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ミラクルミッション #6探しものは何ですか、見つけにくいものですか

 GWをはさみながら、S商事とメール・電話で情報交換、農家との仲介などをする中、漠然とではあるが
「農業を中心とした復興支援」
という共通認識が生まれつつあり、筆者が窓口となっているものの、必然的に農業振興係長に相談することが多くなる。

 打ち合わせ初日こそ、斜に構えていた農業振興係長も、S商事からのアプローチを受け、かなり信頼感を高めつつあった。しかし
「筆者君、農家さんは協力してくれると思うけど、実際、当市で事業展開するのかい」
という懸念を抱き始めることも当然であった。

 壁になるのは事業用地である。
S商事と我々のもう一つの共通認識が「福島県の復興支援」である。今のところは、当市役所に相談していただいているものの、県内で他に良い土地があれば、拠点がそこになる可能性が高い。
 市内の農家さんに協力していただくにあたり、拠点が市内と市外ではモチベーションに違いが出るのは明らかである。

S商事からは折に触れ、
「良い事業用地はありましたか」
との問いがあるが、
「鋭意、探しています」
と回答をするしかなく、忸怩たる思いが募っていた。

 あまり情報を拡散させたくはなかったが、通常の市役所ルート、交流のある不動産業者の情報では候補地が全く出てこないことから、「耕作放棄地」などを含め、市役所の出先機関である支所の職員にも、事業用地の情報提供を呼びかけることにした。
 情報提供と言っても、電話をして
「事業に使えそうな、空いている土地は無いですか」
と聞くだけのこと。
「何に使うのか、誰が使うのかは教えられないですが、地主が協力してくれそうな土地に限ります」
という無茶な条件を付けていましたが。

 9つある支所の職員に情報提供を呼びかけていく中、田原支所の職員から、意外な回答を得た。
「田原の東のはずれに、何も使ってない市有地があるよ。細かい住所は知らないけど、担当は農政課のはず」
(えっ、農政課? 最初の打ち合わせにも参加していたし、土地探しについて、協力のお願いにも行ったし、耕作放棄地の情報をもらったりしていたけど、そんな土地の話一言も聞いてないよ)
 田原支所との電話を切るやいなや、農政課にかけつけた。

 担当者によれば、昭和の終わりに防衛省から押し付けられて、旧訓練用地を取得したものの、その後25年以上に渡り用途がなく、一時期は「市民菜園事業」を模索したが頓挫し、塩漬けになっていた土地があるとのこと。
 そして、地元からは早期活用の要望があるものの、良い企画もなく、もてあましている状況とのことである。

 合計2.5haの「宅地」。
 農業振興地域でもなく、都市計画法の用途地域で言えば無指定地域。市で使う計画も展望もない。
(これはいけるか。何をやるかはともかく、法的には規制が少なく自由)
 農政課から円滑に資料を入手し、はい、あくまでも円滑に渡していただき(分捕り)、すぐさまS商事にメールを送付した。
 5haという希望には足りない面積ではあるが、手を上げなければそこで話が終わってしまう。0と1は大きく違うはず。
 まずは、候補地としてステージに上げて欲しいとの思いがあった。(あきらめたらそこで試合終了です。)

 S商事へのメールを送信後、1時間ほど間をおいてから、あらためて農政課に電話する。
「先ほど、お預かりした田原の資料ですけど、S商事案件の候補地として、資料を送付しても良いですか。もちろん、筆者が送りますので、お手数はかけませんよ」
 この土地について、農政課から情報提供が無かったことについて、文句の一つも言いたいところを我慢して、資料送付の承諾を得た。(まぁ、駄目と言われても後の祭りだ、ピーヒャララです)
後は、S商事が興味を示してくれるかどうか。

「是非、現地を確認させてください。こちらの都合で恐縮ですが、私の上司も連れていきたいので5月16日に訪問します。筆者さんの都合は大丈夫ですか。また、時間がないので、市役所に立ち寄らず、駅から直行します」
「私はもちろん大丈夫です。S商事さんを駅にお迎えにあがります」
自分のスケジュール、車両の空情報を確認することなく、直ちに応えた。


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