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アルベルト・モラヴィア 薔薇とハナムグリ を読んで

みなさん、こんにちは。アルベルト・モラヴィアの「薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集」から「薔薇とハナムグリ」を読んだ感想を書いていきます。

あらすじです 

※ネタバレを含みます。

ハナムグリの親子が、一番ふさわしい薔薇を探す旅に出ていました。そんな五月のある朝のこと、由緒正しき家に薔薇とキャベツが植えられている庭を発見し、降り立ちます。

この庭には、たくさん薔薇がある。あなたを迎えてくれる薔薇がたくさんね。あなたは、もういい年頃なんだから、好きな薔薇のところに飛んで行きなさい。

ハナムグリの親は娘のことを、常に心配していました。将来良い薔薇とパートナーを組めるよう、アドバイスをするために、一緒に行動してきました。要するに、過保護的な親です。

ハナムグリの親は、娘にあることを言います。

ハナムグリは薔薇の花を食べるために生まれてきた。

どうしても、薔薇が見つからなければ、それ以外の物を食べず、我慢すること。

という教えです。

ハナムグリ親は、娘のことを健全で高潔のあるハナムグリに育ったことを誇りに思っています。なので言わなくても、大丈夫だよね。という風に言って、娘と別れます。

枇杷の葉の上に、残された娘のハナムグリ。母の教えについて思いを巡らすが、あることが頭から離れません。

私は薔薇でなく、キャベツのほうに魅力を感じるんだけど

娘のハナムグリは、昔から自分が同じ種の仲間と違う。ということを感じていたのです。

その性癖を母親に相談しようとしていたのですが、自分の存在を否定されたり、悲しむ恐れがあるので、相談せずに今に至ります。年を取るのにつれ、誰にも解決できないだろうと、割り切り、自分の力だけで戦っていこうと決心したのです。

やがて、他のハナムグリから「一緒に薔薇の生えている場所へ行こう」と誘われますが、何かしら言い訳をつけます。

娘のハナムグリは

キャベツの場所で今休憩していますよ。

的なポーズを取って、キャベツの葉に居座ります。

やがて周囲にハナムグリがいないことを確認し、わざと足を滑らせて、キャベツの奥へと転がっていきます。そして、娘のハナムグリは我を忘れて、むさぶるようにキャベツの葉に穴を開けていきました。

夕方になり、母親と待ち合わせした場所に合流します。母親から薔薇について聞かれますが、よかったよ。的な感じで噓をつきます。

母親は

キャベツを食べていた、気持ち悪いハナムグリがいたのよ

と娘に言います。

娘のハナムグリは

えー、ほんと、気持ち悪い。どこの誰よ

と言い返します。

母親も他のハナムグリから聞いた話なので、詳しく分かりませんでした。ですが、娘と同じ年頃ぐらいのハナムグリであることを言いました。

もし、自分の娘だったら、一族の恥だし、死にたいぐらいだわ

と母親は言いました。

それを聞いた娘は

うん、そうよね。ほんと、母さんの言う通り

という感じでボソッと言いました。。

その後、親子は仲良く話しながら帰っていきました。


感想です


読んでいると、ハナムグリという名の「人間」という感じです。娘のハナムグリはどうやら、同じ仲間と違うことを薄々気付き、生きづらさを感じているように思えました。誰にも相談できず、平静を装っている姿は胸が痛くなります。唯一の血の通っている母親も「普通」という固定概念や世間体で生きている一人です。なので、娘は相談しようと思っても相談できない立場に置かれていることが、文章を読んで分かります。娘はこうして、世間体や社会の中で「偽りの仮面」を被って生きています。それでも自分の信念を曲げず、個性や特質を受け入れて生きています。その姿を見ると、力強く誰よりも美しいと思いました。

いつか、同じ考えを抱いでいる仲間が現れることを願いたい。そう思います。

私がこの話を読んで思わず、グッときた文を引用します。

「多数派と異なって生まれるのは厄介なことよね。いつ、どうしてかはわからないけれど、ふと、気がつくと、仲間と違っていることが、それだけで欠点や恥すべきこと、罪深いことになってしまうのだもの。あたしと多数派とのあいだにあるのは、数の差だけなのに……。たまたまハナムグリの大多数が薔薇を愛しているということだけで、薔薇を愛することが善いとされてしまう。まったく、なんてくだらない理屈なのかしら。それでもあたしは、キャベツが好き。キャベツ以外は愛せないの。あたしはそういうふうに造られたハナムグリで、いまさら自分を変えることなんてできないわ」

引用

薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集 「薔薇とハナムグリ」から
アルベルト・モラヴィア 作  関口英子 訳 光文社古典新訳文庫 出版社


世間体に流されず、自分に噓をつかず、ありのままで生きていくことの大切さを感じさせる言葉です。世の中は色々と変化するように、こういった少数派の考えを持つものもいると思います。

「そのような人たちとどう向き合っていくか」を考えていくことが、世の中を良く過ごせるヒントの一つかもしれません。

最後まで、読んで頂きありがとうございます。

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