幼子を抱いてふと窓を見上げれば

夜のとばりが下りようとも、私の幼子は眠らない。
あたりが闇夜で満ち満ちて、どんなに抱いてあやそうとも。

この子の泣き声を聞くことが、時に非常に苦しいことがある。

今日はそんな夜だった。

私は、仕事をしつつこの子を育てている。

父親はもういない。
この子が生まれたのを聞きつけるやいなや、嬉しさのあまりに会社を飛び出したところ、折り悪く車にはねられてそのままひきずられたらしい。

そのまま、彼は一生を終えた。

彼の死からほどなくして生まれたのが、私のこどもだ。

めくるめく生命の流転。

彼女が生まれて、4か月が経った。
彼女は、いよいよ意思のようなモノを持ちはじめ、自己を主張するようになっていた。
抱き心地だとか、哺乳瓶の乳首の好みとかがあるようだ。

私はというと、突如としてシングルマザーになってしまったため、仕事に向かわざるを得なかった。
先立つものが圧倒的に不足していたから。

3か月以降からは、どうにか幼児保育へ預けようとあがいたけれど、うまくいかなかったので、昼間は親に見てもらっている。

私は不幸だろうか?とふと考える。
よくわからなかった。
ただ、忙しい毎日に向き合うことに疲れていたのは確かだ。

眠らない幼子を抱きかかえて、無言でずっと揺らしていた。
あまりにも眠らないので、窓をあけてみると、バイクが爆音で走ってきたようで、彼女はその音の先をじっと見つめた。

南の低い空にさそり座の真っ赤な一等星、アンタレスが輝いていた。
彼女にそれを見せようとするも、その意図を組むことはできないだろうと気付き、すぐにやめた。

時に外の音に耳を澄ませては、またとめどなく泣く。

手がしびれてきたけれど、それでも彼女は落ち着かなかった。
彼女の泣き声と、その重さの先に生命の薫りがした。

想えば、色々な人がいる。
私のように、急に旦那を失った人もいるだろうし、何か途方もないことに巻き込まれている人だっているだろう。
色々な人の、色々な営みがあるけれど、みなこの幼子の時を持っていたはずだ。

それが、色々な具合に広がって、様々な人になって世に出ていく。

私の子供もいつかは、そんな日が来るだろうか?
泣き声を聞きながら、ひたすら無言で抱いていたわたしは、つらつらととりとめのないことばかりを考えていて、気付いたら、アンタレスも隣家の屋根の下に隠れてしまっていた。

毎日が辛い。
月並みなことを言えば、泣きたいのは私なのだ。

けれど、何故だろう?
その熱を帯びた涙と、確固とした彼女の重みと、耐えがたい疲れが帯同している今、何故かすべてを許せると思った。

何故なのかは、わからない。

色々な人がいて、人の数だけ、同じように感情を持った人が動いている。
その人間の総体の中で、私という個体が仮に辛い道へと進んでいる最中だとしても、それをよしと出来る何かが私の中に生まれていた。

その瞬間の、人々の営みそれ自体を、何故か愛しくおもった。

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