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祖父母の故郷での話

 42歳にて、「3回忌」というものに人生で初めて参加した。祖父の3回忌だ。

 参加者は、次のとおり。

・私の祖母
・祖母の弟K(私の大叔父)とその娘が2人
・祖母の弟F(私の大叔父)とその妻
・祖母の妹M子(私の大叔母)とその夫
・祖母の弟M(私の大叔父)
・私の母
・私の叔母

 舞台は、祖父母の故郷である山形県の南陽市。墓のある寺へ直接集合。のっけから、89歳の祖母が、2つ下くらい、つまり87歳くらいの弟に、「あーんた、これどうしたの!なーんでこんな汚れて、なんなのもう」と説教をしていた。87歳の祖母の弟、不明な汚れを背広につけた長男Kおじさんは、むにゃむにゃしながら祖母に言われるがままだ。90近いおじいちゃんが90近いおばあちゃんに怒られているのがおもしろくて、長女気質でしゃきしゃきしているのに心配性で天然ボケの祖母にいつも笑わせてもらうのだが、私はこの日もさっそくお腹を抱えていた。

 そのうち全員が揃い、時間を持て余したのち、法要が始まった。祖父だけでなく、祖母の母(私の曾祖母)の何回忌だかも一緒。お経は想像以上にあっという間に終わり、皆で墓参りをした。

 祖父の火葬(火葬以外は祖父母宅で行った家族葬)には参加したが、祖父母の住まいは静岡で、墓が山形ということがあり、葬儀からかなり日をおいて山形で納骨となったため、納骨には参加せず。祖父の墓参りをするのも、この日が初めてだった。固くなり目を瞑っていた祖父の姿が蘇った。つい最近のことのように感じる。

 私は祖父の墓と曾祖母の墓の前それぞれで、「おばあちゃんの病気と心が落ち着きますように」と必死にお願いをした。

 その後は皆で蕎麦屋に行き、昼食。ここでも祖母の天然っぷりに、私は爆笑してしまう。祖母はただでさえ天然ボケタイプなのに、最近は認知症の気がでてきて、ボケっぷりがパワーアップしている。

 蕎麦屋では天ぷらそばと天ぷらうどんの値段が変わらないことに、「えぇ……!そうなの……!?」と真剣な眼差しでえらい驚いている祖母が、おかしくておかしくて、しかも私が「それそんなにびっくりするとこなの」とツッコミを入れつつ爆笑していると、叔母が「最近リアクション王だから」と冷静に言うので、ますますおかしくなって、ひとりでお腹が痛くなるほど笑っていた。

 食事が終わると、祖母と私と母と叔母で、祖母の小学校と、小学校の近くにある神社を散歩をした。祖母が小学生の頃は、神社のなんらかの儀式があるときに、同級生の何人かが授業をぬけて神社に行っていることがあったことなど、昔話を聞いた。夏に祭りがあるそうなので、「お祭りに来てみたいなー」と私がいうと、「そお?じゃあ来年みんなで来るかぁ!」と祖母が元気に言ってくれて、うれしかった。

 その後は、車で一旦自宅に立ち寄った大叔父Kとその送り迎えをした大叔父F夫妻と合流し、この日の宿(兼宴会場所)に向かう。
 が、合流するはずだった大叔父Kがいない。のっけに祖母に説教されていた長男Kおじさんだ。
 Fおじさんによると、家に帰ってからKおじさんが「おれは行かない」と言い出したとか。なんでも、娘2人も一緒じゃなきゃ行かないとガンとして車に乗らなかったという。Fおじさんは娘2人ぶんは宿の人数にもいれてないから急に言われても困るし、当のKおじさんの娘2人は昼食のあとに姉妹で出掛けてしまったし、埒があかないから家に置いてきた、と。

 長女である祖母がすかさず「そんなの、Kがかわいそう……娘たちも出掛ちゃって、晩御飯ひとりになっちゃう」と今にも泣き出しそうな表情。さっき説教してたけどね。「そんなこと言ったって本人が行かないって言ってんだからしょーがねーべ」とFおじさん。

 家族が大勢集まった時あるある“プチトラブル発生”である。思わず、映画『男はつらいよ』を思い出す。

 で、Kおじさんの娘たちに連絡をとると、2人とも宿には行かないということで事前にKおじさんと話をしていたそうだ。結局、娘さんのうちのひとりが、車でKおじさんを宿へ連れて行くから、ということで丸くおさまった。

 関わっている娘さんたちや、Fおじさんは困っただろうが、私は、なんだかかわいい我儘だな、と思った。

 ということでこの日は、Kおじさんの娘2人以外は皆で宿に泊まり、食事をした。母と叔母と私以外は、皆、後期高齢者であり、こんなにお年寄りばかりの会に参加することもないし、親類縁者ということもあるし、皆の顔や行動や会話に興味津々だった。笑ったり、会話に参加したり、酒を飲みながらも、なんだかまじまじと、祖母のきょうだい一行を観察した。皆、完全に初めて会うという人はいなくて、なんとなく記憶の片隅に存在はあるものの、私はこの日はじめて、祖母のきょうだいの名前と、誰が何番目なのかどこに住んでいるのかなどを明確に理解した(祖父の葬儀の際も、皆高齢で山形と静岡で離れているため、この日の参加者のうち火葬に参加したのは次男のFおじさんだけ)。

 それにしても、まず一番驚いたのは、「おばあちゃんのきょうだい、みんな仲良すぎ」ということ。そしてもっと驚いたのは、おばあちゃんのきょうだい5人だけでなく、次男Fおじさんの奥さんと、Mおばさんの旦那さんも、本当のきょうだいのように、なじんでいて楽しく過ごしていること。ちなみに、祖父が亡くなる前までは、この仲良し7人組に、祖父も含まれていた。祖父と祖母は従兄弟同士だ。つまり、祖父は、ここに集まった祖母のきょうだいとも、従兄弟同士だからそういったことも仲のよい理由なのかもしれない。

続く

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