見出し画像

未来の建設業を考える:「リスク vs 利便性」(2020年10月5日)

デジタル化のリスク

 政府はデジタル庁を設置するなど、いつの間にか世界から遅れた日本のデジタルレベルを向上させることを国家戦略の一丁目一番地としている。
 だれしもデジタル化の利便性は感じるものの、◯△ペイなどで銀行口座と紐付けたものが第三者に不正に引き出される被害もあり、デジタル化のリスクが大きいのも事実だ。
 政府がすすめるデジタル化戦略の象徴である「マイナンバーカード」を見てみよう。

マイナンバーカードの問題

 マイナンバーカードに関する法律は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年5月31日法律第27号)」という長い名称の法律で、個人に個別番号を付しそれを行政が使うこととしている。もともと住民票をベースにした法律のうえで運用しているため、それぞれの市町村長がそのデータを管理している。決して、国のある機関が一元的に全国民の番号を把握している訳ではない。
 そのため何が起こっているかというと、転居するたびに、市町村役場へマイナンバーカードの再登録手続きが必要になる。その登録装置もiPad的な汎用端末ではなく、専用の端末だ。そもそも、暗証番号を登録するのに固有の装置が必要なのか。銀行もクレジットカードもそうだが、ネットで手続きする方が、よほど安全性が高いのではないか。

過度なリスク管理からの脱却

 この国のデジタル化の遅れを取り戻す手段は、ずばり2つだ。ひとつは、「デジタル新法の制定」だ。ネット社会に適用できない古い法律をベースにデジタルデータを管理することからの脱却だ。もうひとつは「過度なリスク管理からの脱却」だ。個人情報漏洩や危機管理などのリスク回避を最優先としたため、独自の装置や簡単に改良できない独自システムで構築したため、変更に時間や多額の費用がかかる現状を改革することだ。
 建設業界でも、「リスク」と「利便性」の問題に直面する。建築の分野で各メーカーの設備機器データを統合しようとすると、各メーカーが独自のシステムを構築しているため、相互の連携ができないというのは、その典型だ。また、新型コロナ時代、顔認証を活用すれば、非接触型のビルにできることはわかっているが、個人情報保護法で定められた顔認証データの取り扱いがハードルとなり、普及が進まないとも言われる。日本では、「オープン化」のハードルは高い。一方、デジタル先進国の海外では、建設やインフラのデジタルデータ、BIM/CIMの活用が進む。
 オープン化によるデジタルデータの活用、分析、応用が、設計者や施工者だけでなく、施設利用者も、発注者も、メーカーも認識し、デジタルデータを活用した利便性を徹底的に図っているからだ。

「ブラックリスト方式」を採用

 デジタル社会を構築するにあたって、中国ではやってはいけないことを決め、それ以外は「やってみなはれ」の「ブラックリスト方式」を採用し利便性を向上させたのに対し、日本は事前にすべてのリスクを取り払わないとできない「ホワイトリスト方式」と言われる。その結果、新たなシステム導入に時間がかかっているのが現実だ。
 政府には、ぜひともデジタル化時代にふさわしいリスクと利便性を環境を早急に整備することを期待したい。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?