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コインランドリーの冬


コインランドリーが好きだ。


不摂生な俺は、この日も夕方のやわらかな光に後ろめたさを感じながら、コインランドリーへ向かった。

コインを入れて動き出す巨大な乾燥機の中で、踊り狂う衣を眺めていると妙に落ち着く。
いつもは主人の身を包むだけの、おとなしい衣服の破天荒な振る舞いに、自由とはなにかを考える。


ほとんどの人が洗濯物を入れてすぐに立ち去るなか、無職の俺は回るという仕事に従事する機械に囲まれて、本を読む。鼻を掠める柔軟剤の香りが心地いい。


コインランドリーには様々な人たちが出入りしていて、取るに足らない生活の一部を切り取って映し出す。

途中、本を読む俺をこれでもかという程に凝視する子どもに、親の目を盗んで変顔をきめつつ乾燥終了。

乾いた、まだ生暖かい衣服を身体に抱くとき、いつだって気持ちが晴れる。
こんな風にあたたかく、包み込むように、人の道を歩みたい。


冬になった。

いつにも増して発令される自分の中の感傷注意報に気をつける。


外に出ると、今年の色づきを終えた木々の葉が舞っている。
すっかり冷えた空気に生ぬるい気持ちを引き締めながら路地を歩いた。

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