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租税回避黙示録・プライベートバンカー 完結版 節税攻防都市

シンガポールという富裕層が集う世界有数の歪な都市を舞台に、その超富裕層相手のある意味しもべ或いは飼い主として寄り添うプライベートバンカーを中心としたカネに纏わる人間交差点的な作品。著者は清武の乱の当事者でもある清武氏。ジャイアンツ以降はノンフィクションライターとして無茶苦茶活躍してた。

主人公がノムラの戦士だったこともあり、VIP相手の営業マン一代記としてもパワハラ文学を孕みながら楽しく読める。コミッションビジネスへの反抗と資産保全という有意義な仕事なはずなのに何故かみんな余り楽しくなさそう。プライベートバンカービジネスは傭兵が引き連れる金主を目当てに引き抜き合戦が行われており、こんな世界は外から眺めるのが丁度いい。

どうしても税金を支払いたくないという富裕層の抱える孤独であったり、国税の外国資産に対する徴税の網の広げ方など色々と気になる短編が多数提示され、物語のフィナーレはスーパー富豪老人とあるプライベートバンカーの殺人未遂事件にまで発展していき、文庫本の追加部分では全ての内幕を知る内部告発者までやってきて後味が少し悪く終わっていく。結構凄まじいスケールだが実話なんだと思うとexitしてfireなんてしてもそれはそれで辛い世界があるんだろなと。

租税回避地というチート的極致と比べると、我が国はお金持ちにとって凄まじい課税具合であるが、適度に税金納めて適度にせかせかと過ごした方が色々健全であると小市民の自分は思ってしまう。金持ち過ぎてもあんまり楽しくなさそうに記述されており、精神的結合のある家族や友人が居るという状況がベストなように思えてしまう。最後に出てくる佐藤浩一もそう言っていた。本編最後の主人公の実家帰省シーンでようやく我々の世界へと着地を果たし、「結局地元」とKOHHのような気分になっていく。サークルKこそザイオンタウンだったのである。

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