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未来の建設業を考える:建設論評「多能工化の本質」(2023年2月10日)

トヨタの「多能工化」

トヨタの大野耐一が考案したと言われる「多能工化」。豊田紡績出身の大野は、ひとりの女性工員が複数の織機を操作していたのに対し、自動車組立工場ではひとりが一台の機械しか扱っていないことを見つけ「多能工化」を導入した、と言われる。

トヨタのような製造業では、ひとりで複数の機械を扱うことで、多様な製品の量産化や突発的な製品要求への柔軟な対応により、売上げ拡大につながったとされる。

星野リゾートの「多能工化」

旅館業の星野リゾートも、「多能工化」により、それまでの赤字続きの旅館を黒字化することに成功した事例だ。従来の旅館業ではフロント、客室、レストラン、厨房と職種ごとに分かれているが、チェックイン時はフロントが忙しい。食事時は厨房が忙しい、と時間別に部署ごとに繁閑の差が大きい。星野リゾートでは従業員がすべての技能を身につけて「多能工化」することで、手待ち時間がなくなり、圧倒的に少ない人数でこなせるようにした。さらには、ルールに縛られないため、チームワークで顧客の多様な要望にも応えることができ、リピート率も高まり、客単価もアップし、結果、黒字確保に成功したと言われる。

建設業は

建設業も抱える問題は、旅館業と同じ。

職人の賃金が上がらない。生産性が低い。現場所長になりたい社員がいない。

多能工化とともに、やる気を出すようなチームワークの醸成、工事現場の自主采配の幅の拡大など、単純な生産性向上ではなく、サービスや品質改善につながる多能工化でありたいものだ。

「多能工化」イギリスの失敗事例

一方で、システム化による多能工化をねらったイギリスの失敗事例も興味深い。空港バスの乗車時にQRコードによるチケットレスシステムを導入したが、使えず手作業で全員の降車場所と値段が合致しているか確認するなど、逆に、運転手の仕事を増やす結果となったもの。また、あるオンライン小売り店の配送センターでは、従業員にモニターを手首に着けさせ、その指示に従い多くの作業ノルマをこなし、遅れが出た場合は自動でアラートが送られるシステムを導入したが、結果、従業員が労働時間の間に、ハーフマラソン並みの距離移動を強いられるなど、労働問題になった。

多能工化は業務の平準化やそれに伴う付加価値向上につながることがメリットであるが、多能工化を進めるための短絡的なシステム導入が逆に労働環境の悪化につながった事例であろう。

多能工化のメリット

一般的に言われる多能工化のメリットは、業務平準化による従業員負荷の低減、社会環境の変化に柔軟に対応できる組織構築、チームワークの向上改善にある。

建設現場でも、多能工化に役立つ長期的な視点でのシステム導入を図るとともに、「多能工化」により社員や職人同志が信頼し、ひとつのチームとして、ものづくりに取組むことで現場が活性化し、さらなるサービスや品質の改善や業績の拡大につなげたいものだ。

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