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「生命と非生命の境界を探る」市橋伯一先生の講義を聴きました。

前回のELSI藤島先生に引き続き。

アストロバイオロジークラブオンラインの講義の要約NOTEを。

アストロバイオロジーは、生命の起源を、地球に限らず、宇宙まで思考と技術を飛ばして、探究している学問。

その分野の講義をyoutubeで聴講しました。主催のアストロバイオロジークラブオンラインは、主に大学生向けに配信しているようです。

僕は、学生でもないし、理系でもないし、数理モデルも理解できない、ただの大人なんだけど。個人的に、もっと普段の暮らしの中で、宇宙のふしぎ、生命のふしぎを考えたり、話したりできる時間をつくりたいなーと思っていて。

まずは、自分が理解できる範囲で、NOTEに講義メモをとっています。このアストロバイオロジークラブオンラインは、なんと2週間に一度は講義をやってくれるみたいで、超楽しみ。

ゆるく、追いかけていけたらと思っています。

と言うことで、今回もありがとうございました。

今回の講義は、宇宙は出てきません。前回は土星惑星の話まで出てきたのに!!今回は、地球上での出来事の話です。それも、めちゃくちゃ小さく狭い範囲の話。【試験管の中で起きていること】だけの話で、しかも、試験管の中にいるのは、生命でもない、、、、。

アストロバイオロジーって【生命をさがす旅】じゃなかったっけ、、、、??

広大な宇宙から、試験管の中の物語まで。幅広く飛んでいくのが、アストロバイオロジーの面白さなんだろうなと、感じました。


生命とは何かについてがわからないならば、つくってしまえばいいのではないか。という分子生物学的なアプローチをしているのが、市橋先生です。

という司会のたかはぎさんの説明のもと、講義スタート。
(ここから先は、講義メモです。)


【生命と非生命の境界を探る】市橋伯一


藤島さんは、広い視点で生命について語っていたと思いますが、僕は自分の研究領域について、話したいと思います。

私自身が学生の頃は、薬学部で、黄色ブドウ球菌(病原性微生物)の研究をしていました。その時代に、シュレーディンガーの 生命とは何か を読み衝撃を受けました。




何が衝撃的だったかというと、物理学者が生命の分野に「新しさ」を感じていたこと。この本をきっかけに、物理学の研究者が生物学の研究を始め、分子生物学という学問が始まっていくことになるのですが。【生物の中に物理の視点からの新しさがある】ということの衝撃と面白さを、この本で感じました。


その続きとして、



というような本に書かれている、「複雑系のシステムとしての生物」の見方があることを知ります。

特定の生物、例えば黄色ブドウ球菌とかではなく、生物の全体をより一般的に理解したくて、この領域に興味を持ちました。

藤島先生のセミナーでもありましたが、アストロバイオロジーでは
「地球の生物だけではなく、宇宙の中の普遍性をもった生物の捉え方をしたい」という目標があります。

そのために藤島先生たちは地球外生命探査を行っていますが。それと同じように、生命をつくることも、普遍的に生命を捉えることだと考えています。


「生き物をつくることによって生命を理解したい」という研究が、現在どこまで進んでいるのか。ということを、私の研究を中心に述べたいと思います。

はじめに。生命はすごい



まず「生き物はすごい」ということが私の、一番のモチベーションになっています。

スクリーンショット 2020-05-08 11.08.15

この、上の写真は火星の写真です。宇宙が好きな人が見たら、たまらない写真だと思うのですが。私は、下の2枚の写真のような、地球上のどこかの方が行きたくなります。

なにが「行ってみたいな」と思わせるのか。と言えば「生命の現象」です。おそらく、生き物が蔓延る前は、地球も火星の写真のような場所だったはずです。それが、何十億年前かに、世界が一変したんです。ひとつの細胞によって。

「ひとつの細胞が生まれたために、世界が一変して、(写真に写っている)上の世界から、下の世界になった」。ひとつのイベントで世界が一変したのは「生命という現象」しかないはずです。

その「生命という現象」を理解したい。というのが、研究のモチベーションになっています。

まず、どうしたら、理解したということになるのか。

私が研究している合成生物学の分野では、リチャードファインマンのこの言葉

What I cannot create, I do not understand

を拠り所にしています。作れないものは、理解できない。あるいは、作ることができたら理解できた証拠になる。という考えのもとで、生命を作る実験をしています。

今どこまで、理解が進んでいるかというと。治験は進んでいますが、細胞を作るのはできない。「なにか理解できていないところ」がある。それがどこかを、研究しています。

一番単純な単細胞生物さえ作れていません。

生命の作り方としては、まずは、例えば機械もそうですが「一度壊して組み立てる」という方法があります。しかし、細胞に対しては、それすらできません。

大学の頃、こっそりやっていたのですが、大腸菌を持ってきて、つぶして、壊す。そうすると死ぬ。死ぬけれど、大腸菌を構成するパーツはそこに全て残る。どうにか、それを組み立てられないかと、試したんですが、できなかった。

やってみたらわかりますが、絶対できません。


「材料を全部あつめても、組み立てられない」というのが、生命の難しい所です。なぜ、難しいのかを少し進めると。

・ものすごく複雑
・ものすごく小さい

ということが、言えます。一番単純な細菌でさえ、数千個の部品(分子(RNA,Protein)、低分子化合物など)から成り立っています。

小さな膜のなかに、それがものすごく綺麗にパッキングされているんです。人間が作ったものの中で、最も複雑なものの一つとされている、懐中時計のようです。懐中時計も3000個の部品が、複雑に枠の中に構成されている。

懐中時計を壊して、組み立て直す難しさに加え、細胞は、海中時計よりもさらに小さい。

なぜ、このような複雑さで生きているのか。

なぜ、生命はこのような複雑さで生きているのか、ということを考えます。
ひとつは、元のシステムを壊さずに拡張すると、どんどん複雑になる。ということが言えます。
生命がここまで続いているということは、前の生き物のシステムを受け継いでいると言うことです。システムを残したままでしか、進化ができません。
例えると、100年前、ものすごくシンプルだった東京の路線図が、今はものすごく入り組んでいるようなことです。

一度、ゼロにして路線を作り直せば、シンプルにできるかもしれませんが、今ある路線や駅は、周囲の反対などもあり、なかなか減らすことんができません。複雑さを増やしながら、いびつに駅や路線が増えていく方法しかありません。


同じように、生き物のシステムも「維持したたまま、増やす」ことしかできません。

壊して作り直すはやめた。人口ゲノムRNAでの実験

そこで今は、「今ある生命を再現する」のではなく、100年前の路線図のような、シンプルなものをまずは作れないか。ということを考えています。

進化の条件は色々な人が、定義をしていますが、

1、複製 (増えなきゃいけない)
2、遺伝する変異 (全く同じものを増やすのではなく、変異が必要)
3、なんらかの選択機構(選択による多様化) (maynard Smith1986)

という3つが大きくあります。

あと、必須ではないけれど「生き物らしさ」としては

4、情報の翻訳 (情報を持つことが大切)(Moreno 2008)

ということも大切なので、この4つを満たすような分子システムを生き物ではないところから作ってやろう。というのが、はじめに行ったことです。

その進化の条件を当てはまる実験として、RNA自己複製システムを作りましょうというのを、はじめの目標にしました。

人口ゲノムRNA(RNA複製酵素遺伝子だけをもった2200塩基ほどのRNA)に、無細胞翻訳系(タンパク質合成に必要材料の全てーtRNA,ribosome,amino-acid,NTP,etc-大腸菌由来) を加えたら、遺伝情報をもとに、進化が進むのではないか。

ということを予測しました。

これは前回の藤島先生の講義で「ひも」と呼んでいた部分です。
この人口ゲノムRNAと無細胞翻訳系を試験管に入れて実験していきます。37度で2時間くらい温めると、翻訳、複製、変異。というのが、材料を使い切るまで続きます。

全ての材料を使い切ったら、新しい無細胞翻訳系が入った試験管に、元の試験管からRNAを継ぎ足します。そこでもう一度、タンパク質を増やしていきます。

また、その試験管の材料を使い切ったら、次の試験管へ。鰻屋さんが、鰻のタレを継ぎ足して使っていくように、人口ゲノムRNAを、ひとつ前の試験管から新たな試験管に継ぎ足していきます。

すると、何が起きるか。

RNAの翻訳、複製、変異のプロセスの中で。仮に、コピーしやすいRNAが変異体として出てくる可能性がある。コピーがしやすいということは、他のRNAよりも子孫を残しやすいということなので、集団内の割合を増やすはずなのです。そして、最終的に集団内の全てのRNAが置き換わる。

そういうことが起きると予測を立てましたが、残念ながら、この実験ではRNAは絶滅します。なぜかというと、変異体は、複製機能を損なうからです。複製酵素を失ったRNAが増えていき、やがて複製が完全に止まります。

しかし、地球上の生き物は変異があっても、複製を続けています。次は、生き物に倣って、細胞構造(膜)を作ってその中にRNAをいれる方法を実験しました。

人口細胞膜モデルでの実験


ここで、予測されることは、複製機能がない変異体はいなくなり、複製機能があるRNAだけが増えると言うことです。ということで、人口細胞モデルをつくりました。

生き物の細胞膜は脂質二重膜でできていますが、今回は一重のエマルションをつくりました。

中に水溶液、外側は脂の膜。というものを作りました。そのなかに、ひとつのRNAを挿入します。これは、マヨネーズを作るときの反応と同じです。

そのエマルションを前の実験と同じように試験管で37度2〜4時間温めます。同じように、また栄養を使い切り、反応が止まります。

止まったところで、またエマルションを次の無細胞翻訳系が入った試験管に植えつぎます。するとまた次の反応が起きる。

エマルション細胞構造を導入した場合は、RNAは絶滅せずに、生き続けることができました。最終的には配列内に、変異が30数個入っていることが確認できたので、進化が起きることが確認できたということになります。

しかし、ある時間をきっかけに、変異もほぼしなくなっていきました。そして、多様性も産まれていないことがわかりました。変異があったとはいえ、ここから生き物が登場するかと思えるかと言えば、そうではありません。

際限のない進化ー多様性があり、より複雑になっていくーという状態を産み出していく。ということが次の目標となります。

共進化の環境を整える ー 寄生体が進化を加速させる

ここの課題については進化生物学の「共進化」の概念から、ヒントを得ました。全ての生き物は、宿主細胞に寄生するウイルスなどの、寄生体がいるのですが、その寄生体が宿主の進化を促進されている。という考えです。

人口ゲノムRNA実験における寄生体は、培養中に勝手にできることが、わかりました。複製段階で、ほぼ必ずできてしまう遺伝子が欠損したRNAが、元のRNAを宿主RNAにした、寄生体RNAとして働くことがわかりました

欠損したRNAは元のRNAに比べ、短いRNAなので、増えるスピードが早い。寄生体が増えすぎると宿主が途絶えてしまいます。ある種類の動物が増えすぎると、環境下の餌を食べ尽くし、やがてその動物が絶滅していくように、放っておくと、RNAにも同じようなことが起こります。

その課題を解決し(詳しくは動画で!!)、寄生体RNAと宿主RNAを共存させながら、実験を繰り返してみると、RNAは、最後まで変異し続けることがわかりました。

人間時間で言えば、2万年も進化を続けた

4500時間も変異を続けながら、増えて行きました。RNAは約3分で世代交代をします。大腸菌は約30分。人間の世代交代を20年とすると、RNA実験の4500時間は人間における2万年に相当します。ネアンデルタール人の時代から現在までの時間です。

ただ、残念ながら、実験を行ったのは、まだ一度だけなこと。また、RNAは、空気中にたくさん存在しているのでコンタミ(汚染)が起きている可能性もあります。

進化の継続は示すことができた。では、多様性はどうか。


変異の継続が確認できたことと共に、多様性に関しても、結果を得られました。
主要な進化ポイントで配列のシークエンスを行ったところ、大きく2方向への多様性が産まれていることがわかりました。そしてその2種類は、試験管の中で、共存できていたのです。

なぜ、2方向の多様性が産まれたのか。というと、寄生体RNAが2種類生まれたからです。それに伴う宿主RNAの進化の方向も2方向だったと考えます。仮に寄生体RNAの種類が増えると、宿主RNAの多様性も増えると考えています。


複雑性の課題は残る。

最後に、複雑性についてです。

複雑性に関しては答えがでていません。細菌から真核生物、多細胞生物へと、複雑なシステムに移行する段階を、実験するにはどうすればよいのか。

単純な自己複製システムから、変異の持続、多様化まではできた。

ここから、次に起きることを予測すると。多様化したRNA同士が、お互いの複製過程を協力し合うようになり、やがて統合すると考えています。(細胞にミトコンドリアが組み込まれたような、複雑さが増えていく)と予測しています。


まとめ

・非生物から、際限のなく進化し、多様化する人工細胞モデルができた。
・次は複雑性や新機能の進化を担う
・非生物から生命に近づけていくことで、生命を理解できるはず。

ということを、今後も続けていくのですが、複雑性や新機能の進化の実験としては、RNAだけではなく、DNAを使って実験も進めていきたいと思っています。興味がある人は、宣伝にもなりますが、私の所属している組織を紹介するので、是非、学びにきてください。


ということで、この辺で講義を終わりにしようと思います。
最後におすすめの本を。



とうことで、講義は以上です。


note書いている私の疑問点 2つ

今回も、ありがとうございました。疑問に思ったことが2つを振り返りとして、書いておきます。

1、ここで扱っている人工ゲノムRNAの作りかたが知りたい。ここは、簡単なのか??

藤島先生の講義では、「そもそもひもが、自然にひもになるのが難しい」と言っていたので、、、。それも、実験のように「材料をあつめて、とある環境条件を整えれば勝手にRNAになるのか、あるいは、塩基の数とかはどうやってコントロールしているのか。とかが、気になりました。

2、無細胞翻訳系の材料のすべてを、非生物から人工的につくるのは、どれくらい難しいのか。ここの課題はなにか。

この材料も、大腸菌由来ではなく、人工的につくることは可能なのか。あー、でもここができるには、まず、RNA実験も成功させなければ無理なのか??オール非生物由来の材料でのアプローチも、しているんですか??

この辺、気になるなー。あー、当日質問すればよかった。









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