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「役が抜けない」俳優が知っておくべき影響と予防策

こんにちは!
芸能に特化したメンタルサポートサービス「TAP(ティーエーピー)」です。

今回から、TAPのコラムをより身近に気軽に取り入れていただけるよう、「Performance TIPS」という形で不定期連載してまいります。

今回は、「役が抜けない」に関するコラムの第二弾として、「役が抜けない」ことによって起こるメリット・デメリットとその予防策をご紹介いたします。
※TAP公式LINEアカウント内で4月15日に公開された記事です。
(TAP公式LINEアカウントはこちら▶https://lin.ee/zCMDruu

それでは、記事本文をどうぞ!


過去のコラム「「役が抜けない」とは?その原因と心理学的背景」では「役が抜けない」という状態について、防衛機制の「同一化」「投影」という観点から解説をしてきました。
続編となるこの記事では「役が抜けない」状態のメリットとデメリット、また役が抜けなくなった時の対処法についてご紹介していきます。


「役が抜けない」ことのメリット


① 役をより深く理解できる

役を演じる上では、演じるキャラクターが持っている価値観や物の見方、生い立ちなど様々な観点から役について理解する必要があります。
「役が抜けない」状態を「自分の中にもう一人、別の自分がいる」と表現する人もいます。「役に没入」すると「自分」以外の「別の自分」の視点からも日常生活を捉えることができるようになり、役についてたくさんのことが見えてくるのです。
その役は「朝起きてからどのように過ごすのか」「家族や友人とどのように過ごしているのか」「日常的な些細な出来事をどのように感じているのか」など、色々な出来事を「役の視点」としてリアリティを持って体験することができます。
その中には役を演じる上で重要な手掛かりになる経験もあるかもしれません。役への洞察を深めることができるという点は「役が抜けない」ことのメリットとなります。

② 気づいていなかった自分の一面を知ることができる

「役が抜けない」状態が生じる背景には、あなたが日頃意識せずに抱えていた願望や、認めることのできない気持ちが隠れています。
だからこそ、「役が抜けない」状態をしっかりと観察することで自分を理解することができるのです。
具体的な例を考えてみましょう。

演じた役:寂しがり屋な役
生じた変化:誰かと常に一緒にいたいと思うようになった
気づき:「頼られるような人になりたい」と思っていたけれど、実は「寂しいのが嫌で誰かに甘えたい」という一面も自分にはあるのかもしれない

どんな一面もあなたを構成する大切な一部分です。
隠れていた自分の一面を今すぐに認めてあげることは難しくても、否定したり無視をせず「そんな自分もいるんだな〜」と客観的に捉えてあげてくださいね。
また、役を演じる上では自分自身について知ることも重要になってきます。自己理解が進むことは、より良い演技をすることにも繋がっていくのです。

「役が抜けない」ことのデメリット


① 役作りの幅が狭まってしまう

一方で「役が抜けない」ことにはデメリットもあります。
「役が抜けない」という状態は「演じている自分」をコントロールできなくなっている状態であるともいえます。

役作りをしていく過程では、「別の表現ができないか挑戦してみる」「今までの役の解釈を白紙に戻して、改めてゼロから考え直してみる」場面もあるかと思います。 監督や演出家の意図を汲んだり、作品のメッセージをより明確にしていくために、意識的に様々なことを「試す」ことは重要です。
しかし、「演じている自分」をコントロールできなくなると、意識的に様々なことを「試してみる」ことが難しくなってしまいます。
その結果、役作りの方向性が固定され、表現や解釈の幅が狭まってしまうのです。

② 「あなた」が傷つく可能性がある

俳優として様々な作品と関わっていると「地震などの自然災害を経験する役」「虐待された経験がある役」「犯罪被害者の役」など「心に傷を抱えた役」を演じる可能性もあります。
「心に傷を抱えた役」を演じる際に、「演じている自分」をコントロールできなくなると「あなた」が傷つく可能性があります。

例えばこんなことが起こる可能性があります。

  ・役が経験した辛い出来事をふとした瞬間に思い出してしまう
・眠りが浅くなり、小さな物音でも目が覚めるようになった
・しんどいシーンを演じた後、時間が経っても、やる気が出ず、無気力な状態が続いている
・演技中ではないのに、突然涙が出てくる

これは「心に傷を抱えた人」に深く共感することが原因で生じる現象です。

「心に傷を抱えた人」を支援する医療職や福祉職の間では「二次的外傷性ストレス」という名前で知られています。
「心に傷を抱えた人」を演じている中で「役が抜けない」状態になると、「二次的外傷性ストレス」を経験する可能性が高まります。

役を演じることで「あなた」が傷つく必要はありません。 「俳優として誠実に役と向き合うこと」は「演じることであなたが傷つくこと」とイコールでは決してありません。

「役が抜けない」状態を防ぐための方法


ここからは「自分」と「役」の間の心の距離をコントロールする方法についてご紹介します。

客観的に自分を見つめる「ラベリング」

「ラベリング」とはマインドフルネスや瞑想の際に用いられるテクニックのひとつで、「気づきを心の中で確認する」ことを言います。
浮かんできた感情や思考が「自分のもの」なのか「役のもの」なのかを心の中で確認する「ラベリング」を日常的に繰り返すことで、「役が抜けない」状態を防ぐことができます。
具体的なやり方を例を用いて考えてみましょう。

①感情を確認する
例:作品の中で、ライバル役を演じる俳優に対して「むかつく」「失敗すればいいのに」というような気持ちを抱いている

②自分に問いかける
例:「これは『自分がライバル役を演じる俳優』に対して感じている気持ちだろうか?それとも『役を演じている自分が、役としての相手』に感じている気持ちだろうか?と問いかける

③ラベリングを行う
例:「自分がライバル役を演じる俳優」に対して感じている気持ち⇨「自分の気持ち」と心の中で唱える 例:『自分が演じている役が、相手が演じているライバル役』に感じている気持ち⇨「役の気持ち」と心の中で唱える

「感情」を詰めた瓶にラベルを貼っていくようなイメージで取り組むのもおすすめです。


1日の終わりのルーティンを取り入れる

1日が終わった時に取り組む「ルーティン」を取り入れてみましょう。 ルーティンはいわば「自分に戻るための儀式」です。短時間で簡単にできるもので構いません。
毎日繰り返すことで、いつもと違う自分にも気がつけるようになります。
例えば

  ・どんなに忙しくても湯船に浸かる
・就寝前にノンカフェインのハーブティーを飲む
・好きな曲を集めたオリジナルのプレイリストを聴く
・リラックスできるようなヨガのポーズをとる
・1行日記をつける

「今日1日の中でできたこと」や「努力したこと」など、「これはOKだったな」と思えることを思い出す振り返りもおすすめです。
自信を取り戻す振り返りについては、TAPコラムでもご紹介しています!

最後に

「役が抜けない」という状態は「役を演じる」俳優ならではの悩みです。
とはいえ、「仕事として演技を行う空間」である現場ではなかなか表面化しにくく、周囲に相談もしにくいのが実情ではないでしょうか。

この記事を読んで「今の自分の役に立ちそう」「これをやってみたい」と感じるものがあれば、是非取り入れてみてくださいね。
また、長期間「役が抜けない」という時や「役が抜けない」ことで苦しい思いをしている時は、ひとりで取り組もうとせずTAPサポーターを頼ってみてくださいね。

■この記事を書いた人