見出し画像

バイタリティおばけ・アラビア太郎

またの名を満洲太郎や山師太郎こと山下太郎氏の伝記小説。とにかくひと山当てるパワーを維持し続けた恐ろしい行動力と人物で、札幌農学校編・オブラート開発編・香港サバ缶編・満洲米輸入編・満洲住宅編とアラビア太郎に辿り着くまでが既に面白すぎて、本題となる石油採掘編もそれまでのスケールとは比べ物にならないほどデカ過ぎてマジで面白い。最後の国家事業的大博打が始めるのが70付近という凄いバイタリティおばけな事実も末恐ろしい。

戦後満洲編のほぼ全てがチャラになった後も財界ネットワークが健在であり、邸宅がGHQ占領下の日本の実質的な会議室となっていた事実であったり、戦後財界の懐疑性を含みながらの一致団結感や石油を掘り当てるというほぼ独占状態にあった英米資本へど素人が熱量だけで挑むという姿勢は末恐ろしい。日曜劇場みたいなことを現実で成し遂げている物語性に富み過ぎている人物で、また満洲国が歴史の教科書ぐらいでしかキャッチアップできていない自分としては、ゴールドラッシュ時のカリフォルニアぐらいの激アツ開拓地であった事実も知れてよかった。

この人のとにかく凄いところは撤退の速さというか「辞めとくか」という判断の潔さである。無茶苦茶金持ちになったり事業失敗を繰り返している生粋の資本バトラーであるし、引く時の潔さみたいのはなんか色々超越し過ぎてて凄い。アラビア太郎周辺の人物も無茶苦茶凄い活動性を持っておりググってもあんまり出てこない事実も含めてサイドストーリーが気になり過ぎる。時折挟まれる「〜と筆者に語っていた」という当事者インタビュー的に差し込まれるバキ的回顧手法もかなり好み。

中東諸国との採掘権交渉を巡る臨場感はのちにアラビア太郎となる事実が分かっていても手に汗握る展開であり、サウジとの合意が取れた後もクェート編にすぐさま突入し、入札情報の「道で拾ってきました」の件はマンガ過ぎてカッコ良すぎる展開である。マージャン禁止令解除と怒鳴られずに済むという部下の本音の涙は映像化した時のハイライトになりそうだなと思う。民間の石油王という世にも珍しい日本人が存在したという事実も含めて是非読んで欲しい。

最後にアラビア石油のその後であるが、40年ぐらいの採掘権契約を終えた後は、延長契約に至らず2000年に採掘権喪失で開発事業は撤退。その後は販売窓口や技術支援として活動していたものの事業規模は縮小し富士石油子会社へ再編したあとも存続中である。ホリエモンがフジテレビ買収時に仲介をした謎のフィクサーという「アラビア太郎の息子」はこっからようやく出番となる。

この記事が参加している募集

#ノンフィクションが好き

1,416件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?