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ネット掲示板に顔を晒してしまった俺が電脳世界で伝説となるまで 第2話

第2話

「おおーっ! 多田君は筋がいいね。でも今のは練習だよ。本当の敵は攻撃してくるから油断するなよ」
「はいっ!」

 そうだ。本当の敵、つまり俺の晒した顔は動く! それを念頭におかないと命取りだな……。

「そういえばアカウント名を聞いていなかったね。この世界ではアカウント名が自分になるんだ。アカウント名を教えてくれ」
「えっと……確かチープじゃなくて……ヒロヤスだ! 僕の名前はヒロヤスです!」
「そうかヒロヤスか。あ、僕のアカウント名はネタにされたりしそうだから今まで通り先生でいいよ」

 アカウント名は気になるけど別に聞かなくてもいいや。どうせアカウント名はもやしだろうし……ネタにされるとすればそれが一番可能性あるからな。

「じゃあ学校へ戻ろうか。今から帰れば2時間目の授業には間に合うだろうから」
「あっ……学校の事忘れてたっ!」

 俺は学校についてすぐに先生に呼ばれてここへきたことを思い出した。
 それと同時になぜ学校が終わった放課後ではなく学校で授業が始まる直前に呼ばれたのかを疑問に思った。

「そういえばどうして学校が終わった後じゃなくて授業前に俺を呼んだんですか?」
「夜はちょっと仕事があるんだ。それにできるだけ画像が拡散する前に消去の仕方を教えて家に帰ってすぐ画像消去に向かえるようにしたかったからね」
「えっ? 家に帰ってからすぐにってどういうことですか?」
「いちいちここに来るよりも家から来れたほうがいいだろう。もちろん許可も取ってるしね。君が家に帰るまでには運んでおくよ。それじゃあログアウトしようか」
「分かりました。で、どうやってログアウトすればいいんですか?」
「ログアウトって叫べばいいんだ。設定された声量を超えるとログアウトするよ」」
「なんかシンプルですね。もっと難しい事をしないといけないと思ってました。じゃあログアウトしていいですか?」
「いいよ。やってごらん」
「ログアウトオオオォォォォォォ!」

 俺の凄まじい声が辺り一面に響いた。
 すると、この世界に入った時と同様に意識が遠のいていく。
 そして、気がついた時には現実世界に戻っていた。

「ログアウトが完了しました」

 俺は固定していたマジックテープを外してIIDSのマシンから外へ出る。
 俺が出て少ししてから先生もIIDSの中から出てきた。

「じゃあ学校に戻ろうか」
「あ、はい」

 俺は再び先生の車に乗り学校へ戻った。車内ではずっと不思議な気分だった。
 俺は顔を晒した事やネット上の仮想空間の事など色々な事が昨日と今日であり過ぎて、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。



「おーい! 多田! 起きろ! 学校に着いたぞ」

 俺はいつの間にか先生の車内で寝てしまっていたらしい。
 俺はまだ眠かったが流石に先生の車内で寝ている訳にもいかないので起き上った。

「今はちょうど1時間目の授業と2時間目の授業の間の休み時間だから休み時間が終わらない内に教室に戻れ」

 俺は先生に言われると急いで学校の校舎内に入って教室に向かった。
 教室にたどり着くとギリギリ間に合った。

「おおっ! 安弘が戻ってきた!」
「お前もやしと何処行ってたんだよ」
「まぁ色々とあったよ」

 また関わると面倒な連中が寄って来たので適当に受け答えをした。どうせ話しても顔を晒したことを馬鹿にされるだけだし。
 周りでは女子が俺の方を見て笑っているが、これも気にしない方がよさそうなので放っておく。

 2時間目の授業が始まってもずっとネット上の世界の事で頭がいっぱいで授業に集中できない。
 気がつくと6時間目の授業も終わっていた。今日の授業は6時間で終わりで帰りの会もないので俺は部活に向かおうとした。こんな状態で部活に出るのもどうかと思うが、秋見先生には平常心を保つためにも部活には出ておいた方がいいと言われている。

 やばい……部活に集中できない……。

 俺は部活でも顔を晒した事ばかりを考えてしまい、全く練習に集中ができないでいた。

「おい! 安弘! ちょっと来い!」

 俺を呼んだのはサッカー部の顧問の先生である川越先生だった。先生は気が抜けている事をすぐに見抜くことができるので、多分俺が練習に集中できていない事についてだろう。
 俺は走って、川越先生の所へ行った。

「川越先生何ですか?」
「安弘。お前今日調子悪いぞ。疲れてるんじゃないか? 今日は帰って休んだらどうだ?」
「いえ、大丈夫です」
「いいや。もうすぐで大事な大会もある。無理に練習し続けて怪我でもしたらお前だけじゃなくてチームにも迷惑がかかるから今日のところは帰ってしっかりと休め!」

 俺は集中できないだけで疲れているわけではないが、ここまでくるともう川越先生は何を言っても聞きいれてくれないので帰ることにした。
 仮想空間に行く必要がある俺には、丁度よかったかもしれない。

「分かりました。帰ります。さようなら」
「今日はしっかり休めよ!」
「はい」

 俺は急いで門を出て家へ帰った。

 まさか帰らせれるとは思わなかったな……秋見先生もう来てるといいんだけどなぁ……あっ。

 俺が家の前の道に着くと家の前に秋見先生の車があるのが見えた。

「秋見先生! 帰ってきましたよ」
「おお! 良かった早く帰ってきてくれて。家からIIDSを運び出して車に入れて来たのはいいもののよく考えたら鍵があいてる筈がないだろう? 遅くまでずっと待つ事になるかと思ったよ……家に入れるのを手伝ってくれ」

 俺は先生の話を聞いて、改めて先生はドジだと思う。
 俺はそう言われると秋見先生とIIDSを運んだ。IIDSはかなりの重さだったのでどうやって家の中から車まで運び出したかが謎で仕方なかった。まあ、誰かに手伝ってもらったのだろう。

「ふぅ……運び終わったな……じゃあ僕はまだ仕事があるから後で仮想空間に行くから先に行っていてくれ。あ、そうそう、朝は制服で行っちゃったけどこれからは動きやすい服でいいよ」

 そういうと秋見先生は車に乗り帰って行った。

 さてと、俺も行きますか!

 俺は黒いジャージに着替えてIIDSの中に入った。
 『アカウントを作成しますか? それともログインしますか?』という質問に『ログインする』を選び、パスワードを入力してログインする。そこからは朝と同じ手順を踏んで、インターネットの世界へと入った。

 うっ……やっぱり眩しいけど朝ログインした時よりは眩しいことを事前に分かってたからまだマシかな……。

 辺りを見渡し、ワープした先がまた朝と同じ原っぱだということを確認する。
 俺は短剣が自分の手元にある事を確認すると立ち上がった。

 先生が来るまで時間あるから散歩してようかな……ここがどんな所なのか見ていたいし。

 俺は町を歩いて回った。
 それなりに大きな町な上に、大通りを歩いているので、当然の事かもしれないが人がいて賑わっている。おそらく俺のように現実世界から来た人間ではなくこっちの世界に住んでいるデータ上だけの存在だろう。

 やっぱりいろんな種類の建物があると違和感があるな……なんか人が減ってきている気がするな……。

 俺は歩いている途中で暗く人のいない細い路地裏に入ってしまった。路地裏で迷うのが嫌なので人が多く居る大通りに戻ろうとする。そんな時だった。

「ん?」

 俺は後ろ建物の陰から視線を感じたので建物に近づいてみた。

「これは……俺……なのか?」

 建物の陰には俺の顔そっくりな生首が跳ねていた。その生首は俺の顔を見ると跳ねながら一目散に逃げ出す。

「待てっ!」

 俺はすぐに俺が晒した顔だと理解する。首までしか写真に写ってなかったので胴体がないのだろう。
 逃げる俺の顔をした生首は必死に逃げるが、俺の身体能力は10倍になっているため、すぐに距離が縮まった。

「よし……!追いつめたぞ!」

 俺は裏路地の奥の行き止まりまで追いつめ、剣を構える。

「いっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 俺は勢いよく、剣で生首を斬り裂く。
 しかし、傷が浅かったのかまだ完全に消滅していなかった。確実にダメージは負っているように見えるものの、空中に浮遊するレスを攻撃した時とは違い、原型を保っている。

「レスの時みたいに一発じゃ無理か……もう一度っ!」

 もう一度剣を構えて斬りかかろうとした時、生首は俺に突っ込んできた。

「くっ!」

 間一髪のところで避けることに成功した。
 そしてもう一度剣を構え、斬り裂く。すると今度は完全に顔が消滅した。

消去デリートできたのか……」

 俺は安心してそのまま地面に座り込む。
 今は突っ込んできた生首を避ける事ができたが一瞬ひやりとした。今度も同じように避けられるとは限らない。身体能力が10倍になっているので一度攻撃を受けても死ななかったとしても攻撃を受けて体勢を崩し、そのまま攻撃されてしまうという事も考えられる。いくら体が頑丈になったからといっても攻撃を何度も受けたら死んでしまう。俺は改めて死への恐怖を感じた。

#創作大賞2024 #漫画原作部門


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