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『ようこそ映画音響の世界へ』(’19・米)【すべての映画ファンが知るべき!”音”がもたらす演出の魔法】

1927年に初の本格的なトーキー映画『ジャズ・シンガー』が誕生して以来、”音”は映画にとってなくてはならないものとなった。映画音楽、効果音、声…。さまざまな名作の裏側で、この音響効果を創り出している人々がいる。そんな立役者たちにフォーカスした大変貴重なドキュメンタリー。

本作は、いかに映画が音響によって成り立っているか、そしていかに私たち観客がそのことに対して無意識かを痛感させてくれる。映画音響の素晴らしさを知らずして、もう映画ファンを語ることの恥ずかしさと言ったらない(笑)。
馬が駆ける、車が走る、爆発する、群衆が押し寄せる、風が吹く、雨が降る、雷が鳴る…。観客にとっては当たり前のシーンからもし音を抜いたら、たちまち臨場感が失われて伝わりづらいものになってしまう。だからこそ、こういった音を求めてスタッフはあらゆる場所を訪れて然るべき音を集め、それでも効果が足りないと感じたらユニークな音を組み合わせてレベルアップ。かの名作『スター・ウォーズ』(’77・米)の撮影時、チューバッカの声を創り上げるために動物園で色々な猛獣の声を録音してあの愛らしい声を完成させたというエピソードがまさに音響スタッフの努力を体現するエピソード。特にSF映画の”音”にはこれといった正解が存在しないため、想像力を働かせて適切な音を見つける根気も必要だ。

逆に、撮影時に自然音が入ってしまうことによって、シーンの雰囲気が損なわれてしまうこともある。映画の中で、『普通の人々』(’80・米)でのティモシー・ハットンによるシーンの例が引き合いに出されているが、少しでも緊迫したシーンにするために何十時間もかけて環境音を抜いて”無音”を創り上げたという。本当にそのシーンにとって最高の”音”を届けるための手段は無限であり、型にはまらずに対応する必要がある。音響編集の仕事は、決して一筋縄ではいかないし、ひたすら果てしないのだ。

こういった目から鱗の音響編集の裏側を、数え切れないほどの名作の例や著名な映画監督たちの解説とともに楽しめる本作は、誰しもが観ながら時間を忘れて作品に没頭してしまう。”音響”と一括りにしているものの、実際には効果音だけであらゆる種類が存在し、俳優の声を調整する役目もあれば、我々が最も親しみのある映画音楽の作曲家まで、1本の映画に関わっている音作りのスタッフの数は計り知れまない。スティーヴン・スピルバーグ、フランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシ、クリストファー・ノーラン…。名匠たちはそういった事実をよく理解しているからこそ、映画の音へのリスペクトを忘れず、こだわり抜いて名作を送り出してきたという点にも頷ける。
原題の”Making Waves"で分かるように、周波数の話や音響編集専門用語も登場するとたちまち難しい内容になるのでは、と覚悟して鑑賞に臨んだものの、具体例が明確で、素人でも「なるほど!」とすぐに納得できる分かりやすい説明もありがたい。本作を観れば、これからの映画鑑賞が抜本的に変わること間違いなし。エンドロールもユニークな作りになっているので、ぜひ目を閉じて”音”を体感してみてほしい。

長い映画史の中で、最高の音を求めて取り組んできた先人たちのバトンを繋ぎ、今も音づくりに励んでいるスタッフがいること。その気づきをくれた本作は、映画ファンを語る全ての人にこそ観てほしい。映画への愛おしさを募らせてくれる、まさに映画を愛する人のための作品。映画ファンを語る人のバイブルになることを強く祈るばかり。

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