MMTへの誤解と財政破綻論の嘘 その7

コロナの流行り始めごろに、「猫のように生きる 創刊ゼロ号」という雑誌が企画されまして、そこでは、コロナ禍への緊急対策として一律現金給付を財務省に面談して要望した経緯をメインに扱って(というかそれに乗じて雑誌が企画された感じ)まして、私もMMTと安全保障というタイトルで書いたんですね。

その後、雑誌は1号がなかなか出ませんで、ようやく出せそうかな〜て時に、改めてMMTのさわりというか、きっかけになれそうな記事を、という事で、書いてみたんですね。
結局雑誌はコロナ特集になりまして、記事はお蔵入りになりましたが。

2種類書いてまして、結局どっちもお蔵入りで、今回は一つ目を上げておきます。

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MMTって〇〇なんでしょ?


①MMTってお金を刷るんでしょ?


日銀券の印刷は銀行預金の引き出し需要に左右される事後的な事で、預金決済の主流な現代は不要な事が多いです。
お札は日銀の倉庫にある間はチラシと同類です。

政府支出は銀行預金ではなく中央銀行内でのバランスシートの数値の拡大と振替(日銀当座預金→政府預金→準備預金)の作業です。数値の拡大は通貨発行であり、テンキー入力で実行され、税とは無関係です。

政府支出で増えた銀行の準備預金と同額の銀行預金を、政府の支出先の個人(給付)や企業(事業費)の銀行口座に対して銀行が発行し、銀行預金が増えます。

②MMTってインフレにする政策なんでしょ?


〜にする政策、ではなく、〜になる構造の理解の仕方がMMTです。その為、中央銀行・財務省・市中銀行間の詳細な会計や実務の理解が背景にあり、理論と言うより取説です。(①④)
失業やインフレになる構造の理解が深まる視座がMMTであり、そこから適切なインフレ対策が導出され得ます。(③)
インフレを目指す政策の事ではありません。

③MMTはインフレになったら増税でしょ?


インフレ率だけを見て画一的に増税や利上げを行う事には否定的です。
インフレの要因に合わせて的を絞った対処を考えます。

例えば自国で利上げや増税すると産油国が石油を増産するかと言えば無関係で、自国では失業増加と金利所得増加で格差を拡げます。

有効な対策として、短期的には備蓄放出(就業保証も労働力の備蓄の面があり、物価安定に寄与する(⑥))や関税やガソリン税の減税や補助金。中長期では供給体制への投資による供給能力拡大や、代替エネルギーへの政府投資支出の拡大。資源国との貿易交渉や、寡占企業への規制等、要因により対策は様々です。

④MMTって国債が財源で結局将来へのツケでしょ?


税はおろか国債すら財源ではありません(⑤)。財源は政府の支出意志です。
国債を財源というのは、太陽は東から昇るという様な、分かり易さを優先した比喩で、実際は昇りません。

国債は市中向けに販売される国庫債券で、金利の調整手段です。
国債を市中金融機関が買う事で、準備預金が政府預金に振替えられますが、そもそも金融機関の持っている準備預金はどこから来たのでしょう。

先ず政府の指示(財務省証券が発行され、日銀の資産に置かれること)で日銀が通貨発行し(日銀が資産の財務省証券と見合いに発行した負債が政府預金になる)、それを政府が予算支出して、金融機関の準備預金になったのです(日銀が金融機関へ準備預金を貸し出す事、つまり資産に市中銀行の貸付金が入る事もあります。市中銀行はそれで国債を買い、日銀に利鞘を上乗せして売り、借りた準備預金を返し、利鞘を儲けます)。

国債発行とは準備預金との両替であって財源ではなく、過去に発行された通貨の運用方法の一つで、国家が金融機関や機関投資家に配る安全牌であり、ツケというものではありません。国庫債券の償還は常に可能です。
ゆえに制度の可能性として、国債の廃止(政府預金のマイナス表記での支出、中央銀行の対政府当座貸越)も論じ得ます。

なお、国際的に政府の市中向け国債の償還は借換や新発債や買いオペで成されており、税での元本償還は予定されません。日本の60年償還ルールは異例です。

⑤MMTって無税国家主張してるんでしょ?


税は支出の為の資金調達手段ではありませんが、自国通貨を流通させる重要な仕組みで、租税貨幣論と言います。
国が発行しながら国が受け取らない貨幣は国民も受け取らないが、国が必ず受け取る、又は徴収に指定する貨幣は、国民にも流通・通用するという事です。
塩や石油を政府が独占販売する際、自国通貨での支払いを指定する仕組みも同様の機能があります。これは政府の価格設定能力とも関係します(③⑦)。
税には上述の、国定通貨の定着の他、格差の是正や、その国で望ましくないとされる事柄への罰則としての機能があり、物価へも影響を与えます。

⑥MMTってお金のバラマキでしょ?


主権国家が自国通貨に不足する事はないため予算不足は課題足り得ず、実物リソース(人、物、時間等)の配分こそ課題となります。
配分は国民が何を願うかによります。戦争を望むなら軍人の給与や武器調達価格に。福祉の充実を望むなら介護給付費の増額にと、政府の支出先や規模を沿わせることが出来ます。
ベーシックインカムの様な一律一定の支出や、呼び水的、カンフル剤的支出より、景気の波に対して受動的・自動的に感応して支出が増減する、JPGや社会保障支出を推奨します(⑦)。課税のあり方もこれに準じます(⑤)。
JGP(就業保証プログラム)は通貨の実質価値の文脈以外に、求職者という人的リソースと、その社会参加への意志を尊重する仕組みでもあります。
バラマキではなく、完全雇用や国民生活の安定の為の支出を推奨します。

⑦MMTのJGPって現代の徴用でしょ?


希望する非自発的失業者が対象で、失業保険やそこからスライドする生活保護等他の制度の選択を妨げません。
地域の必要に応じた仕事が考えられますが、理念的にはサーファーをライフセーバーと認めて給与支払いする程、労働の概念を広く捉えます。
不況期はJGP利用で国内の雇用と所得と消費が維持される為、企業の投資や在庫が過剰となるのを防ぎ、失業の連鎖を抑制します。
政府が失業者を吸収する事で民間の賃金デフレを防ぎ、物価を安定化させます。
JGP利用で履歴効果が緩和されるため、好況期は民間への転職と稼働が容易で、供給不足によるインフレを緩和し得えます(③)。

⑧MMTって先進国だけの理論でしょ。


分析する視点であり、特定の条件下の理論ではありません。
ある途上国の状況を分析し、その国の財政政策の余地を最大化、最小化する選択肢を提示出来ます。
例えば観光依存はドル化を招き、通貨主権を弱め、自国通貨による財政政策の余地を狭めるでしょう。
あるいは、輸出品の生産に資源や労働力を割くより、先ずは国内失業者を自国通貨で完全雇用して購買力を持たせ、国内の資源と労働力を、国民の生活必需品を国内生産する事に振り向け、内需を磐石にする事を優先的に提案するかもしれません。
外需は変動し、国内政策ではどうにも出来ませんが、内需は自国通貨が国民に受領される状況であるならば(ゆえにドル化は非推奨)、財政政策で雇用と購買力を差配できるため、安定的な発展が可能です。

、、、とまあ、こんな感じのです。
ちなみに、上記をMMT四天王とも他称されるnyun氏に見てもらったところ、②③に不満を感じる様です。インフレとは、という掘り下げや、金利が物価に与える影響が落っこちてる、ということかも知れません。
スーパーの店頭の商品の値上がり率が利率に収束するかはさておき、資産価格はそれに近くなるだろうとは、思います。

またnyunさんとやりとりがあれば、それを踏まえて追記するかもです。

没ったもう一つのやつは、つぎのnote記事に。

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