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公務員のタマゴに伝えたい話 R5

 令和5年度が始まる4月1日です。
 私がnote街に初投稿してから丸三年が経過し、4年目の初日です。
 ということで「原点回帰」しまして「福島太郎が生まれた理由」である「公務員のタマゴに伝えたい話」の冒頭部分をリライトして投稿です。
 内容は、3年前に投稿しkindle出版した原稿と同じですが、表現の違いなどを読み比べていただき、「成長した」と感じていただければ嬉しいです。
 もちろん、公務員以外の方にお読みいただいても楽しんでいただけると自負しています。

【以下、本文です】

1 公務員とは職業ではなく「生き方」です

 ―それも、今どき清廉潔白に生きねばならぬのです―

 この見出しを読んだ方は「いや、職業ですよね」と考えると思います。
 ですが、私は「地方公務員」として「窮屈な人生」を過ごしています。採用される前に予想できず、失ったものの大きさに戸惑いを感じていますので、大きな声で断言します。

 公務員とは職業ではなく「生き方」です。

 さて、皆さんが「公務員」と聞いて、真っ先に思い浮かべる言葉は「安定」ではないでしょうか。もしかしたら「楽」とか「怠慢」、「仕事しない」というような言葉が先になるかもしれません。

 私は「安定収入」に魅力を感じて公務員という職業を選択しました。父が不安定な仕事をしていましたので、毎月確実にお給料をいただけることが大きな魅力でした。
 ところが、最初に国家公務員として採用され、念願の「安定収入」を得ましたが「生まれ育った地元のために力を発揮したい」という地元意識が強くなり、地方自治体に転職しました。

 希望どおり転職して地元に戻りましたが、今度は家族や親戚、地域の方など、周囲の方々から「求められるもの」が多くなりました。
 専門領域の業務を行う国家公務員と異なることもあり、役所の事業全般に対する意見や「首長・他部署への不平不満」などを聞かされることに加え、普段の生活における「倫理感・公平性・地域貢献」など、高い見識と実践が求められることになりました。
 自分の性格や信条に関係なく、常に「公務員だから」「公務員のくせに」という前置きの中で、清廉潔白な生活を過ごさなければならなかったのです。

 具体的には、町内会、PTA、育成会などの役員を断れず、奉仕活動などの行事も欠席できません。赤い羽根や緑の羽などの募金活動もノルマ的に参加させられます。
 職場だけではなく、私生活での近所との諍い、理不尽な話、民間事業者の雑なサービスなどに対する、日頃の態度・言葉使いも、丁寧に応じることが必要になります。
 これが、日常生活はもとより、飲み会でも、遊びの場でも、同級生との関係でも、一生ついて回ります。
 時には「飲み屋・パチンコ屋・雀荘など」で、たまたま隣に座っていた方が、翌日に職場の窓口に相談に来るなんてこともありますので、息抜きの場にも「行きにくい」などの制約が生じるのです。

 もちろん「気にしない」「自分らしく生きる」という選択をしている方もいらっしゃいますが、実践することは難しいのが現実です。
 お読みの方は「公務員になることは、安定を得ると同時に窮屈な人生に縛られる」こと、つまり「公務員という生き方になる」ことを、覚悟してください。
 なお、この「窮屈な人生」については、業務内容や人事異動の範囲などを考えると、
国家公務員≦県職員≦市町村職員になると考えています。

2 行政という仕事のこと、ご存知ですか

 固い話になりますが、公務員には「行政職」という側面があります。また「三権分立」という考え方は「立法・行政・司法」と整理されています。
 しかし、不思議なことに「行政」という言葉には、法律上の定義が無く、学術的には様々な議論がある、とても曖昧なものになるのです。
 公務員として行政に携わることは、この「曖昧で不安定な世界」で生きていくことになります。ここが意外に知られてなく、「固い仕事」と考えて公務員になった方が抱くギャップになるとも感じています。個人的な考えになりますが、

行政とは「法令等の具現化」であると考えています。

 「行政」について「国の統治権から立法・司法を除いたもの」、「住民福祉の向上のための政務」、「市民サービス」などの考えもあるようです。
 ですが、これらの考え方では、あまりにも領域が広すぎますので、行政の役割については「法令等の具現化」と定義することが「三権分立」、「法治国家」、「国会は国権の最高機関」などとの整合性がとれると考えています。
 少し柔らかく表現するとしたら
「定められた法令等を根拠に仕事をするのが行政です」
ということになります。

 生活の秩序を守るために、一番大事なのは法令等の「ルール作り」になります。
 国民を縛るルールとしての法律を作るのが国会になりますので、国会が国権の最高機関と言えると考えています。そしてルールをどのように運用していくかが、内閣をはじめ、国や自治体などの行政の仕事になります。
 運用というのは、事業を行うための予算を編成し、さらに政令や省令等の細かいルールを作り、生活している市民の方々にサービスを届けることです。この一連の流れを「法令等の具現化」と表現しています。

 この軸をしっかり理解しておかないと、日々の職務の中で公務員としてのあり方や価値観、考え方について、悩むことにつながる気がします。現場では様々な方々から
「アレをしろ、コレをどうにかしろ、市民が困っている」
という要求・要望を受けて、「どうしよう、どうすればいいのか」と追い込まれてしまうからです。
 特に、市民の方々と接する際には、迷い苦しむことになります。多様な価値観に基づき、時には矛盾するような言葉を投げかけられ、対応や回答を迫られるのも公務員の業務です。
 例えば「子育てのために公園が欲しい」という方もいれば「公園を作られたらうるさくなる」という方もいます。どちらも正しい意見ですので、間に挟まれて苦しむことになります。

 また、市民の方々と接する際に、投げかけられる言葉として多くあるのが
「今まで税金を納めてきたのに、役所は何もしてくれないのですか」
という内容です。
 マスメディアの番組や記事などで「困ったら行政に相談」などという不適切な意見や助言を行う方もいるせいか、また、時に政治家の方なども同様の趣旨の発言を行うためか
「困ったら役所が助けてくれる」
と考えて窓口にいらっしゃる方がいます。また、
「こんな事業(イベント)を行いたいのですが、補助金は貰えますか」
「移住や創業をしたいのですが、どんな支援がありますか」
と、事前の調査も不十分なまま、役所の支援があると思い込み相談に来る方もいます。

 このような話を受けた職員の中には「住民福祉」、「市民サービス」の考えのもと
「行政として何とかしてあげないと」という考えになる者もいます。
しかし、私はこのようにお答えします。
「お話は伺いましたが、ご要望にお応えはできません」
市民の方々からの相談・要望等に対して
「趣旨は理解いたしました。ですが、何もできることはありません」
と応えることになります。

 市民の方々からの相談は多種多様・千差万別ですが、法令等に基づく制度は、画一的かつ平面的な内容が多く、年齢や時期、内容などの条件が厳しいので、市民の方々の要望等と合致しないことが多いのです。制度は市民のかゆいところに手が届くようにはできていないです。
 そのような意味で「行政」というものが「住民福祉の向上のための政務」、「市民サービス」などの多様なニーズに応えるという考え方は、現実的では無いのです。
 
 なお、後出しで恐縮ですが、ここでいう「法令等」には、「法律・規則・条令」などの「明文規定」はもちろん、これらに基づく「計画」「制度」なども含みます。
 そのような意味で「法令等の具現化」を、もう少し細かく表現するなら
「法令等に基づき制度を構築し、正しく運用すること」
になります。
 なお、「制度を構築する」のは、タイミングもありますので、行政職員が誰でも携われる業務ではありません。どちらかと言えば、その運用、作業的な業務が多いです。
 機会に恵まれ「制度の構築」を担当する場合は、やりがいがある、面白い仕事になります。利害関係者との調整や、鬼のように厳しい期限、厳しい議会対策など、その瀬戸際の感覚も含めて、やりがいと面白さが同居していると考えています。

3 法令等は守るものではなく、使うものです

 おそらくですが、公務員を目指す方に対するどんな本を読んでも、ここまで踏み込んだ表現は無いだろうと考えています。

 先に行政について「法令等の具現化」「法令等に基づく制度の構築運用」と書きましたが、一般的に「法律」というものは、とても漠然とした表記です。それを補足するため、国では「政令」や「省令」を定め、さらに自治体に対して「関係通知」や「技術的助言」も発出します。
 また、近年の傾向として『法律に基づき国・県・基礎自治体は計画を作成する』ということが多くあります。そして、この計画に基づき、さらに具体的な制度を構築し、予算を確保し、事業を企画・運用します。

 このような状況で地方自治体の現場では、次年度の予算折衝を行う際、
『この事業については、「○○法」により策定された「△△計画」において「□□の支援を行う」としたので、次年度の事業として企画します』
 という説明をして予算を確保し、さらに、事業に必要な条件を定義する要綱等を作成するなど、法令等の具現化に向けた業務を行います。
 なお、このような「計画」については、地方自治体の担当部署が自由に策定できるものではなく、国・県が策定する同種の計画との整合性が求められますし、策定までの手順についても法令等に明記され、庁内外の策定委員会などにおける審議、国の承認を得るなどの手順が必要になります。

 その御褒美として、計画が策定された場合に、国からは事業に必要な財源が措置されることもあります(このような経過で、結果的にどの自治体も似たり寄ったりの計画を策定することになります)。
 このような時に法律の趣旨や表現、行間を正しく理解し、自分の自治体に使いやすいように表現し、計画に盛り込むことが、職員としての手腕になると考えています。

法令等は守るものではなく、使うものなのです

 このことは、計画の策定時だけではなく、計画の見直しや、地域課題に対応した事業を企画する場合などの運用時にも、使える方法になります。
「法令等を利用し、自治体に国からの財源を引き込む」
「計画を生かして事業を具体化し、地域課題の解消に向かうこと」
は、自治体職員の重要な実務になります。
 異論もあると思いますが、私の経験から、公務員を目指す方に、最も伝えたいことを最初に三点、御紹介しました。

 なお、このように「結論から語る」というのも、業務を遂行する上で大事な技術の一つになります。

【本文ここまで】

 長文であるにもかかわらず、ここまでお読みいただきありがとうございます。
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 私がこのような考えに至った背景・詳細については、こちらの本で確認していただきますようお願いします。
 不整脈・心不全・コロナに怯えながら「書かずにタヒにたくない」と考えながら執筆していたのが、遠い昔のようです。

 ※「公務員のタマゴに伝えたい話」は「公務員のタマシイを伝えたい話」なので「公タマ伝」なのです。
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