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【日記】山盛り焼きそばを食うJKの話


兄と喧嘩した。



きっかけは本当に些細なことだったが、腹が立ったので予定より早く6畳のアパートから飛び出した。

まったく、これでは近くに桜の名所があるからと満開時期に合わせてわざわざ来たのに純粋に楽しめないではないか。

「何か食べないと」


腹が減っているから怒りが沸いてくるのか、怒っているから何かを貪りたいのか分からないが、空腹と怒りは桜の美しさを覆い「何人が嫌な気持ちをしている時にのほほんと咲いているんだ」とあまりに理不尽なことを思ってしまう。



「紅生姜マシマシでお願いできますか?」
私が焼きそばの屋台で注文すると、
「え?何何?マシマシって。ますますたっぷりってこと?これ若者言葉?」
「若い人がよく使いますね」
「はえ〜すごいね。マシマシっていうんだ。
マシマシにしてやって」


店番のファンキーなお姉さんと垢抜けた女の子に「マシマシ」トークをさせてしまった。
「マシマシ」は全国共通で老若男女誰にでも伝わると心の何処かで思っていた浅はかな自分に嫌気が
差す。

蓋を閉める気のない程に山盛りにされた焼きそばを芝の斜面に座って食べた。


ありがとう。綺麗に咲き誇る桜。

ありがとう。心地よいお日様。

ありがとう焼きそば。

屋台でこそお前は強く光輝く。
それは誰にも否定できまい。


先程までは行き場のない怒りを沸かせていた私も、マシマシ紅生姜の乗せられた焼きそばには
敵わなかった。


穏やかな心を取り戻した私の元に焼きそばの匂いに反応したダックスフントが鼻息を荒げながら近付いてきた。


ありがとう。犬を散歩させている全ての飼い主よ。




怒りも空腹も収まり、家に帰るにはまだ名残惜しい私は送迎バスに乗りスーパー銭湯に向かった。


以前から兄のアパートに泊まりに来る際よく利用しているが、1人で入る温泉はこうも不思議なものか。
「じゃあ1時間半後にここね」と言い
お互い別の暖簾をくぐる事も無ければ、
サウナを出るタイミングを目で語る事もない。

少しの寂しさもあったが、自分が冒険家になったかの様な高揚感に包まれた。

温泉に入り身も心もほぐされた私はお風呂上がりにソフトクリームを食べ究極の“完全体”となった。


もう私を止められるのは不意に脳内をものすごい勢いと殺傷能力で通過していくデスハリケーン黒歴史のみである。
(この現象が起きた際内ももを叩くと心の痛みが
軽減されると聞いたことがあるが、実際に試してみてもそこに現れるのは、突然の黒歴史という精神的
ダメージに奇声を上げながら、
内ももを叩きさらに身体的ダメージを己に与える
ヒャッハー系女だけだった)



温泉に入って究極生命体になった私は食欲がリセットされてしまったので、東京に帰る前に兄がおすすめしていたラーメン屋に立ち寄ることにした。

おすすめ、といっても最寄り駅にもある様な至って普通のチェーン店だが、学生証を出すとお得になるのである。

香ばしい黒にんにくの香り、湯気が立ちこめる中に待ち受けるのは綺麗に揃った麺と具材達。ワクドキが止まらない。

何故、黒マー油だの黒にんにくラーメンなどは
“ここ”がピークなのだろう。別にまずい訳では決してない。決して。


しかし、空腹で運ばれてくる黒にんにくラーメンの幸福感といったらとても素晴らしいのに、3口目
くらいには


「あぁ、そうだった」


と若干飽きるのは何故。

匂いを嗅いだときの期待値が100%として、実際の味は期待値の60%くらいである。


これは何故か。私が思うに黒にんにくの「これからどんな凶悪なパンチのある味が待ち受けているのだろう」という身勝手な期待に味が追いついていないのではないか。


そんな期待を勝手にされて勝手に失望される
黒にんにくは心底可哀想だと思う。
黒にんにくは多分入学当初だけモテる奴。


でも私はきっとまた黒ニンニクラーメンを注文する。そしてまた「あぁ、黒ニンニク系はこういう感じだったわ」と己を変えようともせずに黒ニンニクに対して一方的に不満を垂らして生きていくのだろう。

ごめんなさい。黒ニンニク生産者の皆様。
でもこんな1人の人間の感情を動かせる黒にんにくという存在は私の人生を豊かに、そして口を臭くしてくれています。ありがとう。

これからもよろしくお願いします。




にんにく臭い口にマスクで蓋をして私は
湘南新宿ラインに乗った。


あまり乗る機会がない向かい合わせの4人席に興奮して窓際に座りTempalayを聴きながら外を見ていた。

いくつかの駅を過ぎた頃、賑やかなお爺さん達が乗ってきて、そのうちの2人は空いていた私の向かいに座った。

「〇〇先生を覚えている?僕はあの先生には本当にお世話になって〜」

「△組の〇〇君、彼はあの後〇〇大学のカヌー部に
入って〜」

聞くに、高校の同級生らしい。目を細めながら
楽しそうに学生時代を振り返っているお爺さん達が微笑ましくて、
にんにく臭い口がにやけていた。

赤羽で、
「ここで僕は降りないと
ありがとう。楽しかったよ」

「僕も本当に楽しかった。あなたとはまた話が
したい。是非また会いましょう」

というやりとりをして、片方が降りていった。


電車がホームから出発して間もなく、
残ったお爺さんが

「うるさくしてごめんねぇ」

と話しかけてきた。

このコミュニケーション能力を分けてほしいものである。

「この年になって集まるとみんな話が尽きなくて
飲み過ぎちゃってね〜」

私「でも皆さんとてもお元気で良いですね」

「元気な奴しかもう来ないからね〜
本当は1組の集まりなのに僕みたいな6組の奴が
呼ばれるくらいには減ってるんだから」

「今日は僕たちの〇〇高校の同窓会でね、
ゴルフをやった後に飲んだんだけど、
みんな思い出話に花が咲いてお酒が止まらなくて、こりゃ明日は大変だな」

「あなたは学生さん?何歳?」


私「高校1年生の16歳です。
もうすぐ2年生になりますけど」

年齢を伝えるといさお(仮名)さんはびっくりして、

「はえ〜!16歳か、僕の孫娘が今25、6だからそれより下の世代と話すのはあなたが初めてだよ」

と言い、孫が可愛くて仕方なく会う度に抱きしめていたらお孫さんが8歳のとき拒絶されたこと、
それ以降は握手になってしまったこと、
寂しい気持ちもあるけれど祖父としては
握手だけでもとても嬉しいことなど沢山
教えてくれた。

「あなたにもお爺さんが居るなら沢山サービス
してあげなさい。ジジイにとっては孫に会える、
そこに居るっていうだけでとっても嬉しいんだから。ハグから握手になってもね」

もっとお爺ちゃんに優しくしておけば良かったな
と思い出すなどした。



そんな話をしているともう池袋で、

「ありがとう。
あなたみたいな若い人と話せて良かったよ。
頑張ってね」

最後に皺のある温かい手と握手をして
新宿で降りた。




なんか今映画みてえなやり取りしたなぁ‼️
なんか凄かったなぁ!一生忘れたくねえなぁ‼️

と脳内大興奮で、墓場で運動会って感じに
鼻息を荒げながらトイレに行き、
改札を出て気付いた。


渋谷で降りるんだった。


ありがとう、いさお(仮名)さん。
あなたの名前を知ることはなかったけど、
来年以降もずっと
いさおさんが同窓会に出席できることを
祈っております。



もう薄ピンクだった桜は葉桜になり、
外には入道雲がデデーン‼️
と姿を主張する季節に変わりました。

明日は数学と英語のテストだというのに何故
こんな時に私は春の記憶を辿り
書き上げているのだろう。
畜生。私が穏やかな人生を生きていけますように。



桜と菜の花とちいかわ

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