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1年のうち5日間だけ、佐賀の空がバルーンで彩られる日がある。
先日、今年の都道府県魅力度ランキングが発表された。
最下位は、佐賀。
「サガ、今度行くぞ?」と、反射的にツッコミをいれてしまった。「おいおいおい、佐賀にはバルーンがあるではないか。」と。
11月、世界的にも風が少ないと言われる佐賀平野では、「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」というバルーンの世界大会の1つが開催される。
一度は誰もが想像したことはある、澄んだ空に数え切れないバルーンが点々と散らばる、ファンタジー溢れる景色が、この佐賀で見られるという。
また、11月というのは、大学の学園祭シーズンである。サークルにも部活にも関与してこなかった僕にとって、授業がないこの休みと重ねて開催されるこのイベントは、行かざるを得ないわけである。
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今回は、昔から一度は行ってみたいと思っていた、このバルーンフェスタに、気合いを入れて行ってきたので、その旅の記録を残したい。
1日目
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成田空港から福岡空港へ飛んで、博多から特急に乗れば、40分ほどで佐賀に着く。朝イチの便に乗って、途中、吉野ヶ里遺跡に寄り道しても、午後の部には、余裕で間に合う。今一度、「実は佐賀は近い」ということを強調しておかなければいけない気がした。
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この駅からは佐世保線に分岐する。
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11月2日から6日まで5日間、開催されるこの大会では、毎日、朝の部と午後の部で、主にバルーンが上がる。僕は、大学の授業の関係上、11月4日から佐賀入りしたが、3日間で充分過ぎるほど楽しめた。もう、一生分のバルーンを見たことになるんじゃないかな。
大会期間中、JR九州の佐賀駅の2駅隣に「バルーンさが」という駅が臨時で誕生する。いつもは仮のホームが放置されているのみだが、この5日間は信じられないほど盛況する。この駅のすぐ隣に嘉瀬川という川があり、この川の河川敷一帯が競技会場となるのだ。
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15時から始まる午後の部だが、バルーンが飛ぶか否かは直前の14時50分ごろにならないと決定されない。14時の時点で佐賀駅に到着していた僕は、なんとなく、この感じは飛ばないだろうと察してはいたものの、半信半疑で往復乗車券を買って会場に向かった。
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風速3m以下がバルーンを飛ばすための条件らしく、限りなく無風に近い状態、すなわち、肌で感ずるくらいのそよ風すら許容されない程度であろう。河川敷の向こうに見える製紙工場の煙突から、目に見える程度に煙が横にたなびいていたら怪しいくらいだ。地元住民は、その煙が判断基準だと言う。
案の定、その日の午後は飛ばなかった。まあ、こういうこともあるだろうと、すぐに飲み込めたし、佐賀県民がこのイベントにかける想いの強さも、会場の雰囲気からすぐにわかった。「午後の部はキャンセルです。」とアナウンスが入った後に、観客の落胆したため息でどよめく河川敷と、それと同時に、帰ろうと人の動きが生まれる様は、その場にいて、見て、聞いて迫力さえ感じた。
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確かに草木はゆらめいてる。
その日は、佐賀から柳川という街をぶらり訪れて、翌朝の天気予報を確認して眠りについた。
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2日目
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11月5日、雲ひとつない晴れた朝、風も吹いてない。まだ、夜明け前だというのに、佐賀駅ホーム上は、都内のラッシュ時間帯に匹敵するほどの人で埋め尽くされていた。
大会に合わせて臨時で増発される、普通列車バルーンフェスタ号が6時くらいに佐賀駅を出る。会場もまた、既に人で埋め尽くされていた。
アナウンスでも「今日は飛びます!」と入り、ついに待ちに待ったバルーンたちが膨らみ始めた。しかし、今日のメイン競技は、いわゆる河川敷からの一斉離陸ではなく、周囲からバルーンを飛ばして、河川敷に接近してくるタイプの競技だという。
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と、ここで僕はあることに気づいた。水面に反射するバルーンをカメラに捉えるためには、対岸に渡らなければいけないことを。確かに、対岸にも三脚を構えた無数のシルエットが連なっていた。
急いで少し離れたところにある嘉瀬橋という橋まで歩いて渡り、所定の位置に辿り着いた。
気球が飛び立ってからは、心の中で「うわぁ」と静かに盛り上がりながら、空を見上げるだけだった。ただただ気球を見惚れていた。時間が過ぎ去っていくだけだった。
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上下方向にしか操作できない気球は、風の思うままに揺られ、動いているか、動いていないか、わからないくらいのゆっくりさで、流されるがままに流されていた。
空を見上げることしかできない僕も、気づいたら気球になっているのではないかと思うほど、宙に浮いたような感覚を覚えた。佐賀の空は、こんなにもカラフルになるのかと、感動した。
素敵な朝だった。
次に、会場の北側、山の方からバルーンが次々にやってくる時間になる。タスクブリーフィングと呼ばれる、気球からターゲットに向かってマーカーを投げ入れる競技が始まろうとしていた。
得られる情報が限られているパイロットたちが、地上で謎の黒い風船を釣り糸に繋げて空に浮かべているチームクルーと綿密にコンタクトをとり、狙い通りの動きができるようにタイミングを見計らっている最中だった。
ふと、真上を見上げると、ポツンと縞模様の美しいバルーンが急降下を開始している。
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熱くなる実況の声と固唾を飲んで見守る観客たちが、会場全体を盛り上げる。いざ投げ込まれたマーカーは、ヒョロヒョロと地上に着地した。
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全くの的外れとまではいかないが、惜しいってところ。と、次に、間髪入れずに、超低空飛行で土手へと接近するバルーンが突如現れた。
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見事ターゲットのど真ん中に投げ込まれると、「やったー!やったー!やったー!」と興奮に包まれる地上の熱を感じた。風を読むバルーニストたちの心理戦が、こんなにも熱いものだとは思わなかった。純粋に面白かった。
この日はこの後、特急ゆふいんの森で由布院に紅葉を見に行き、いつかはカメラを持って歩いて見たかった門司港を散策して、再び18時半頃には佐賀に戻ってくる行程だった。夜のバルーン夜間係留を見るためだ。
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極めて充実した1日だったが、ギリギリ夜間係留には間に合わなかった。いや、厳密にいうと、到着と同時にバルーンたちは萎み出してしまった。バルーンさが駅についてから改札を出るまで、かなりの混雑で時間を食ってしまい、目の前で見ることは叶わなかった。佐賀を舐めてはいけない。
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帰りもすごい混雑で、1駅間歩かざるを得なかった。佐賀県民の満員電車に乗り慣れていない感じも、旅情を感じる一因となった。
3日目
大会最終日、この日の朝もバルーンが飛び立つには充分過ぎるほど静かな朝だった。
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昨日と同じく対岸に渡った。今日はさらに水面に近いところを陣取れた。今朝は、全てのバルーンが出揃う一斉離陸だ。
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自分は今、オランダかトルコにでもいるような、そんな勘違いができてしまう。佐賀は本当にすごいところだ。
みんな同じ空を見上げて、バルーンをただ眺め続けるという時間を共有している、という不思議な経験をした。
一生に一度は佐賀へバルーンを。という旅の選択肢が増えてくれたら何よりだと思う。佐賀は素敵な場所ですよ。
この日はこの後、熊本や長崎を訪れて、翌日東京へ帰った。
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改めて、いい九州旅行だった。
一方で、Instagramのタイムラインには、大学の学園祭が無事終わって、喜びを報告する投稿が立て続いていた。あまりにも対照的な自分の休みの使い方を振り返ると、この旅がいかに自分らしい旅だったかと、しみじみする。
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