メランコリア〜地球に異常接近する巨大惑星と世界が終わりを告げる時
『メランコリア』(MELANCHOLIA/2011年)
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『アンチクライスト』など、今やデンマークが世界に誇る巨匠となった映画作家ラース・フォン・トリアー。
そんな彼が自らの鬱体験を含みながら、壮大かつ甘美な世界観とともにスクリーンに映し出したのが、『メランコリア』(MELANCHOLIA/2011年)だった。
主演は二人の女優。一人は、ソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』、大ヒット映画『スパイダーマン』シリーズでお馴染みのキルスティン・ダンスト。彼女は、本作でカンヌ映画祭の主演女優賞を獲得。アメリカ人女優としては18年ぶりの快挙だった。
そしてもう一人は、シャルロット・ゲンズブール。あのセルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンの娘であり、1980年代半ばにフレンチ・ロリータ・ブームを起こしたこともある実力派。トリアーの前作『アンチクライスト』では、こちらも
カンヌで主演女優賞を獲得。
物語は、この二人が演じるクレアとジャスティンという、姉妹それぞれのパートで進んでいく。
それにしても、冒頭の8分間のプロローグが凄すぎる。美しすぎる。この後に始まる物語の象徴的なイメージが、歴史的な名画のような映像で綴られていく。
さらに、全編に流れるワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の圧倒的な調べ。そこには、観る者を完全に陶酔させる魔力がある。
以来、真夜中に輝く満月や不思議な表情を描く夕暮れ空を見るたびに、この映像を意識せずにはいられない。
第1部では、ジャスティン(キルスティン・ダンスト)の結婚パーティが舞台。鬱病を患っている彼女は、結婚によって普通の生活ができることを信じている。
しかし、姉のクレア(シャルロット・ゲンズブール)とその夫ジョン(キーファー・サザーランド)の大邸宅で開かれる宴では、次第に彼女のコントロール不能な言動がすべてをぶち壊し、心優しい新郎が去っていくという最悪の結末を迎えてしまう。
何もかも妹のためを想って、盛大に準備していた疲労困憊のクレアは言う。「あなたが時々たまらなく憎い」
それでも翌朝、姉妹は愛馬に乗って敷地を一緒に駆け抜ける。空を見上げたジャスティンは、蠍座の赤い星アンタレスが消えて無くなっていることを知る。
第2部は、その7週間後。鬱が酷くなって憔悴しきったジャスティンが、クレアとジョンの邸宅で一緒に暮らし始める。
一方でクレアは、地球に異常接近している惑星メランコリアのことが気になっている。知識の高いジョンは決して衝突はないと安心させるが、実は非常時に備えていた。
再び愛馬に跨る姉妹。しかし、惑星メランコリアは月よりも大きく、空に青白く輝いていた。その夜クレアが見たのは、裸になって小川のほとりに横たわり、うっとりと惑星を見上げるジャスティンの姿だった。
日増しに心が軽くなって、自分を取り戻していくかのようなジャスティンは、守るべき子供もいて怯えるだけのクレアに、「地球は邪悪。消えても嘆く必要なんかない」と言う。
ジョンの様子もどこか変だ。クレアは、遠ざかるはずの惑星が徐々に近づいていることを知って愕然とする。そして遂にその時がやって来る……。
監督は言う。
「ある意味、この映画のエンディングはハッピーエンドなんだ」
文/中野充浩
参考/『メランコリア』DVD特典映像、パンフレット
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