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ぬか漬け疲れ

 ひそかにぬか漬けをやっている。別に隠しているわけではないけど、これまでnoteに記したことはなかった。

 カミングアウトしようと思い立ったのには、わけがある。

 「ぬか漬け疲れ」を経験したからだ。というか、現在もその渦中であり、そのストレス発散のために、ここに、我が家のぬか漬けの軌跡を記しておこうと思う。書くことでぬか漬けへのネガティブな想いをお焚き上げし成仏させることが狙いである。

 私のぬか漬けライフは現在の夫と同居してしばらくしたおよそ3年前に始まった。一人暮らしの頃にもビニール袋に入って売っているぬか漬けを使用したことはあったが、そう日が経たないうちにダメにしてしまった。でも特にこれといった思い入れもなかった。

 そして、我が家のぬか床は、元はと言えば夫がやり始めたもの。一緒に住み始めてからしばらくして、ぬか漬け名人の本を片手にせっせとぬか床を作り始めた。そのぬか漬け名人とは『ぬか床販売専門店 千束』の女性店主で、たまたまテレビに出ているのを見て、自宅でもやってみたくなったらしい。私だったら市販のぬか床を購入し始めるが、ぬかを用意して一から"マイぬか床"を作り始めるのが、なんとも男性がやりそうなことである。

 ぬか床を作るとき、最初は菌が育つまでは混ぜることはせずに、野菜くずなどを入れる「捨て漬け」を何度か行い、数ヶ月ののち、ぬか床として使えるようになる。毎日混ぜる必要もないし、私はほぼ何もしなかった。一つだけ覚えているのが、夫が作っているぬかの量が多すぎでは?と思ったこと。「ええ〜!!こんなにたくさん作るの?多すぎるんじゃないの!?」と、口を出したことは覚えている。が、しかし夫は、とくに量を減らすわけでもなく、せっせとぬか床作りを楽しんでいる様子だった。

 いよいよぬか床として使えるようになり、我が家の食卓に、ぬか漬けが並ぶようになった。最初の味の印象はというと、もう覚えていない。その後は、おお美味しい!と思うこともあったし、なんだかいまいちだなということもあった。

 が、しかし私がひそかに懸念した事態になった。最初にまだ発酵していない作りかけのぬか床のときは、毎日かき混ぜる必要はなかったが、きちんと菌がいるぬか床となった以上、毎日かき混ぜる必要が出てくる。それだけでなく、塩を足したり、場合によってはぬかを足したり、唐辛子を足したり。で、誰がやるのかというと、私がやる羽目になったのである。

 うちは、同棲や結婚してからも、半別居婚をしており、夫は、ぬか床のある我が家には週のうちの半分しかない。となると、毎日ぬか床のある家にいる私が、必然的にぬか漬け係になる。

 めんどくさいなと思うこともあれば、おばあちゃんにぬか床をもらって混ぜ込んだり、いろいろな野菜を試してみたり、楽しいこともあった。

 夏に一度やらかしたことがる。一度、去年かおととしか、忘れてしまったが、異臭が発生したのだ。群れているようなイヤな怪しい臭いがし、表面がいつもと違う様子になっていた。ググって調べて、よく混ぜる&冷蔵庫保存でなんとか復活したように思えた。あのときの焦りと、落ち着かなさといったら、ぬか漬けは楽しい反面、結構気を揉むものでもある。

 今思えば、冷蔵庫でやればよかったんだけど、一応、常温のほうが乳酸菌が活発なることもあり、また、夫が思わぬ量量で作っていたため冷蔵庫に入れておくのが邪魔かつ出し入れが面倒ということもあり、旅行などのとき以外は台所の隅で管理していた。

 あるとき、我が家に、母と弟が夕食を食べに来た。そこで、きゅうりのぬか漬けを出したのだが、母がその味が口に合わないようで、かなり微妙な表情をしていた。

 「もっとつける時間を短くしていいんじゃない?あとぬかも足したら?」とダメ出し。とりあず言うことを聞いてみると、まあ確かに、ちょっとすっきり感は増したような気がする。

 その後も、重いぬか床をやっこらやっこら持ち上げ、混ぜ、ときにショウガを入れてみたり、たまにぬかを足したりといろいとやり、月日が経過。初夏の陽気の日が増えたつい最近のことである。

 母が旅行に行ったお土産にワインがあるので一緒に飲もうということになり、我が家で夕飯を食べた。

 よせばいいのに、前回のダメだしされたことが頭にまったくなかったわけでないのだが、最近調子よかったから大丈夫かな?とぬか漬けを出したら、母は、自分の皿に3切れほどを取り分けたが、一切れ食べたきり、とうとう、皿を下げるときまで手をつけづに残していた。

 「口に合わなかった?」と聞くと、「うーん、なんかニオイが……」と一言。

 思えば、ここ一週間ほどのうちに1〜2回混ぜるのをさぼっていたのだった。また、その日は急に気温が上がったのにも関わらず、これまでのいくらか涼しい気温でのつけ時間でつけてしまったため、しょっぱくえぐみがある感じはした。「あ〜よくできた美味しい!」という感じでなかったのは明らかである。

 しかし、夫も私も、食べられる程度の味なのである。美味しい!もっと食べたい!とう感想は出ないけど、普通に完食した。だから母が残したキュウリを捨てているとなんだかむしょうに腹が立ってきた。でもまあ、口に合わないものは仕方がないし、手入れをさぼったのも事実だし、水分が多くなっているからぬかを足した方がよさそうだし、夏は冷蔵庫に入れるか、外にだしておくなら多分1日3回くらい混ぜた方がよさそうだよなあ、などと考えながら、仕方がない、ちょっと気合いを入れて手入れしてみるか、と思い始めていた。

 次の日、とりあえず手に入るだけのぬかと塩を入れてこまめに天地返しをし、冷蔵庫で保管。

 でも、もっとぬかを足した方がよさそうだ。ぬか、買わないと足りない。しかし、これ以上ぬかを増やすとますます手入れしずらい。そもそも、手入れをサボりたくなるのも、量が多くて混ぜるのに一苦労ということも少し影響している気がする。やはり夫が作った量がおかしかった、あのとき止めておくべきだったなどと今更思う。そして、半分くらい廃棄してぬかを足したほうがよさそうだ、などと計画を立てていたところ、母から衝撃の連絡が来た。

続く


 

 



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