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【ショート・ストーリー】朝のごはん



先ほど仕事へと見送った同居人が、腹筋ローラーを持ってきた。
と思ったら、どでかいパンだった。
アパートから近くの職場から焼き立てをもらってきたらしい。
袋の上からでもメープルが香るパン、いかつい顔の同居人が持ってきたパンにしてはメルヘンすぎて面白い。
腹筋ローラーの放つメープルの匂いは、ぼんやりしたわたしの頭を強めに刺激した。
酔ってしまいそうだけど、すっごくいい匂い。
まだほんのり温かいから、このまま食べちゃおう。
同居人にも食べるか声をかけたが、仕事に間に合わなくなるからと出てしまった。
さあ、一人のブレックファストを楽しみますか。
舌を口な端からぺろりと出して、顔の前で手をすりすりしたい、そんな気分。

いやしかし、さすが腹筋ローラー。
この量は流石に二人では食べきれないので、翌日はトーストしてもいいかも。この間買ったバター、買ったはいいけどなんだか手付かずなのでちょうどいい。
甘いパンに有塩バターを伸ばしたら、とっても美味しいかも!
調理方法はいろいろと思い浮かぶが、今日はまだあたたかいパンをそのままいただく。
今日は気分がいいので、フライパンにバターをひいてスクランブルエッグを作りましょう。
そして甘いとしょっぱいを交互に食べるのだ。
ケチャップをかけるので、卵の下味は薄めで。
わたしのご飯はいつも味が濃いらしく、同居人からクレームが来るので、気持ち少なめ。
塩辛くたって、これを優雅にいただくのは私だけなんですけど。おほほ、ごめんあそばせ。

欠かせないのが朝のブラックコーヒー。
フォルムが可愛いケトルに水を注ぐ。
ちょうどマグカップ一杯分の水量は、このケトルを一ヶ月間毎日使い続けたので感覚でわかるのだ。
大変便利なこのケトル。同居人へ必死のプレゼンした甲斐があり我が家いる。
ここ最近で、一番買ってよかったと思うアイテムだ。
スイッチ、ぽん。
ほぼコレクター化したマグカップの群集から、「今日の子」を決める。
今日はこの、大好きなクリエイターさんの作ったマグカップにしましょう。
マグカップにドリップコーヒーのフィルターをセットする。
毎日コーヒーが飲めればいいのだが、面倒な日は、正直、白湯で済ます。
味といい、なにかといい加減なわたしなのだ。
同居人は知らない、かも?

そろそろ沸騰しますよ、と言わんばかりの蒸気の音。(便利なんだけど沸騰前の音がでかすぎるのは難点っちゃあ難点)
甘いメープルパンを厚めに切ってバンズにし、
中に強めに塩胡椒で味付けして黄身をしっかり完熟させた目玉焼きを乗せて…
そう!マックグリドル!
あれみたいな味にならないかしら、などと沸騰するまでの間に妄想を膨らます。
思い付き一つすらも楽しい、なにせ、気分がいいからな。
鼻歌を歌いながら、コーヒーフィルターにゆっくりと、何度も何度もお湯を注ぐ。
自家製マックグリドルは、同居人に毒味してもらおう。


*   *   *


「あ、これが丁寧な暮らしか。」
想像するのは無印良品。
全部食べ終わり、マグカップを口から離す。
そう思うでしょ、と存在しない猫に語りかける。
イマジナリー・キャットは、わたしが猫を飼いたすぎて生み出した存在だ。
わたしの想像なのだから、呼びたい時にだけ仲良しできる最高のフレンズ。
なるほど。わたしって夜型人間で、めっきり朝とは仲良くなれないと思っていたけれど、こんな生活も悪くないわね。
食後恒例のお戯れ、イマジナリー・キャットを抱き上げる。
降ろして欲しそうな素振りを見せたので、膝の上に戻してやるが、離してはやらないのだ。
お前はわたしと一緒に寝るんだよ、一緒に牛になるんだぞ、と抱きかかえる、というよりはしっかりとホールド且つ猫可愛がりしながら硬くて冷えたフローリングに横になる。


目を瞑り、本当は現実世界で猫ちゃんを抱きたいな、まあその夢は叶わなさそうだし(同居人とか同居人とか同居人のせいでね!)とりあえず自家製マックグリドルはパンが悪くならないうちに作ってみようかな、などと考えていたら、眠りについた。

時刻はまだ9時前。
同居人に知られたら怒られちゃうな。
いや、気付いているんだろうな、何もかも。




云寺




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