見出し画像

「タンパク質とは何か??」という質問に答えられなかった。

「タンパク質とは何か??」

僕は15年間鮨職人をしてきた。それなりに、栄養素としてのタンパク質は知っている気になっていた。

それでも「タンパク質とは何か??」というシンプルな問いに対する、シンプルな答えを見つけられていない。ということに気がついた。

タンパク質とはなにか

タンパク質 : アミノ酸からなるポリマー。
細胞内においてもっとも重要な仕事をになっている。

       (分子生物学、クラーク P25  最後に紹介します)

これが、僕が読んだ中で一番シンプルな、タンパク質の説明だ。

1、アミノ酸がつながっている重合体(ポリマー)
2、細胞の中で、もっとも重要な仕事をしている

それはわかった。ただ、なにもわかった気分にならない。

例えば、子どもとお父さんの会話。

「お父さんって毎日会社に行って、何しているの?」

「お父さんは、会社のなかでもっとも重要な仕事をしているんだ。」

「へー。そうなんだ...。で、それって何?」

「お前が、大きくなったらいずれ、わかるよ。」

お父さんの仕事は複雑で、子どもに説明できるほどの、言葉を持たない。説明しづらいから、うまくはぐらかされてしまう子ども。僕にとって、タンパク質への理解は、この子どもくらいのものだ。

でも、その答えが歳をとれば、自然に訪れるものではない。それは、ここまで無駄にしてきた膨大な時間が教えてくれている。だから、なんとか自走して、その問いに近づきたいと思う。

そういう答え合わせみたいなことを、ここでは書いていきたいと思う。



栄養学の中でのタンパク質


身近な、タンパク質の話として、今回は、栄養学の教科書から、話を進めていきたい。

栄養学の中では「これを食べないと、人間は生命活動を維持できないよ。」という三大栄養素として【タンパク質、脂質、糖】の三つを紹介してる。

この三種類は、直接、身体をつくる(血液内の組織、筋肉、髪の毛、などをアップデートし続ける。)材料か、身体を動かすための(考える、体温調節、拍動、呼吸、消化など、すべての運動を行うためのエネルギー源)のエネルギー源となる。

「身体をつくる」で、何をつくっているのかと言えば、まさに「タンパク質をつくっている」のだ。あるいは「身体の中でつくられる全ての素材を、タンパク質と呼ぶ」。 そういう理解でもいいとは思うのだが、何か違和感もあって。そこの違和感が「言葉にできな不思議」な部分としてずっと残っている。

例えば、髪の毛、爪、筋肉、唾液、血液、細胞など、これら、全てにタンパク質が含まれている。(含まれているというか、タンパク質そのものというか、その辺の捉え方も難しい。)

でも、、、、、。

「タンパク質を食べましょう」と言ったところで、僕たちは髪の毛は食べない。

「すみませーん、スープの中に髪の毛入っているんですけど!!!」

頼んだラーメンに一本の髪の毛が入っているだけで、僕らは不快に感じる。肌感覚として「髪の毛は食べられない」ことを知っている。

髪の毛だってタンパク質なのに。

なぜだ?

それは人間に、髪の毛を消化して栄養に変える装置が備わっていないからだ。それでも、髪の毛の成分はタンパク質であることにも変わりはない。ちなみに髪の毛が、髪の毛の形を保つために機能しているタンパク質は、ケラチンという名前がついている。(めんどくさい言い回し!!!)

そう。

体内でつくられたタンパク質には、名前がついているケラチン、アルブミン、カゼイン、アクチン、ミオシン、ヘモグロビン、アミラーゼ。

知っている単語もあるかもしれないし、知らない単語もあるかもしれない。これら、全ては、タンパク質に名付けられた名前だ。

そして、この中で料理をする時に、知っておきたいタンパク質は、アルブミン、カゼイン、アクチン、ミオシン。アルブミンは卵の白身、カゼインはミルク、アクチンとミオシンは筋繊維(牛、豚、鶏などの動物の肉)、に含まれるタンパク質だ。

あるいは、アミラーゼは、デンプンを分解する酵素として、口内で働く。それは唾液の主成分でもある。

人間の身体は、5~10万種類のタンパク質から成り立っていると考えられている。(未知なるタンパク質が多数あると考えられているので数字はだいたい)、ミルクの中に入っているタンパク質も、カゼインだけではない。体内と同じように、ミルクの内部にも数十種類のタンパク質が含まれていて、その主要なタンパク質がカゼインだということだ。
(そして、それぞれのタンパク質の機能や性質の違いが作用して、液体だったミルクが、個体のチーズに変化するのが、料理の科学的な面白さなんだけど。その話もいつかしたい。)

名前があるのに、仕事が紹介されないのはなぜか

僕がざっと、本を読んだだけでもタンパク質には、名前がついていて「それぞれのはたらき」が明らかになっていて。髪の毛の主要成分もタンパク質なのに、食べられません。ということが、発見できた。

なのに、なぜ!!!

栄養学のなかでは、名前ごとの仕事が紹介がされないのか??

どういうことかというと。

例えば、ビタミンやミネラル。これらは、【タンパク質、脂質、糖】のように、直接身体をつくる材料、エネルギーに関わる材料にはならないけれど。調整役として必要だということで、栄養学では必ず紹介される要素だ。三大栄養素に、この二つを合わせて五大栄養素と呼ぶ。

人が必要なものとして、ビタミンは13種類。ミネラルは16種類、紹介されている。そして、ビタミンとミネラルは、それぞれの名前と、体内での仕事が明らかになっている。

画像1

(栄養の教科書より。それぞれ体内での仕事がわかるようになっている)


スクリーンショット 2020-05-22 12.57.16


例えば、ミネラルのひとつである、マグネシウムは見開き2ページも、その仕事について詳しく説明されている。ちなみに、マグネシウムの摂取量として望まれているのは、1日、0,3グラム。

一方、タンパク質のページでは。

特定の名前がついたタンパク質が、主語になっているページは、1ページもない。ちなみに、タンパク質、僕の年齢で必要とされる摂取量は、16〜30グラムほど。筋トレしている人は50グラムほどのタンパク質の摂取が望まれている。

マグネシウム比べて、タンパク質は、10倍もの摂取量が必要なのに、なぜ、一種類も主役になっているページがないのか。

タンパク質の種類が紹介されていない代わりに、紹介されていることがある。それはアミノ酸だ。人体に必要なタンパク質は、20種類のアミノ酸がつながり、ポリマーを形成している。

そのアミノ酸の種類と仕事については4ページにわたり、紹介されている。

スクリーンショット 2020-05-22 13.06.11

スクリーンショット 2020-05-22 13.06.21

(紹介されてはいるけれど、マグネシウムみたいに、例えば、アミノ酸の一種であるバリンが、見開きで紹介されることはない。)

タンパク質はその構造が分解される

タンパク質をアミノ酸のつながりまで、分解できるなら。いっそのこと三大栄養素も【タンパク質、脂質、糖】ではなく【アミノ酸、脂質、糖】とすればよいのに。

とも、浅知恵で考えたけれど。そうなっていないところに、タンパク質の秘密があるんだろうなとも思う。タンパク質の働きが、ビタミンやミネラルみたいに、専門的な役割をするものではないから、紹介もしずらいのかとも考える。


例えば「鮨職人」は鮨を握るのが仕事だと想像ができる。ビタミンやミネラルも同じように、その仕事がわかりやすいから、説明ができる。

でも例えば「会社経営者」という肩書きになると、どうだろうか。
一気に仕事の複雑さが増すイメージができる。特定のサービスだけを作る会社、いくつもの事業を走らせている会社。一人の会社から数万人規模の会社まで。一言で「会社経営者」と言っても、その仕事範囲が「鮨職人」に比べて、個人の属性から、組織のあり方と関係性がその仕事内容を左右するイメージが持てる。

体内のタンパク質の働きも同じように、流動的で多岐に渡っている。だから、例えば、カゼインを摂取したら、それは体内で、どういう仕事をしますよ。ということが、説明できないのかも知れない。作用が複雑系だから。

あと、タンパク質は、一度、分解され新しく組み立てられて、ようやく機能する。だから、材料別の分類をしたとて、それぞれの仕事量が測れない。それは栄養素として、それぞれのタンパク質が詳しく紹介されない、重要な理由になっているかと思う。

ただそれだけでは、生物の教科書では「もっとも重要な仕事をしている」と紹介されるタンパク質が、ビタミンやミネラルに比べて、ページ数も少なく、さらっとした紹介しかされない理由には、ならない気もする。(ここに関しては、まだ答えはない)

これは、自分にタンパク質好きバイアスが「もっと詳しく載せてくれればいいのに!!」という気持ちにさせているだけかもしれない。この辺の話を相談できる人がいたら、紹介して欲しい、、、。

今のところ、タンパク質についてわかったこと

タンパク質について、今のところ、何がわかったかと言えば。ひとつだけ、よくわかったことがある。

それは、、、。。

「わからないことが、ありすぎる。そして、知ろうとすればするほど、それが、増え続けていく」

ということくらいだ。残念ながら、なにもわかっていないに等しい。タンパク質を、シンプルに説明できる言葉に、辿り着くことができるのかも、わからない。(だからこそ、こうして文章にして整理しているのだが、、、)

それでも、面白いことも発見した。

それは、世界中に「タンパク質の不思議」を追いかけている人たちがいることだ。

薬品開発、地球外生命生命体の探索、食糧危機解決、繊維開発、生命の期限探究、環境保全、遺伝子治療、合成生物学、ナノテクノロジー、栄養学、料理人、醸造家。

いろんな分野で、タンパク質の不思議が解明されようとしている。そして、この20年は、驚くほど、その理解が深まっていることも、わかった。この辺は「今さら何言ってんだよと思われそうだけれど。

去年までは何も知らなかった分「タンパク質って、こんなにも幅広い分野に関わっているのかよ!!!!」という驚きが、ものすごい。

そして、これからの20年は、、、更に驚くような発見と、生活を豊かにする技術が、タンパク質の不思議解明からもたらせる。これは、確実に訪れる(今でもものすごい技術が沢山あるのだけれど、、、)。


出だしで書いた疑問。
「身体の中でつくられる全ての素材を、タンパク質と呼ぶ」という理解が、大雑把にでも正しいとするならば。

タンパク質を知ることは、人間活動を知ることでもある。そして、その理解を深めることは、自己の存在を知るための、探究でもある。
自分の外側にある、研究や学問を追いかけることで得られる理解。自分の内側にあるものを見つめることで訪れる理解。
どちらに対しても思考をバビューンと飛ばしつつ、

「タンパク質とは何か??」という問いに対する、シンプルな答えが見つけられる日が来るのを願う。


今回のまとめ


・タンパク質は細胞の中で、もっとも重要な仕事をしているけれど、それを説明するのは、ものすごく難しい
・タンパク質の種類には、それぞれ名前がついているが、栄養素として紹介される機会は少ない
・個人的な理解としては、今のところ、わからないことが、増え続けているだけ
・タンパク質の探究は、幅広い分野に関わっている
・タンパク質を知ることは、自分を知ることにも、つながる

栄養学としてのタンパク質への疑問から、哲学的な問いまで。自由に思考を飛ばしていくことが、「タンパク質とは何か??」という問いへの、答え探しになるはず。


どれだけ、自由に思考を飛ばせるか。それが非常に大切な気がする。

最後に。

2018年に惜しまれながら亡くなった、ホーキング博士の素晴らしき、スピーチの始まりを紹介して。今回は終わろうと思います。

The questions I would like to talk about are: 

one, where did we come from?
How did the universe come into being?
Are we alone in the universe?
Is there alien life out there?
What is the future of the human race?
問いのうち 私がお話ししたいのは次のものだ

我々はどこから来たのか
いかにして宇宙が成立したのか
我々は宇宙で唯一の存在なのか
地球外生命は存在するのか
人類の未来には何が待っているのか
(TED TALKS訳)

「いかにして宇宙が成立したのか」に関しては、関わっていないと思うけれど。その他の、ホーキング博士が投げかけた問いには、タンパク質の不思議が関わっているのだと思うと。ドキドキが止まらないよなー。

タンパク質、おもしろいのです。

画像4


参考文献・資料









この記事が参加している募集

私のイチオシ

サポート、熱烈歓迎です。よろしくお願い致します。