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東京の衝撃(vagabond)

上京してこの世には多種多様な人間が居ることを理解した。中でもコンクリートジャングルサバイバーakaホームレスの存在の多さは田舎者からしたら摩訶不思議であった。ホームレスにはハゲはいないという事実は地味に刺さる現実である。でも笑顔とトレードオフなのであんまり有益ではない。

ハゲてるホームレスは季節を越えることが出来ない弱肉強食の世界なのかもしれない。あとメガネホームレスも居ないのはネイティブな人間としての能力が高いのではと考察できる。視力が低いというのは産業革命以降の負の遺産だろう。

色んな種類のホームレスを観測してきたが、その中で出会った中でも一番な衝撃だったのは、確か新宿の街路にある花壇の中であった。行政が簡易的に美化や緑化を意識しているあってもなくてもいいシティオブジェクトを自由に想像して欲しい。

何らや茂みの中で蹲るそれを、完全に異質な存在として移動中に出会した自分は興味深く観測していた。体調でも悪いのかと立場を超えた人間への純粋な心配心を抱いていたが、ちょうど近づくにつれてノソッと彼は動き出した。ホームレスっぽい人が行動停止せずにアクティブな状況にあると何故か心地よい。食事や会話をしていると尚良い。

立ち上がるそれをみて最初の衝撃はまずズボンを履いていなかったという事である。浮浪者丸出しフォルムでありながら、下半身は生まれたてのような高潔さに溢れていた。意外に局部を晒す貧者の姿というのはお目にかかれない。というか街で恥部を露出している大人なんて実際激レアである(即ち着衣はウェルダン)

丸出し=小便でもしているのかと即座に理解したつもりでいると、ズボンを下げたまま彼は徐にスコップを取り出した。ワークツールを使用するホームレスというのはミスマッチ過ぎて最初は理解できなかったが、丁寧に花壇を掘っては何か埋めているようであった。

さらに注意深く観察していると、その花壇にはどう考えても人糞が鎮座していることに気づく(ドープネス)その排泄物をスコップで拾い上げるとまるで死者を弔うように、掘り当てた穴の中に捨てていた。ホカホカ感ってうんこかコロッケ以外に使わない言葉ですよね。

ここで初めて花壇・下半身露出・排泄物というのがリンクし、ホームレスが野糞をしてちゃんと後処理に講じている事に気付く。自分は野糞をしている人を生まれて初めてみたかもしれない。しかも自然が人工的にしか確保され得ない新宿という土地である。これが首都の多様性の脅威である、と自分は漠然と行動する人生の幅広さにワクワクしていたのを覚えている。一期一会というのは最高のワードである。作った人は税金控除してやって欲しい。

「街中で野糞をしてちゃんと埋める」という行為に対して、最初は倫理的にいかがな行動かとちょっと心傾いたが、冷静に考えると、「結構マナー良くないか?」とちょっとずつその行動を肯定するような心情になっていく。公衆トイレすら夜になるにつれ無惨になっていくこの東京という土地においては、場所はともかくちゃんと排泄部を土葬するという行為は人間としてかなり真っ当ではないかと思案するのである。

スコップ持ってるが故にトイレに行こうとしない心意気は地味に愉快である。穢れは隠匿すれば世の中は平和に回っていく。

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