カウントダウン・狂想曲«3話：オープンテスト»
いよいよオープンテスト
オープンテスト当日。集合は塾のロビーに８時３０分。父母会も同時にあるので、私はテスト終了まで塾に詰めている予定になっている。待っている親の暇つぶしでもあるのだが、電車を利用する人だと家まで帰っている時間もないので、このような手順になるわけだ。
前日から「鉛筆は沢山削っとかないと、受験票はちゃんと入れた？寒いといけないからスパッツを履いておいたほうがいいかも・・」と、本人より私の方がテストの準備でおおわらわ。とにかくＮ能研に入るためのこのテストに通過することが夢への最初で最後のチャンスだと思い込んでいたありさは、ここ１週間程は今までになく勉強をしていた・・・ように見える。といっても、普段の家庭学習が小学校の宿題をする程度だったから、そう見えただけかもしれないが。第一、このテストには範囲があるわけじゃないので、気休めにしか過ぎないとは思う。が、この際気休めでも必要な事もある。
いつもはべらべら機関銃のように喋りまくるありさも、さすがに心なしか緊張しているように見えて口数が少ない。テスト当日、日曜日ということで満員には届かない程度に混んだバスに揺られて外の景色を見ていると、冷たい空気につつまれて朝日に光って町全体がきらきら輝いているように見える。なかなか気持ちの良い朝だ。
駅に到着し、そこから徒歩３分程のＮ能研会場へ向かう。塾の手前でなにやらパンフレットを配る団体がいる。なにげなくもらってみてみると、家庭教師のチラシだった。そして、会場に近づくとすでに２０人程の父母達が並んでいる。時計を見るとまだ８時１０分だ。皆さんこんなに早くから来ているのかあ？と、自分も同類なのを棚に上げてその列に並ぶ。親同伴でない塾生も何人か来ているが、そのような子は適当に会場に入れるのだが、なんといっても私達は始めての事なので勝手がわからない。
私の順番がきて父母会用の資料を受け取るとありさを連れて受付に行く。
「始めてなのですが、どちらにいけば・・・」
優しそうな女性スタッフが出てきて
「５年生ですか？それでは３階になりますので御一緒しましょう。」
と、連れていってくれた。がんばれよ！と、姉に向かって目配せをしたつもりだったけど、気がついたかどうかは定かではない。
母、塾を探検する
父母会の時間までにはまだ３０分以上ある。とりあえず父母会の会場である教室に荷物を置いて、塾の探検を始めた。白を基調にした明るい建物に所狭しと手作りのチラシが貼ってある。それは、そのＮ能研を卒業した子どもたちが、自分の受かった学校のＰＲポスターだった。いわゆるおなざりの学校紹介ではない、生徒の目から見た学校の話などが色々書いてあって、思わず読んで苦笑したり感心したり。
まさか私の受験が終ってから２５年もたってからＮ能研に用事ができるとは思わなかった。その頃に比べると、教室もオープンで、明るい。変わっていないのは長机と長イス。こんなに小さかったっけ？と、思いつつ部屋にもどった。（現在は２人掛けの椅子になった）
テストの予鈴がなった。しばらくしてから私のいる部屋に先生らしき人が入ってきた。室長だ。気さくそうな室長の話は、現在の小学校を取り巻く環境やら、新指導要領の話やら、大学のランクの話やら続き、最後にはＮ能研のカリキュラムについて（なんでも今年から少しシステムが変わるそうだ）、冬期講習会のお誘いの話をしていた。なんでもすでに室生の申し込みが終っているらしく、欠員は各クラス５人程だそうだ。この講座は誰でも受ける事ができるそうなので、最悪の場合はこれだけでも受けさせてもいいかなとは思ったが、それより受験そのものを諦めさせるほうが先かもしれない・・
肝心な本科生の欠員の話だが、３年生は２５人、４年生は１５人程、そして５年生はやっぱり５名程度だそうだ。５年生は今回３０人程受けているということだから、単純に考えて６倍の競争率があるということだ。しかも、これは午前の数字だ。午後にもテストはあるので、実際にはもっと競争率が高い。めまいがした。最後に室長からの「では、こんどはお子様と再び教室でお会いできることを楽しみにしています」という言葉が胸につきささった。本当に次にここに来ることができるのだろうか？
戦い済んで・・・
ベルが鳴って、テストが終わり、姉が教室から降りてきた。
「どう？難しかった？」
「うーん、学校のテストなんかと全然違うから大変だった・・・」
「そうかぁ・・・受かるといいねえ・・・」
とは言ったものの、私の心の中では「どうやって受験を諦めさせようか」という事しか考えていなかった。帰り際に入り口に積んであった「合格記録ビデオ」を１本もらって家路につく。なにはともあれ、一つの儀式は終った。あとは通過するかどうかだ。そして、結果はどうあれ、通知が来るのが４日後らしい。なかなか心臓に悪い４日間だ。
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