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【3分で読める】「東京協奏曲/桜井和寿×宮本浩次」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞分析・解釈】

【あらすじ】
Youtuberにとって、動画の鮮度は命に等しい。毎日新鮮で高クオリティの動画を発表し続けることこそが、たった唯一の成功の鍵となるはずだと信じて疑わなかった。

友人から誘われて訪れた東京タワー。しかし仕事のことばかり頭に浮かんで、高度150mから望むこの景色を楽しむことが出来ない自分がいた。


333m。東京都港区に存在する巨大な電波塔、通称「東京タワー」。
俺はそのちょうど中程の高さに位置する展望台に立っていた。

「何見てんの?」
「空と建物」
「んなことは言われなくてもわかるっての」

 口を尖らせて俺の方を叩く省吾は、俺の高校時代からの友人だ。忌憚なく意見を言い合える数少ない友人の一人である。

「港区って、東京で一番金持ちが多い地域だよな」
「らしいね」
「今頃、晩御飯にキャビアでも食ってんのかな」
「お金持ちイコールキャビアって、考えが安直すぎない?」

ここから見える限りでも、明らかに高級そうな家々が建ち並んでいる。ふと自分のワンルーム5畳半の部屋を思い出して、その場で唾を吐き出したい衝動に駆られた。

既に時間は十八時を回っている。
冬の夕方は陽が落ちるのが早い。辺りは暗く、先ほどまで人でごった返していた展望台も、今ではいくらかカップルが歩いているばかりである。

歩いているうちに、土産を販売している店をみかけた。
店頭に貼られた「次世代のバズはこれだっ!」というポップの売り文句につられて、店内に足を運ぶ。観光目的で訪れた人しか買わないような、多種多様なグッズがずらりと並べられていた。

東京タワーの土産紹介動画出したら、動画伸びるかな。
この店にある商品全部一種類ずつ揃えたら、圧巻だろうな。
そこまで考えて、思わず笑ってしまう。そんな動画、きっと既に誰かが作っているに決まっているし、あまりにも考えなしの思いつきだったと思ったからである。

基本的に、”自分だけが思いつくアイディア”はこの世に存在しない。
Youtubeを仕事にし始めてから、学んだことの一つである。その他にも、普通の仕事では知り得ないことを学んだ。

例えば、Youtuberにとって、毎日投稿こそが最も大切なことだということ。少しでも投稿頻度が落ちてしまえば、一気に視聴者が離れていってしまう。

チャンネル登録者数よりも、視聴維持率の方が重要であるということ。
なるべく長く動画を見続けてもらうことで、手にするお金の金額が大きくなる。

動画内でお金の話をすると、視聴者数が増えるということ。
他人のお財布事情に興味のある人は、案外多いらしい。

Youtuberに一般的な常識は通用しない。
日々数字と向き合って、改善を重ねていくことしか出来ない。
それはやりがいのある営みでありつつ、大変苦労の強いられる作業でもあるのだ。

早く帰って動画編集の作業を進めたいと思った。
途中まで編集していて、本日中に公開したい動画がある。

「そろそろ帰ろうか。暗くなってきたし」
「だな。それにしても、なんかあっさりしてたな。どうせならスカイツリーにすれば良かったかも」
「なんで?」
「あっちのがお店とか多いし、活気もありそうで面白そうじゃん」

身体が震えそうになって、両手でそれを抑える。省吾は何事もなかったかのように、下の階へと向かうエレベーターの方へ歩く。

東京タワーよりも、東京スカイツリーの方が面白そう。
古いものは、新しいものに淘汰される。それはこの社会の摂理。

俺もいつか古いものになってしまうのだろうか。
今は偶然、ギリギリ食べていけるだけの収入がある。
でも、来週、来月、来年…十年後はどうだろうか。
それ以降も俺は「好きなこと」だけで食っていけるのだろうか。

急上昇で旬な動画も、いつかは誰にも見られなくなる。
諸行無常。いつか必ず、終わりはやってくる。

窓ガラスの先にある、広大な東京の街を見下ろす。
オフィスから漏れ出す灯りや街灯に照らされる道々。
人工的に作られてたイルミネーションよりも、それらは遥かに美しいと思った。

俺はその様子を見下ろしながら、右手を握りしめて固い拳を作る。
一度掴んだそれを、決して手放さないように。



民奈涼介


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