カウントダウン・狂想曲«1話:日常»

--現役受験生の方へ--

塾関係のものを整理していたとき、塾カバンの裏蓋に、以下のような手書きの文が書かれた紙が入っていました。本番当日に役にたつかも知れないので、掲載します。
出典は不明です(^^;)


試験10分前に読む10項目の注意書き

1 解けぬと思ってかかるな!解けると思ってかかれ。
2 問題をよく読め!読んで読んで、出題者の意図をつかめ
3 難しいのは自分だけではない!他の子も、みな同じだと思え
4 1点でも落とすな!合否は1点の差で決まる!
5 絶対に慌てるな!冷静に見れば、解く糸口が見えてくる
6 1秒でも無駄にするな!時間があれば、見直せ!見直せ!
7 やさしいものは、必ずとれ!ケアレスミスで、差がひらく
8 絶対に諦めるな!ねばってねばって100点を拾え!
9 頭はつねにフル回転。目の前の問題だけに集中しろ
10 明日には期待をかけるな!今日の試験で合格を勝ち取れ

この10項目をまもれば、20点はアップする!・・・そうです。

ありさ、小5の春

 西暦2000年。世間一般では新学期という4月。やっと小学校も給食が始まってのんびりとした午後が戻ってきた。専業主婦の私は、軽い昼食をとり、後始末的な家事労働を適当に終らせて、夕食の買い物をするのがいつものパターン。片道自転車で5分弱のスーパーから戻ると、まずは戦利品を家にしまう。その後で入り口の所にある集合ポストに入っている郵便物を探しに行くのが日課。今日はいつもにまして多いけど・・・なんだ、請求書と領収書ばかりじゃないか・・。テーブルの上に郵便物の束を置いて、さっそく買い物荷物をほどきにかかる。そろそろ暖かくなるから、とっとと冷蔵庫に入れておかないと腐ってしまったらいけませんね。

 子ども達の通っている小学校は、道を隔てた家のすぐ隣だ。窓からは通用門が丸見えである。子どもの声が聞こえてきたので、窓を覗くと、今これから帰ろうという見掛け2~3年位の子どもが校庭に飛び出してきている。そろそろ帰ってくる頃だろう。普段時間に追われているわけではないので、この子どもの声は私にとっての定例のチャイムみたいなものだ。さあ、またこれからうるさくなるぞ・・・

 コーヒーを入れて、郵便物に目を通すのがこの時間の日課なので、先ほどテーブルに置いた郵便物を一つ一つ目を通し始める。ガスの領収書とかカードの請求書(これだけお金をくれると嬉しいのにねえ)とかあまり見たくない物や、○○音楽教室のダイレクトメール(もう習い事は飽和状態だからいらないわ)などなど、どーでもよい郵便物に挟まって、私の出身校の同窓会だよりというのが来ていた。

母校からのお知らせ

 私の通っていた学校は古くからの中高一貫女子校で、先生の異動もあまりなく、懐かしいといえば懐かしい。そして、いつもより心持ち厚い封筒を見て「また寄付の要請かな?」と推測できる(事実それもあったが)学校でもある。いつものように会報をちらちらと見ると、懐かしい先生の消息がある。ああ、数学の先生はおやめになったのか。生物の先生は入院されているのか、図書館の先生はまだあの図書館にいるのだろうか、当時勤続25年だったから・・・等々。同窓会事務所の住所とか海外留学のどーのとかどうでもよい内容と、定例総会(といってもいわゆるおばさま方の社交場)のお知らせとか色々あるなかで、ある一文がふと目についた。

「我が校では、200●年より高校の新規募集を停止します」

 もともと、さほど高校で人数を採る学校ではなかったが、それでも完全に新規募集をやめるというのは思いきった決断。あの頭の固い学校が完全中高一貫になるのか・・・それがどのような意味を持つのかというのはあまり気にしていなかった。

 コーヒーを飲み終ったころ、娘が帰ってきた。小学校5年生になったばかりで、そろばんだのスイミングだのヴァイオリンのレッスンだのでなにげに毎日忙しい。今日も委員会の会合があったらしく、いつもより少し遅い。

「おかえり。今日は宿題はあるの~?」
「ないよ~・・・あ、ちょっとだけある」
「そろばんに行く前に片づけておきなさいよ。」
「そんな時間ないっ!委員会で忙しいんだからあ。」

 これは毎度毎度の儀式のような会話なのだが、今日は少し追加があった。

「ありさ、あなた、中学を受験する気って・・・ある?」
「受験~?そんなのしないよ。だって、忙しいもん。なんで?」
「んー、お母さんの行っていた学校が高校で募集しなくなるんだって。そうするとね、ありさが高校受験の頃には受験すらできなくなるんだよ。そうしたら、中学から通うしかなくなるわけ。だからどうなのかな~って思って。」
「別にお母さんの行っていた学校に行かなきゃいけない訳じゃないでしょ。関係ないじゃん」
「・・・そーいう意味じゃなくて、ありさが高校の受験の頃になると私立は受験すらやりにくくなるわけ。だから・・・・」
「だって、これ以上習い事増やしたくないもん。じゃなくたって学校とそろばんの宿題で大変なのにさあ。」

 それもそうだ。本人にその気が無いんなら別に気にすることはない。それより今はそろばんの5級を取る方が先だよね。

 大体、受験をするためには塾やらなにやらでお金はかかるし、習い事盛りだくさんで塾に行っている時間はないし、なにより本人の意思がなければ続かないと思うし・・・・普通に近くの公立中学に行けばいいよね。それに、はっきりいって5年からじゃ受験の準備にはもう遅いだろう。中学受験をするのであればすでに今ごろから進学塾に通わないとまず間に合わないだろうという現実は私にもわかっていたからこそ、今がタイムリミットかなと思ったのだが・・・まあ、いいや。これでこの話はお終いにしましょう。

 いつものように、ありさはそろばん塾へ行き、けいたはどろどろになって帰ってきた。学校の砂場で友達と遊んでいたそうだ。まだまだ幼い小学校2年生。まず第一声が「風呂で足洗ってきなさ~い」というのもいつもの事。こんないつもの日課が続く・・・

 その後この会報は、他の不必要な郵便物に混じって、処分された。「受験」という単語には無縁で、まだまだ暢気だったこの頃。明日もこのままのほほんと続いていくと信じていた頃。そんな考えが180度ひっくり返される為には、それから180日ほど時間を必要とした。

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