分の情報を消したくてこの世界に来たのですか?」
「いいや、俺はそういう目的で来たんじゃない。俺は20年前にこの世界で行方不明になった父を探しているんだ。他にもいろんな理由でここに来てるやつはいるぜ」
「そうなんですか」

 まだこの世界に来てる人は結構いそうだな……。

「どうすれば外に出れますかね……」
「分からない。ログアウトも試してみたが何故かできなかった」
「殺されるのでしょうか……」
「分からない……ただ外から来た俺たちを快く思っていないのは確かだと思う」
「そうですか……」

 俺は集団の先頭にいた男が俺が異世界人だと言った時に生かしてはおけないと言っていた事を思い出した。この男も牢屋に連れてこられる際に同じような事を聞いたのだろう。

「あのさ……俺に敬語使うのやめてくれないかな。違和感があって嫌なんだよ。タメ口でいいよ」
「分かった。そういえば名前は?」
「俺の名前はトカゲだ」
「そうか、よろしくなトカゲ。俺はヒロヤスだ」
「おう、そうか、よろしく」
「さて、ヒロヤス。どう脱出するかだが……」
「どうしようか……ん?」

 トカゲと牢屋からいかに脱出するかを話そうとしたまさにその時、階段の方から誰かが下りてくる音が聞こえた。その音を聞こえると、すぐに会話をやめる。
 階段からは集団の先頭にいた男が降りてきた。

「姫が呼んでいる。俺についてこい」

 そういうと男は俺とトカゲの牢屋の鍵を外す。そして俺とトカゲに手錠をするとついてくるように促された。そのまま階段を上り、廊下を歩き、大広間に入る。大広間の中には立派なシャンデリアが吊るされ、奥には玉座らしきものがあり、そこには茶髪でロングヘアーのドレス姿の少女が座っていた。

 あれ……どこかで見たことがある気がするな……気のせいかな……。

 どこかで見たことあるようにも思ったが、その既視感の正体は思い出せない。まぁこの少女もインターネット上にアップロードされた画像だろうから、俺がスペシャルを覗いてる時にその元となった画像を見たことがあったのだろう。

「姫、連れてまいりました」
「貴方達の名前は?」
「俺はヒロヤス」
「俺はトカゲだ」
「姫に向かってそんな軽い口を聞くなあぁぁぁぁ!」
「私は別に構わないわ。貴方こそ声を荒げるのを止めて下さるかしら。無理に姫だからといって敬語は使わなくてもいいわ」

 姫は彼を宥めると立ち上がり、近寄って来た。

「私の名はドリーム。貴方も名前を言いなさい」
「我が名はアルゴン。このスペシャル王国の防衛隊総隊長だ」
「さて、本題にいこうかしら。アルゴン、説明しなさい」
「承知いたしました」

 アルゴンはドリームに敬礼すると俺とトカゲの方に振り向き、説明を始めた。

「本来はお前ら2人は城に連れ帰り、刑場で処刑されるべきだったのだがな。お前らには俺が隊長を務める防衛隊に入ってもらおうと思っている」

 俺は処刑される事がないと安心する。しかし、それと同時に何故防衛隊に入らなければいけないのかを疑問に思った。

「何故防衛隊に入らないといけないんだ? 断ったらどうなるんだよ」
「今から説明する。黙って待ってろ!」

 当然の疑問だ。しかし、トカゲが言うとアルゴンがそれを黙らせる。

「なぜかというとな……全ては20年前、お前ら異世界人がこの世界に入ってきてから始まった。お前ら異世界人は情報破壊だとか言ってこの国を荒らし始めた。そして次第に異世界人はこの国の民を傷つけ始め、戦争になった。そして沢山の人が死んだ」
「だからこの国では異世界人は見つけ次第殺せっていう風潮があるのよ」
「異世界人共は訳が分からない位身体能力が高く、訓練を積んだ俺達防衛隊でさえ束にならないと勝てなかった。異世界人によってモンスター以外の国民は70%が殺され、そして防衛隊はお前ら異世界人によって95%もの隊員が殺された」

 秋見先生はこの世界で襲われて意識が戻らなくなった人もいると言っていたが、この戦争で死んだ人たちの事だろう。沢山の人が異世界人により殺されたのなら俺達を憎んでもおかしくはないか。

「あ、モンスターっていうのはね、立ち入り禁止地帯に住む生物達の事よ。彼らは気性が荒いから彼らの住む地帯は立ち入り禁止になってるの」
「ヒロヤスは立ち入り禁止地帯でモンスターとの戦闘を行ったみたいだな」
「えっ⁉︎ どうして分かったの?」

 俺がアルゴンと出会ったのは戦闘終了後だった筈なのに戦闘した事を言いあてられて驚く。
 戦闘の一部始終を観ていたのかとも一瞬思ったが、捕まった時に何をしていたかを何度も訊かれたのでそれはないだろう。

「それはね。私は魔法を使えるの。魔法で分かったのよ」
「魔法だと……」

 俺はドリームの魔法を使えるという言葉に心底驚いた。
 この世界には魔法までもが存在しているとは思っていなかった。

「この世界には魔法まであるとはな……」

 トカゲも驚きを隠せない様子だった。

「貴方達の世界に戻れなかったでしょ。あれも私ができないように魔法で結界を造ったの」

 ログアウトできなかった理由が分かって少し安心した。

「本題に戻ろう。今この王国には脅威が迫っている。お前らにはその脅威を打ち破って貰おうと考えている」
「断ったらどうなるんだ?」
「その場合は直ちに貴様らの首が飛ぶことになるぞ」

 そういうとアルゴンは自身の背丈ほどの長さの大剣を鞘から抜き、俺とアルゴンに見せつけた。筋骨隆々なアルゴンにこの大剣を振るわれれば、俺の命はないだろう。俺は心の底から震えあがり声が出なかった。

「生きるか死ぬか2つに1つ選びなさい! 私は他にも仕事があるの!」
「早くしろ! 姫のお手を煩わせるな!」

「そうだな。今一納得はいかないが俺の目的を果たすためのヒントとなるかもしれないからいいだろう。防衛団入隊してやる」
「わ、わかったやるよ」

 焦りから後先考えずに防衛団入隊を承諾していた。だが、断った場合、何の為す術もなく大剣により殺されていただろう。

「手を差し出しなさい」

 ドリームはそういうと俺とトカゲは恐る恐る手を差し出す。ドリームは2人の手に触れる。すると触れられた手はやがて七色に光り出した。俺はこれが魔法によるものだと一瞬にして理解する。そして、七色の光が消えるのを確認するとドリームは手を元に戻した。

「これで契約は完了よ」
「今何したんだ?」
「貴方達が防衛団に入隊して脅威を退けるという契りをかわしたのよ。脅威がなくなるまでは解消されないわ。ちなみに破棄しようとしても無理やり呼び戻されたりするから無駄な事はしないことね」
「それって俺らの世界に戻れるのか?」
「貴方いちいちうるさいわね! 私たちが外の世界に干渉することで何か起こってもいけないから極力魔法で貴方達の世界に干渉することは避けてるのよ! だけどあまりにも長い間この世界にこないというならその限りではないわ」

 トカゲの質問攻めに対してドリームは声を荒らげて答える。

「そろそろ時間だ。姫も暇ではない。脅威のことや防衛団のことなどは後で追って話す。今日は帰れ」

 そういうとアルゴンは数人の隊士を引き連れ、俺とトカゲを城の外まで連れ出した。そこで牢に連行された際に取り上げられていた短剣を俺に返し、城の中へと戻っていった。

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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