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「人間味のあるオートメーション」

「AutoStore」をご存知だろうか。同じ大きさのコンテナが横(Width)・奥行き(Depth)・高さ(Height)の三次元で部屋いっぱいにキレイに積まれているのをまずは想像してほしい。上から見て、将棋の表現でいえば例えば「5三」のマス目の上から二つ目のコンテナを取り出したいとする。まず、「5三」の垂直な列の中で一番上のコンテナが上面に移動して少し横にずれて待機する。次に、上から二つ目の目的のコンテナが上面に出て、ピッキング箇所まで移動される。「5三」の最も上にあったコンテナは、目的のコンテナがピッキングされている間に「5三」の列に戻る。つまり、上から二番目の区画に移動したことになる。最後に、中身をピッキングされたコンテナが上面に戻り、「5三」の一番高いところに格納される。これがひたすらに繰り返される。そして、この「移動」「ピッキング」が同時多発的にいくつも行われる。将棋盤を説明に利用したが、9x9に縛られているわけではなく、もっと広くもできるし、いびつな形にも対応できる。動画がすぐに見つかるので、ご関心がある場合は見てみると面白いだろう(し、この文字の説明よりもよっぽどわかりやすい)。

実際はもっと複雑なアルゴリズムがあろうが、ここでは仕組み自体にはこれ以上言及しない。この単純化した説明だけでも、仕組みのすごさを挙げられるからだ。例えば三点:

  1. それぞれのコンテナには定位置がない。より使われる頻度の高いコンテナが上部に集まるようになる。つまり、「上面に移動する時間が少なくなる」「コンテナを取り出すために上面に出される他のコンテナの数が少なくなる」方向に自動的に収束していく。時間と電力の最小化につながる。

  2. 人がピッキングする際は「棚」をいくつも並べ、その間の通路を人が移動する。この「通路」が不要になり、より集積度の高い収納が可能になる。「高さ」も極限まで利用できて、空間の利用効率がこれでもかというほどに高くなる。

  3. 高度にモジュール化された仕組みのため、保守にも過度にリソースがかからないと思われる。拡張も比較的容易。機械化・自動化における「メンテナンス性」「運用の可用性」は極めて重要だ。

AutStoreはノルウェーの企業の製品・サービスであるが、日本でも大手企業の採用例が増えている。ニトリ、丸井、トラスコ中山、コープさっぽろなど、業界も様々だ。自動化というと、このような「裏方」での話を僕はイメージしてしまいがちなのだが、ユーロモニターの2023年の世界の消費者トレンドTOP10の一つである「人間味のあるオートメーション」では、一般消費者が触れる部分での自動化について記されている。そして、そこには「人間味」があった方がいいということも。

日本では例えば、東日本旅客鉄道とサインポストの合弁・TOUCH TO GOが無人・省人型の小売り店舗の仕組みを開発している。Amazon Goにも似た、カメラや棚のセンシングを通じて「誰が」「どの商品を取ったか」を判別し、無人レジに着くと既に「レジ打ち」は自動的に終わっており、すぐに会計ができる仕組みだ。顧客のサポートや棚出しのためのスタッフはおり、「無人店舗」というと語弊があるかもしれないが、客にとっては時短、店にとっては省人で運用が回せる、Win-Winな仕組みと言える。どれくらいの「人間味」が適切かはわからないが、この仕組みが導入されている西武新宿線中井駅の駅コンビニTOMONYを使ってみたときは、棚出しのスタッフさんがいることにどこか安心感を覚えた。

また、個人的に印象的なのが、昨今盛んなサブスクリプションサービスのうち、物理的なサービス提供のあるものでの経験だ。モノのあるサブスクとは例えば、おそらく国内の有名どころではお菓子のsnaq.me、コーヒーのPostCoffee、スムージーのGREEN SPOON、切り花のbloomeeなど。いったん契約すればあとは毎月勝手に送って来てくれて製品を楽しめるサービス群だ。毎月中身が変わり、その変化を楽しめるサービスも多い。逐一店に行く、購買処理をする、ということが省かれているという点でオートメーションされたサービスと言える。

我が家では2023年3月現在、この手のサブスクを二つ契約している。一つは日本茶のTokyo Tea Journal。そういえば実家にいたときはかなり緑茶を煎れて飲んでいたと、巣籠り中に思い出してはじめた。もう一つは女性向けの完全栄養プロテインのKOREDAKE。こちらは妻が時折飲んでいる。この二つのサブスクサービスに、共通点を見つけた。

それは、商品の発送ごとについてくる、月刊的なブックレット。小冊子、小雑誌と言ってもいい。商品そのものではなくて、QRコードを読むと動画コンテンツに飛べる!というものでもなくて、物理的な十数ページのブックレットだ。オンラインで見つけてオンラインで登録したD2Cのサービスで、毎月目的の製品とともに、小冊子が送られてくる。雑誌や新聞といった活字媒体が好きな自分は、Tokyo Tea Journalのサービスの一部として、特に違和感なくこの小冊子を「製品の情報を伝えてくれるもの」「製品をより楽しむ提案をしてくれるもの」「製品にまつわる世界を広げてくれるもの」と受け入れて楽しんでいた。しかし、妻がKOREDAKEの箱を開封したのちに、やはりブックレットが入っているのを目撃したときに、これは高度に「敢えて」行われているものなのだと察した。

Tokyo Tea Journalのブックレット
KOREDAKEのブックレット

製品の情報やその世界の広さ、奥深さを伝えるのはもちろん、エッセイやイラストを通じて「アナログ」な手作り感、人間らしさを伝える役目を果たしているのだろう。製作者らの名前が記してあったり、編集後記があったりするのも、人間味の醸成に一役買っている。茶葉の作り手はもちろん、サービスの作り手の顔も感じさせる。僕のN=1の体験談ではあるが、このブックレットは間違いなくサービスへの好感、ロイヤリティ、満足度に寄与している。もちろん、ブックレットのクオリティあってのことではある。もしもこれがなかったら…と考えると、製品の魅力のみで顧客をつなぎ止める必要がある。たとえ一方向であっても顧客とのコミュニケーションもなく、無味乾燥と捉えられかねない。サービスの継続率に悪影響を及ぼす一因となりかねない。オペレーションや製品の品質担保ももちろん重要であり、サービスの中核であろうが、こういった「作り手」を感じさせる仕掛けもまた、顧客をより深くサービスに入り込ませ、離脱させないために重要だと想像ができる。

「人間味のあるオートメーション」。世の中にはその重要性を理解し、実装しているブランドもある。今後も社会の自動化や機械化が進む中で、忘れてはならない一側面であろう。

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