見出し画像

アイコと僕のガラス玉 #2000文字ドラマ

僕はむかしから、お肉ばかり好んで食べていた。
そのせいかはわからないけれど、最近身体が重くて大変だ。少しそこらを走るだけで、すぐに息は切れるし、喉はカラッカラだ。おまけにすぐ突っ伏して寝てしまうくせもある。

だけどね、それを見たアイコは全然怒らない。それどころか僕の頭を丁寧に撫でてくれる。「そうやってアイコが甘やかすから、僕がダラけてしまうんだよ」と人のせいにしちゃうところが、僕の悪いクセなのかもしれないね。

今日もちょっとばかり外を走ってきたから、お腹がペコペコになってしまった。お昼ご飯は食べたばかりだし、特にすることもない僕は、アイコちゃんの部屋で一眠りすることにした。今日はよく晴れているし、ベランダの辺りで日差しを浴びながらゆっくりするのも悪くないだろう。

最近抜け毛が気になる年齢になってきた。僕の代わりに掃除をしてくれるお母さんが、散らかった床を見ながら時々ため息をつくことがある。その度に「それは仕方がないじゃないか」と抗議したくなる。だけど、そう主張したところで意味がないことはわかっている。

ベランダ付近の窓にじっくりと腰を据えて、外をながめる。
僕は外を眺めるのが好きだ。たまに飛行機がとんでいるのをみかけて、とてもテンションが上がる。トンボや蝶々などの昆虫はもっと貴重で、見つけた日には飛び跳ねるほどに嬉しい気分でいっぱいになる。

だけど、あの日みた”きれい”で”きらきら”な「何か」はもっともっと貴重だ。僕はここ数年間、ずっと探し続けているけれど、その「何か」を見つけられずにいる。もう二度と見ることが出来ないのかもしれないと、正直諦めかけているところなんだ。

それはガラスに似ていた。でも、陽の光のようにキラキラ輝いていた。
その輪郭は曖昧だった。だけど、ハッキリと形がある物のようでもあった。

あの日、僕はそれが何なのかが知りたくて、まずは匂いを嗅いでみよう鼻を近づけた。だけどアイコはそれを手に取って、「これはダメ!」と僕を叱ったんだ。きっと僕がそれを食べて独り占めすると思ったんだろうな…。そんなことしないのにさ。。

あ、トンボだ!!

そう思った瞬間、ポンっと小さな音が鳴った。そしてその後、コロコロと何かが転がる音が聞こえた。僕は急に身体を動かしたから、机の上にある物が落ちてきてしまったみたいだ。

それは、アイコが大切にしている透明なビー玉だった。しばらく転がり続けた後、壁にぶつかってその場に止まった。僕はそのビー玉を机の上に戻す術を知らない。

ビー玉も見た目は透明で”きれい”だけど、”きらきら”はしてない。
そう思って、僕はビー玉を突いてみる。すると向こう側にスーッと転がっていき、窓の辺りへと移動する。

陽の光が当たるビー玉は、宝石のように綺麗で輝いていた。
まるであの日みた”きれい”で”きらきら”した「何か」のような…

「ただいま!」

アイコの声が下のフロアから聞こえる。もう学校が終わったんだ!と、気分が昂って思わず背筋をピンと伸ばす。

やっぱりいくつになっても、一人は退屈だ。
アイコと一緒にいるから、毎日楽しく生きていられるんだ、って最近凄く思う。いくつになっても、やっぱり彼女だけが僕の一番の友達だからね。

彼女を迎える為に、僕は玄関へと四本足で駆け出した。

ーーー

一人っ子の家庭に生まれたので、私には兄弟がいない。
お父さんも幼い頃に家を出て行ったしまったらしく、母と私の二人暮らしである。幼いながらに一般的な家庭ではないことは理解していたけれど、別に寂しいと感じたことはなかった。

友達のみっちゃんは、よくお父さんやお母さんに旅行に連れて行ってもらうと話していた。それは確かに羨ましかったけれど、私は遠出が苦手だ。すぐに疲れて眠ってしまうので、歩いて家に帰れる距離で遊ぶくらいがちょうど良いのだと思う。

今日は七月の終盤。もうすぐ夏休みが始まるという頃合いで、お母さんが私を近所のお祭りに連れて行ってくれた。もちろん、ペットのカイ君も一緒だ。

チョコバナナ、わたがし、やきそばにお好み焼きを食べた。
食べたがったのは私ではなく、お母さんだ。「太りすぎちゃったから、ダイエットしないと…」と言っていたのに、お祭りは特別だからとぱくぱく食べている。きっとダイエットは成功しないんだろうな。

私はラムネの瓶に口をつける。既に中身は空ないので、ビー玉がからんと乾いた音を立てる。

カイ君は私のそばで、大きなあくびをした。
それに釣られて私もあくびをしてしまいそうになる。

ドーン、と地面が揺れるのを感じた。同時に、お祭り会場が一気に黄色やオレンジ色で染まる。
空を見上げると、そこには色とりどりの花火が咲いていた。
私は空にラムネ瓶をかざしてみる。ガラス越しに見える花火は形が朧げで、儚くも美しかった。

ねぇ、見て。綺麗でしょう?
カイ君にそう伝えたかったが、彼は地面に突っ伏して幸せそうに眠ってしまっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます! ▶︎「4コマ漫画」「ボイスドラマ」 などで活動中のシナリオライターです。 活動費用が意外とかさむため、よろしければサポートして頂けると嬉しいです!“あなた”のサポートが私のマガジンを創ります。 お仕事のご依頼もお待ちしております!