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ラスト・チャンス(43) 〜ゲームの主人公に転生したら、どのルートもバッドエンドだったんですが!?〜

↑1話目はこちら(1話目の先頭に目次あり)

第43話 答え合わせ

 事件の後処理も含めて一段落した頃、夢を見た。そこは真っ白い空間で、そこに例の案内人だけが立っていてもう扉はない。

「ここは……って私、死んだ!?」
「いやいや、ここは君の夢の中だよ。死んでないから安心するといい」
「ふぅ……紛らわしい登場の仕方、しないでよね」

 私の姿はかりんに戻っていて、ちょっとこの姿も懐かしいと感じる。一年ぐらいエマをやってたわけだから。

「まずはおめでとう。かりん君は見事に困難を克服したよ!」

 パンッ! とクラッカーの音。どこから取り出した!? いや、そんなことより、どうやら色々手を尽くしたのは無駄ではなかった様ね。

「じゃあ、これで戦乱の世は避けられたってことよね?」
「そうだね。誰かと婚約することで訪れる不幸『は』全部回避できたね」

 ん? 今、不吉なことを言わなかった?

「ちょっと! 不幸『は』ってどういうこと!? まだこの先も試練があるってこと!?」
「いやいや、今回の様なカオスな状態ではないよ。しかしエマとしての君の人生は始まったばかりだから、今後も君の選択次第では同様のことが起こり得るってことさ」

 目の前のことで手一杯だったけど、言われてみればそうか。今後もエマとして生きていくなら、王位継承権一位の王女として様々な事に対処していかなければならないわけだし。

「それとも、ここでリタイアして元の世界に戻るかい?」
「そうなったらエマはどうなるの?」
「君が入っていない彼女として、今後女王となるんだろうね」

 うーん、それはそれでちょっと不安もある。私が入っている間にアカデミーで経験したことなどは彼女の記憶として残るらしいけど、手元に残った赤いホバーボードとか見て途方に暮れるんだろうなあ。しかも恋愛対象だったはずの三王子が友達になっていて、幼馴染のレオとはちょっとだけ間柄が進展している……これ、彼女が受け止められる!?

「まあ、無理だろうね」
「考えを読むな! でもまあ、結構好き勝手やったからこの状態を彼女に押し付けるのは酷な気もするなあ」
「どうする?」
「私がエマとしての人生を終えたとしても、元の世界には戻れるんだったわよね? まあ数十年も生きて前世の自分の中に戻ったら、それはそれで違和感ありそうだけど」
「そこは何とでもなるよ。記憶を消すことも、違和感がないように記憶を残すことも」

 それだけ融通が効くならエマの問題も解決して上げれば良かったのでは?

「それができれば苦労はしないんだけどねえ」

 だから考えを読むんじゃない! しかしまあ、それなら答えは決まっている。このままエマとしての人生を継続だ。ちょっと責任も感じてるし。

「乗りかかった船だから、最後まで面倒みるわ。それより折角あなたに会えたんだから何個か聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「なんなりと」

 これは答え合わせ。事件は解決に導けたけど、いくつか引っかかることもあったのよ。

「まず、ヒントとして教えてくれた『勘違い』と言うのは、私に兄がいるってことだったのよね?」
「そうだね。バーバラにそう暗示を掛けられていたのさ」

 それは前の三枚の扉の中でも最後の扉の中でも同じで、エマが殺害される時に聞いた『王配になどさせない』と言う言葉は、エマ自身のことではなく三王子のことだったのよね。そして相手の解釈とエマの思い込みの間に生まれた軋轢が、アマンダお姉様の暗示により更に増幅されてエマ殺害に至ったと……バーバラとしての彼女はエマが各国に行く時必ず同行していたし、相手に暗示を掛けるチャンスがあった。でも一点、納得できないことがある。

「アマンダお姉様とカーラは姉妹だったでしょう? それにカーラのことを凄く気にかけてた。そんなアマンダお姉様がカーラに暗示をかけてエマを殺害させようとするかしら?」
「カーラ嬢には暗示はかけていないよ。アマンダ嬢は確かにラッシュブルックの城内でカーラ嬢に接触したけれど、彼女たちが本当はイグレシアスの王族であることや、エマ王女がユージーン王子を王配として迎えようとしていることを伝えただけさ」

 やっぱり。カーラは前の扉の中でもユージーンが思い通りに生きられることを望んでいたから、エマと、そして多分自分自身を犠牲にしても彼がラッシュブルックに残れる様にって思ったに違いないわ。恋は盲目とは言うけれど、カーラはそれぐらい彼のことが好きだったんだ。それはアカデミーで彼女と親しくしていても凄く感じたことだもの。

 暗示は掛けていなかったとしても、『エマが王子を取り上げて国に連れ去る』と言う強迫観念が動機になったのはどれも同じ。アカデミーに進学して婚約を遅らせると言う判断は正しかったと言うことね。

「あと一つ。『プリンセス・オブ・イグレシアス』のゲームについてなんだけど、あれってあなたが無理やり介入して作らせたんじゃないの? 普通に考えて、ゲーム内容と全く関係ないパッケージ絵を使うなんてあり得なし」
「アハハ、バレていたんだね。ご指摘の通り、この世界に最適な人選をするために少し介入させてもらったよ。あとはゲーム制作陣に任せたのでギャップができてしまったけれど、せめてものヒントとしてパッケージの絵は残すように干渉したのさ」

 もうちょっとゲーム内容にも干渉しておいてくれれば、最初の三枚の扉でエマが殺害されることもなかったでしょうに。いや、恋愛ゲームならあの内容が妥当なところかな。もういっそうのことアドベンチャーゲームにでもしておいてくれれば、前世で謎解きまでできたかも知れないなあ。クソゲーではあったけど、エロゲではなかったことは評価すべきかしら?

「そういうゲームがお好みかい?」
「王女が主人公のエロゲは流石にダメでしょう。エマはまだ十五だし、そう言うことは十八禁なんだからね」

 さて、謎も全て解けてスッキリした所で、私は現実に戻ろうかしら。

「今度あなたに会うとすれば、エマの人生を全うしてからかな?」
「そうだね。かりん君には感謝しているよ。不安定だったこの世界を救ってくれたんだからね」

 当然よね。最初から私がエマの代わりをできていれば、四枚も扉を通過しなくても良かったかも知れないけど。あ、そうだ!

「ンッ」

 右手を差し出すと一瞬不思議そうな顔をして、ああ、って顔をした後握手してきた案内人。

「いやいや、違うから! 頑張ったんだから、何かあるんじゃないの? ご褒美とか報酬とか!」
「あー、でも私は何も持ってないし、あちらの世界には干渉できないしねえ」
「前世のゲーム会社の人には干渉したんでしょう?」
「……」

 図星だった様で、黙り込む案内人。

「な、何が希望かな?」
「それよ?」
「は?」
「だから、その困った様な顔。あなた案内人なんて言ってるけど神様なんでしょう? ずっとひと泡吹かせてやりたいって思ってたの」
「まったく、君には敵わないな。そんなことが報酬でいいのかい?」
「そうねー。じゃあ、前世の世界にでも行って、もっとゲーム勉強して! 次に同じ様な手で誰かを引き込むなら、もっとまともなゲームを作れる様にね。まあ『プリンセス・オブ・イグレシアス』も色々と好きな要素はあったんだけど」
「分かった。次があれば、もう少しましなゲームになるように勉強しておこう」
「オーケー、じゃあ、戻るわね」

 本当の意味で再度握手した所で目が覚める。最後に見た案内人の呆れた様な顔、あれで報酬は十分だわ。こちらの世界では沢山の友達もできたし、何より熱中できる研究対象もある。カーラとシアーラと言うオタ友候補もいるしね。

 さーて、最後までやり切ると宣言したから、引き続きエマとしての人生を楽しみましょうか。最初の関門はクリアしたけれど、これから結婚したり女王になったり、まだまだ色々なイベントがあるでしょうし。未知のイベントが多数ならこれからもまだまだ楽しめる。ゲーマー魂の火が消えることはしばらくなさそうね。

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