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【連載】スローイン・ファストアウト 0


背はどれくらいだろう。高いわけではないが私よりは確実に高い、日本人男性の一般的な高さ、172.3といったところだろうか。
この三行で私のサイズが豆なことをご理解いただきたい。今後の話に一切絡むことのない情報だが。
体のラインはかなり華奢で痩せ型。私より軽いんだろうな、と思うと少し病む。

スーツに着られている感じはないが、夏場に着ている白のポロシャツの方が似合っていた気がする。羽織がないので細いウエストが顕になって、あまりの細さに少し引いた。
寒くなると○○はスーツの中にグレーのニットカーディガンを着込む。社会人を象徴するスーツと、高校生を彷彿させるカラーニットのアンバランスさがたまらなく愛おしい。

綺麗な逆三角形の顔は、痩せ型故頬がこけているのでより図形っぽさが強調されている。
目が大きいのも、また一つの要素だろう。
横からちらりと見る○○の顔は、長い睫毛と相まって通った鼻筋が大変美しい。
両方とも私にないものなので羨ましく思う。ください。

二重だったかしら。そこはちょっと自信がない。
何故なら恥ずかしくてじっくりと観察ができないから。
ここまで事細かく書いておいて、何を今更、という気はしないでもない。裏手で突っ込まれてもおかしくはない。
少し眼窩が落ち窪んだ両目は、二重でないとしても溢れるほどの大きさがあり、口ほどに○○の表情が窺える。
温度の低そうな瞳。
威圧感のある○○の目と、糸のような私の目が合うと、鷹と鼠のようだ。鷹に喰われるのではないかという恐怖と、この鷹になら喰われてもいいかと錯覚させる美しさが混在している。

マスクをつけていることが多いが、気がついたら口を覆う部分を顎にかけているのでよくわからない。たまに剃り残しの髭の存在を見つけ、ああ、男性なんだと確認する。
必要性を感じさせないマスクに、少し長めの前髪をいじる仕草から、若さを感じてしまう自分が老いたことに気づく。純粋な「悲」だ。

この人が、一月から付き合いのある私の○○だ。好きになってしまうかもしれないな、と思ったのは、出会った一月の頃。


* * *



頬杖している○○の、顔に寄せられた左手薬指には、銀色の細い甲丸のリングに隙間がぶかぶかと不安げに存在していた。



云寺







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