燃える馬糞の水曜日

牛のうんこの方がお前より価値があるよ。野菜が育つからね。

空気が真っ赤にうねり、燃えていた。焼け爛れたアスファルトを這う黒とオレンジ色の毛虫が、蒸発せんばかりに音を立ててマンホールの蓋に足を踏み入れている。タバコがいつもより勢いよく燃え、私は2本目のタバコに早くも火を付け直した。昔は高校として使われていた校舎の壁がドロドロに溶け出しかねない暑さの中で、地下を流れる下水の音がとても涼しげだった。車が通った後に舞う砂煙とタールを感じる副流煙に飲み込まれ、その一方で視界に広がるくたびれた市街地がTVで見る大都会の記憶と比べてとても淋しく思えた。ここにいる自分の価値も、古くなり価値を見出されないこの街のボロアパートの基礎の下にある土のひとつかみに含まれる微生物の1匹の体液の一雫の水分量くらいなのかと思ってみることにした。

そう思うと有名大学の彼も、高卒で社会人になったあいつも、地球にとっては価値は三雫の水分量くらいかもしれない。でも、文字通り全てを失って悲しみに暮れる彼女を支えたあの日の僕には、牛のうんこより価値はあったということにしてみた。

今日はいい一日だ。

#あの夏の一コマ

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