帽子
初冬の午後6時ごろ
街灯もほとんどない薄暗く肌寒い車沿いの細道をせかせかと歩く私
目の前にゆっくりと私と同じ方向に歩くシルバーカーをもったおばあさん
スピードはこちらの方が速い
追い越そう
冷たい風が吹いた
帽子が飛んだ
幸いすぐそばに落ちた
ゆっくり拾っても大丈夫だろう
冷たすぎる風が吹いた
ふわふわと舞うその行方をぼーっと見守った
反対側の車線の真ん中に飛ばされた
車はひっきりなしに通る
タイヤに潰されないかぼーっと見守った
幸い帽子は引かれずに道路の真ん中に佇んでいた
いろんな意味で冷たすぎる風が吹こうとしている
他に歩いている人はいない
車はひっきりなしに通る
とにかく行くしかないか
早く、そして速く拾わないと
車が通らない瞬間が僅かにあった
軽い左右確認だけで目の前の帽子めがけてダッシュ
すぐに拾って帰りもダッシュ
帽子を渡してすぐにダッシュ
寒すぎた
あの赤い帽子だけは暖かかった
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