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「わたしを離さないで」カズオイシグロ

noteの投稿を始めたのが去年の10月で、11月に数回投稿し、その間にフォローしてくださった方もいた。

ああそれなのに、早速先延ばし癖が出て前回の投稿から2ヶ月経ってしまった。


言い訳をさせてもらうと、僕自身ここで書く内容についてあれこれ模索していたのだ。

加えて僕は悪い意味で完璧主義なので、これでは投稿できないと判断したいくつかの記事をお蔵入りにした。


でも2ヶ月ほど考えて今までと違った方向性で書けないかと考えた。

つべこべと言い訳を並べてしまいましたが、とりあえず去年から今年にかけて読んできた本の紹介をしようかなと思いますm(_ _)m


カズオイシグロ著「わたしを離さないで」

終始淡々とした語り口の小説だった。

ジャンルとしてはSFになるのだが、タイムスリップや隕石衝突など、派手なことは一つも起きない。主人公のキャシーが記憶を辿りながら幼なじみのトミーとルースそして自らに起こった事実を淡々と語っていく。

彼らは同じ施設「ヘールシャム」内で育つ仲間たちと同様、将来「提供者」として人々の貢献するという使命を負わされている。

ヘールシャムでは芸術分野に力を入れてるようで、生徒たちは疑問を感じつつも、指針に従って各々に作品を作る。
悲喜こもごもはあれど、大きな事件は起こらず平穏な日常が流れている。


彼らには避けられない残酷な運命が待ち受けているのだが、幼い時から提供者になるための教育を受けてきた彼らはすでに自分の運命を受け入れているように見える。

しかし知識として知っていることと身を持って知ることが全く違うものであるという事実に彼らは向き合わされる。

と同時に子供の頃から少しずつ積もっていった施設への違和感、うっすらと見えていた教師間の対立、そういった疑問に対峙する勇気を得ていく。


読んでいくごとにヘールシャムの謎、その頃外界で起こっていた事実が徐々に明かされていき、驚きをもって読み進めていくことができた。

提供者たちはその出自に重大な秘密を持っていて、そのことを受け入れられない人々の存在も見えてくる。平凡な人間として生まれてきた幸運を感じる人もいるかもしれない。

今まで僕が読んできた小説は、はっきり言語化されていなくても著者が「こういうのはおかしい」「こうあるべきだ」という主張が伝わってくるものが多かった気がする。

でも本作は著者の感情は極力排して、どう感じるかを完全に読者に委ねていると感じた。

だから読んだ人それぞれが自分の物語として受け取りやすいと思う。

そして物語の中で「異物」として扱われる提供者たちが、実は自分達と地続きで繋がっていると感じられるだろう。


読み終わって自分の使命はなんなのかと思いを巡らす人もいれば、こんな世の中絶対にあってはならないと怒りを感じる人もいるかもしれない。

本作は答えを提示してくれるわけではないが、彼らの人生を見つめていくことで自分の人生を別の方向から見つめ直すきっかけになってくれる作品だと思う。

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