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チェコの人形劇映画 ラデク・ベラン監督『リトル・マン』

「チェコの映画」と聞いて思い浮かベる作品は何ですか。
ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』や、ミロシュ・フォアマンの『アマデウス』(これはアメリカ制作だけど…)そして、「チェコ・アニメ」として映画館で上映されている数々のアニメーション作品の数々。
メジャーとは言い難いですが素晴らしい作品がたくさんあります。(「チェコ・アニメ」とひとまとめにされる作品群は、本当は「アニメ」というより「アニメーション」、「チェコ」ではなくて「チェコスロバキア」とすべき作品がたくさん含まれている。これについてはいつか書きたいな)

残念ながら、現代のチェコ映画が日本の映画館で上映されることは少ないのですが、年に1度は必ず上映されています。EUフィルムデーズで!

EUフィルムデーズとは「欧州連合(EU)加盟国の在日大使館・文化機関が提供する作品を一堂に上映する、ユニークな映画祭」です。(公式サイトより)
1年に1回、東京、京都、広島の会場で開催されてきたのですが、今年はオンライン開催。自宅で映画祭が楽しめるようになりました。

期間は2020年6月25日まで。
登録は必要ですが、1作品300円で観ることができます。
*一部作品は、配信期限が異なります。

チェコの配信作品は、ラデク・ベラン監督『リトル・マン』。(2015年、原題:Malý Pán) 

あらすじ

主人公のリトル・マン(Malý Pán=小さな紳士)は、両親の住む家を出て、森の中に家を建てる。自分で作った家と暮らしには大満足で「自分には何もかけているものがない」と言っているが、ある日おかしな夢を見る。それは、見知らぬドアから「ここにはお前に欠けているものがある」という声が聞こえてくるというもの。夢に悩まされたリトル・マンは「自分に欠けているもの」を探すため、お気に入りの家を出て旅に出るが…

みどころ

作品のみどころは、とにかく人形
予告編を観るとわかる通り、これはアニメーション映画ではなくて、人形劇映画です。『サンダーバード』や『ハッチポッチステーション』のような感じで、画面の外で人形師が操演した人形を撮影したもの。

人形を作ったのはチェコのアーティスト、フランティシェク・アントニーん・スカーラ(František Antonín Skála)。『リトル・マン』に登場する人形は、可愛いだけでなくちょっと不気味な味もあってとてもチャーミング。このおでこのしわ…。

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人形だけでなく、建物などのセットの造形にも注目。木片や機械部品などを利用して隅から隅まで作り込まれています。

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こちらは、流木?で作られた図書館の建物。
人形やセットが、ロケ地であるチェコの森と溶けあっていて眺めているだけでとても心地よいです。この図書館は、内部のインテリアや機構もとても素敵なので、映画本編で堪能してください。
(画像:映画公式サイトより。)

撮影の様子は、公式Youtubeでみることができます。

原作

原作は、 レンカ・ウフリージョヴァー (Lenka Uhlířová) 著『Velká cesta Malého pána(小さな紳士の大きな旅)』という児童向けの作品。(2008年、Merander刊)写真家/アーティストのイジー・スタフ (Jiří Stach) がアートワークを手がけています。

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(画像:Meanderサイトより)
きゅうりのピクルスや、枯葉、岩などの写真を組み合わせて作られた旅先の風景や、小さくて些細なものへの眼差し。本と映画で共通する空気があるのですが、これが「チェコらしい」ということなのかもしれません。

人形劇とのつながり

監督のラデク・ベランは、Buchty a loutkyという人形劇団の創立メンバーのひとり。(Buchty a loutky ブフティ・ア・ロウトキ=「パンと人形」の意。)
人形操演スタッフにも、この劇団に参加しているメンバーが名を連ねています。

Buchty a loutkyは小さな劇団ですが、海外のフェスティバルにも長い間参加し続けています。特徴は大人向けの作品のレパートリーが多数あることでしょうか。

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そのひとつが、ヒッチコックの映画『サイコ』を人形劇にリメイクした『Psycho Reloaded』。Youtubeで動画が少し観れます。

筆者は、これを観に行ったのですが、ゆるい人形とシリアスな名シーンのギャップがおかしくて、最高でした。動画にもありますが、車のウィンドウに叩きつける雨を、霧吹きで再現しちゃうセンスたるや!

大きなテーブルのような舞台の周りを動き回って効果音を鳴らしたり、楽器を演奏したり、もちろん巧みに人形を操ったり。多才な彼らのサービス精神溢れるパフォーマンスに感動しました。

映画『リトル・マン』も、Buchty a loutkyの現メンバーと元メンバーで作ったDivadlo b(b劇場)によって40分の舞台作品にリメイクされ、上演されています。ベラン監督自ら操演しています。
写真、右がベラン監督。左は映画版でも人形操演を担当したRené Krupanskýさん。舞台版でもスカーラの人形はそのまま?使っているようですね。写真:Divadlo bのサイトより。)

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現在もDivadlo bのレパートリーとして上演しているそう。(直近では2020年6月22日、プラハの保育園での出張公演!)いつか観に行ってみたいなと思っています。
人形劇団は、公演後にセットや人形を間近で見ることのできる時間を設けていることも多く、舞台版ならではの楽しみもたくさんあるはずです。

おまけ:テーマソング

映画のテーマソング『Malý Pán』は、チェコのポップ/ロックバンド タタボーイズ (Tatabojs)のドラムボーカルであるミラン・ツァイス(Milan Cajs)によるものです。歌は、映画のキャストが歌っています。

Tatabojsは、先日、ZOOMでライブ配信をしていました。リスナーもZOOMでの通話に参加できて舞台上のディスプレイに登場できるという楽しいライブでした。下のリンクからライブの動画を見ることができます。




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