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20240320 松本市 #風景誤読
▼前日の松本あるき
翌朝、8時にチェックアウト。まずは朝ごはんを食べる。あおなくんが前回訪れた「イイダヤ軒」という蕎麦屋に行ってみる(▶20230815 北深志(松本市))。
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食券制だが希望すればPaypayで注文することもできる。厨房を囲むようにしてカウンター。厨房ではおっちゃんが一人で調理している。地元のサラリーマンが4人ほど席に座っている。
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昨日遠くから眺めただけの北松本駅付近から北に向かって、ぴよまるさんの風景誤読(▶20231108-20240114 松本市)をたどるようにしてこまくさ道路を歩いてみる。ぴよまるさんによれば、坂が結構やばいらしい。
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蟻ケ崎
小山清の『小さな町』という小説に出てくる「親しみ」ということばがずっと気になっている。
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そのあとには餅菓子屋さんがきて、私は引き続いて配達したが、私には短い縁であった染物屋の方が心に残っている。
『小さな町』は、主人公が新聞配達をしていた下谷龍泉寺町(浅草の北側にかつて位置した町)で顔なじみとなった人々との思い出を書く。新聞配達ていどの交わりと言っても、今とは違って一軒一軒とちょっとしたやりとりがあり、関係性があった。「この町も戦災のために無くなってしまって、そこに住んでいた人達も離散して、いまはその消息もわからないということが、私にこれを綴らせるのである」と動機を告白しながら、ほんとうに何でもないやりとりのひとつひとつ、何でもない街並みのひとつひとつを飾りのないことばで淡々と書く。
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深志高校の角を右へ曲がると、まず遠景の、厳然と横たわる山々が目に入った。ぴよまるさんがLINEで送ってくれた散歩ルート(▶20231108-20240114 松本市)とほとんど同じ道を歩いている。彼女もまた坂道に少し息を切らしながら、この遠く霞がかった稜線に感動したのだろうか。
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沢村
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おかみさんは気さくな人で、私を見かけると、「新聞やさん。来月は景品に何をくれるの?」とか、私が常盤座の切符をあげると、「へえ、また三階の天辺かい。」とか云ったりした。ただそれだけのことなのだが、それが互いの間に橋を架けてくれる。
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互いの間に残る親しみというものはふしぎなものだ。どんなに淡いものでも、いつまでも消えずに残っている。
この親しみのことを、私も時々思う。遠く知らない町で暮らしている誰かのことを思い出すとき、その町になんとなく来て歩いてしまったとき、そこで生活する知らない誰かとことばを交わしたとき、私は何か淡くぐずぐずと残っているもののことを思う。吹いたら飛んでいってしまいそうな、微かなつながり。
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あとで梅月店主の馬瀬さんから「またお越しの際はお立ち寄りください」とわざわざメールをいただいた。『松本の本』創刊号が復刻されたことを伝える一文も丁寧に添えられていた。旅の疲れが吹っ飛ぶくらい、うれしかった。
私にとって、散歩とそれに付随する小さな旅は、町や誰かとの仄かな親しみを思い出したり、あたらしく刻み込んだり、感じ直したりする時間であるように思う。
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せわしなく松本駅に向かう。いつも思うが、この女鳥羽川の流れや松本のひとの穏やかさに対して、私の旅はいつも時間がない。もっとまちのスピードに沿うように、ゆっくりと滞在したい。そう思いながら、中津川行の中央本線に乗り込んだ。
[たかしな]
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