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医療用麻薬で治療をしているときに見た幻覚3選

重症急性膵炎闘病記の第2回です。第1回はこちら↓

重症急性膵炎と診断され入院してから3日目、「呼吸が破綻しとる。集中治療室(ICU)にブチこまんとダメだ」という判断が下り、さらにおっきな病院へ転院が決まります。このときにはもう痛みと苦しみでヘロヘロになっており、「なんでもいいから早くなんとかしてくれ」という気持ちでした。

また救急車に乗せられておっきな病院へ。到着後すぐ「入院は1カ月どころじゃすまない。ワンチャン死ぬからよろしく」と言われたそうです。僕は速攻で鎮静剤などをブチこまれて長く深い眠りについたため、そのへんの流れはだいぶあとになってから妻に聞きました。でも薄れゆく意識の中で「マジでもう酒やめな。死ぬよ」と言われたのは覚えてます。

薬の影響(?)で視界がグニャグニャになる

この時期の僕の状態としては大体こんな感じ。

  • 自力での呼吸能力が終わってるので呼吸器をつけられる

  • 絶飲絶食で大量輸液

  • おむつと尿道カテーテルを入れられて垂れ流し状態

  • 痛みやアルコール離脱の症状で終わってるので鎮痛剤などでほぼ眠らされてる

簡単に言うと全身管まみれの汚ねぇ眠り姫状態になっていたわけですが、自分にはこの時期の記憶がほとんどありません。というとちょっと違う、起きている時間もあったし明確に記憶はあるんですが、今思うと明らかに現実ではありえない記憶がある、要するに幻覚を見まくっていたのです。

鎮痛・鎮静には実際医療用麻薬の類も使われていたそうで、それらの影響もあったのかもしれません。状態としても「せん妄(幻覚が見えたり時間や場所がわからなくなったりめちゃくちゃなことを言い出したりする症状)」が出やすくなっていたとのことで、よく「今どこにいるかわかりますか?」「今日は何日ですか?」などアホみたいに簡単な質問を毎日されました。そして「甘く見るな、僕は保育園を卒業しているんだ」と自信満々に回答して半分くらい間違えるなどしっかり支離滅裂でした。(それでもせん妄と判定されたことは1回もなかったらしい。ほんとかよ)

夢を見ている最中はどんなに無茶苦茶な設定・展開も自然に受け入れてしまうように、幻覚を見ている最中はそれが幻覚であることに気付きません。例えば病室のベッドから見える時計が全て長針も短針もグニャグニャに曲がっていて「この病院なんでクセ時計ばっか置いてるんだ、医者の趣味か?」とか思ってたんですが、もちろん全部幻覚でした。グニャグニャなのは僕の視界だった。

マジでダリの絵みたいに見えてた

自分は酒は飲んでもクスリの類は合法非合法問わずキメたことがなかったため、医療用ドラッグの影響で見る幻覚の世界というのはいろいろと強烈でした。今回はそんな頭ラブアンドピース状態で見た幻覚の中から、印象的な幻覚3選をお送りします。

魂的な意味でヌキありのメンエス「三途エステ」

とにもかくにも鎮静化の処置を受けた僕はようやく痛みから解放されました。こんなに苦しい思いをしたんだから少しは羽を伸ばしたい。というわけで病院を抜け出して馴染みの街・池袋に繰り出しました。(という夢とか幻覚です)

まず思ったのは「お風呂に入りたい」ということ。しかし、病気のダメージはまだ残っており1人で銭湯などに行くのはしんどい。そこで思い出したのが「池袋には女性が体を洗ってくれるタイプのメンズエステがある」ということでした。(妻へ:僕は行ったことないです)

この手のタイプのお店は実際に入店してみるまで本当に体を洗うだけでおしまいかその先のムフフなサービスがあるかはわからないらしいのですが、僕は純粋に体を清めてほしいだけなのでうん何も問題はない、と清い心で入店。するとなんということでしょう。現れた女性は早速私の私そのものへ手を伸ばし握ったり転がしたりし始めたではありませんか。

ところがこれが全然気持ちよくない、っていうかすごい気持ち悪かった。なので「そういう性的なアレはいらないんで洗体だけやってください」と丁重にお断りしました。現実では尿道におしっこを採るための管を直接ぶっ刺された状態で看護師に体やおちんちんを洗ってもらっていたのでこういう夢を見たんだと思いますが、僕はかなり後になるまで実際にあったことだと思い込んでました。実際におちんちんを洗われていたのが悪い。

退院後にラジオでこの話をしたら「それでイッたらほんとに逝ってたんじゃねえか」と言われました。逝かなくてよかった~。

母親も「あの三途エステ?の話、笑ったわ」と言ってました。笑うんだ

「病気というゲーム配信」をしているだけだと思い込む

大変お恥ずかしいことに私は15歳のころには学校にも行かずインターネットにどっぷりだった人間で、大学を留年するころには社会にも出ずにゲーム実況動画や配信などの反社会的行為に完全に身を落とした愚か者でございます。そんな人間がインターネットのないICUに隔離されるとどうなるか。「俺は今入院というコンテンツを配信しているんだ」という幻覚を見るようになります。

これも現実との境目がややこしい幻覚というか夢なんですが、最初は「夢の中でだけネットがつながる」というような設定でした。そんで夢の中で「急性膵炎になったときに飲みたいものランキング20」みたいなクソブログを書いたりして、起きてから「ああ、ネットないからアップできないじゃん」って気付いたりしてました。そもそもどこに需要のある記事なんだ。

そんな風に毎日ネットをする夢を見ていたある日、自分はこの状況が全てネット配信されていることに気付きます。PCやスマホで配信してるんじゃなく映画の「トゥルーマン・ショー」みたいな感じで第三者的に中継されてるイメージで、しかもそれはゲームプレイだということを理解します。「あ、そうか、俺VR急性膵炎の実況プレイしてるんだった」みたいな感じです。

この辺りはどこから夢でどこから現実だったか今でも定かでないんですが、容態が悪くなったときも「そうそう、ここで高熱が出るんですよね」とか言って既プレイぶったり、初めての看護師さんが担当してくれたときに「新キャラとのフラグ立った」と思ったりして、だいぶヤバイやつでした。

この明らかに夢みたいなことを現実だと思い込むって感覚は伝わりづらいかと思うんですが、こういうのキリないくらいあって思い出すほど自分で怖くなります。ひとつはっきり覚えてるのはベッドの上に化け猫(魔法陣グルグルの「長い声のネコ」みたいなやつでした)が見えて看護師さんに「そこ!そこ!」って指差したら何にもいなくて、そのときはっきり「あ、俺幻覚見えてるんだ」と理解して苦笑したときがありました。看護師さんからしたら「なんだこいつ…」って感じだったと思います。

殺人事件に巻き込まれ死を覚悟する

これはもうはっきりせん妄とかの類なんじゃないかと思いますが、入院している病院の医師や看護師が全員結託して僕ら(患者)を殺そうとしている、という幻覚が一番強烈でした。陰謀論とか信じる人の見てる世界ってこうなんだな、って今なら思うけど当時はガチでした。順を追って説明します。

入院中のある日、分厚い手袋のようなものをはめられ両手を固定されました。寝てる間などに大切な管を間違って抜かないようにする措置で、薬その他の影響などでわけわかんなくなってそういうことしちゃう患者さんがいるんだそうです。私です。

拘束を素直に受け入れた私ですが、どうも周りの様子がおかしいことに気付きます。深夜なのに髪を青く染めたヤンキーみたいな人たちがバタバタと院内に入ってくる。怖いので追い出してほしい、と思っているとなぜか先生や看護師さんも普通に受け入れている。そう、実はこの病院は半グレとズブズブの関係にあったのだ!(注:救急の患者さんが運ばれてきて深夜にバタつくこともあるし手術の際などはみんな青いキャップを被る)

断片的に聞こえる医師らの会話を聞いて僕の灰色の脳細胞が導き出した結論、それは「この病院を隠れアジトとして使っていた半グレ集団は今夜大きな犯罪に成功し多額の金を得た。しかし一方で警察に追われる身となった。そこでこの病院の患者たちを医療ミスに見せかけて殺し、その騒ぎの隙に海外へ高飛びすることにした」というものでした。みなさん、何言ってるかわからんかもしれませんが頑張ってついてきてください。

やがて看護師が見回りにやってきて呼吸器や点滴などを触っています。医療器具の設定ミスに見せかけて僕を殺害する気に違いない!(注:いつもやってるチェックです) 突然大事件に巻き込まれ命の危機に晒された僕の心臓がバクバクと音を立てます。このままでは……殺される!(注:生かしてくれてます)

しかし自分は全身が管でつながれて寝たきり状態。逃げ出そうにも身動きがとれないし、自分が病院の何階にいるのかすらもわかっていません。このまま無力な患者として死を待つしかないのか。でもそんなものなのかもな。そうか、このまま死んじゃうのか俺。わりと人生諦めがちな性格もあってか、このときは本当に事件に巻き込まれて死ぬことを受け入れかけていました。

やがて少しずつ意識が遠のいていく感覚がありました。ああ、このまま呼吸ができなくなって死ぬんだ、と思いました(注:薬が効いて眠くなってきたんだと思います)。そのとき、新婚3カ月でこんなことになり家に置いてきてしまった妻の顔がよぎりました。僕のせいで妻は今も悲しんでいる。そうだ、このまま殺されるなんて無責任すぎる。最期まで逃げる努力、助かる努力はするべきだ。無駄だとしてもせめて抗って死ぬ! そう決意した僕は拘束の手袋を無理矢理外し、腕に刺されていた針を思いっきり引き抜きました。

ものすごい勢いで看護師が駆けつけてきて大騒ぎになりました。そりゃそうだ。

この辺、僕も「なんで殺そうとしたくせに助けるんだ!」とかいろいろ言った記憶があるんですが、どこから幻覚でどこまで現実だったのか今でもわかってません(呼吸器をつけてるので実際にはしゃべれないはず)。なおこの事件は「僕の体を張った抵抗によって医師らが改心して悪事をやめてくれた」という設定で僕の中で認識され続け、しばらくはマジで「退院したらネットでこの事実を告発する記事を書かなきゃ」と思っていました。ということでここで書きました。こんな僕もちゃんと治してくれる素晴らしい病院でよかったです。

おまけ「退院後もまだ酒を飲みたくなるか?」

本編は以上となりますが投げ銭代わりの有料エリアとしてちょっとしたおまけ雑記も付けておきます。今回は「退院後もまだ酒を飲みたくなるか?」というテーマについて。

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