見出し画像

龍とドラゴン:東洋と西洋の異なるイメージと神話

 辰年にちなんだ話です。

 東洋で生まれた「龍」と、西洋で生まれた「ドラゴン」はまったく別の物というのは知っていますでしょうか。ついつい混同しがちですが、全く正反対のものと考えてください。

 「龍」とは、東洋の神話や伝説上の生き物を指します。日本では古くは高松塚古墳やキトラ古墳の壁画に龍の姿が見られ、神話の八岐大蛇退治も有名です。寺院に祀られていることもありますね。

 中国では龍は崇拝の対象であり、鳳凰・麒麟・霊亀などと並ぶ瑞獣(吉兆として現れる霊妙な獣)でもあります。また特に5つの爪を持つ龍は皇帝の権力と強さのシンボルでした。龍は海や湖に棲むとされていて、水神の使い、または水神そのもの(龍王)として扱われます。

 現在でも豊漁を祈願するお祭りや雨乞いなど、雲を起こして雨を呼ぶという龍への信仰は各地で根付いていますね。中国で東を守護する聖獣も「龍」、インドの神様ナーガも「龍」と訳されることから、日本でいう「龍」とは東洋の龍のイメージが重なったものと考えてよさそうです。

 龍はそもそも想像上の生き物ですが、その姿形をイメージするためによく引用されるものに「三停九似(さんていきゅうじ)」という説があります。これは「首から腕の付け根、腕の付け根から腰、腰から尾までの三つの部分の長さがそれぞれ等しい」、そして「角はシカに、頭はラクダに、眼はオニ(またはウサギ)に、項(うなじ)はヘビに、腹はミズチに、鱗はサカナに、爪はタカに、掌(てのひら)はトラに、耳はウシに、それぞれ似ている」というものです。

 また口元に長い髭をはやしていて、背には81枚の堅い鱗を持ち、4本の足には3〜5本の指がある、とも言われています。龍の外見、特に顎に関しては、実在のワニ(揚子江ワニなど)の影響もあると見られていますよ。

 続いては「ドラゴン」の話です。ドラゴンに相当するギリシア語のドラコーンとラテン語のドラコは、いずれもヘビを指す単語です。このことからもわかるように、ドラゴンはヘビに起源を持つ西洋の想像上の生き物です。

 キリスト教ではドラゴンは「黙示録の獣」に代表されるように災厄をもたらす邪悪の象徴とされていたため、悪魔と同一視されたり邪悪な生き物として描かれることが多く、さらにいうなら討伐の対象でした。

 聖人や英雄によるドラゴン退治の伝説は民話にも数多く残されていて、その中でドラゴンは残虐で恐ろしく、時には口から炎や毒の息を吐いて人間を脅かす存在です。ドラゴンは悪の化身とされていたため、醜悪な姿で描かれる事が多かったようです。

 13世紀に描かれたドラゴンは、首と尾は細く胴体が太い緑色のツチノコのような姿で、脚は前脚の2本のみ、背中ではなく前脚の付け根からコウモリに似た翼が生えていました。その後数世紀の間ブラッシュアップを重ねた現在のドラゴンは概ね、「巨大な体は爬虫類のような堅い鱗に覆われ、背中にはコウモリのような翼を持ち、恐竜に似た尻尾は長く、恐ろしい牙と鋭い爪を持っている」という姿で描かれています。

 ざっくりとまとめると、龍は縁起の良い力の象徴で「雲を起こして雨を降らせる、巨大なヘビに似た想像上の生き物」、そしてドラゴンは悪の象徴で「炎や毒の息を吐き、翼を持つ大型のトカゲに似た想像上の生き物」ということになります。

 ちなみに日本では善悪合わせてドラゴンとしてしまう風潮があります。 日本のドラゴンで有名な「ドラゴンクエスト」は竜を探し求める物語ですが、ここで描かれるのは西洋風のドラゴンです。また「ドラゴンボール」のほうは中華風の龍を求める物語(初期だけですけど)ですので同じドラゴンと表現されていても、実態は違う、ということになります。

以上、ドラゴンにまつわる小話でした。

こんにちは! あなたの支援が創作活動を一層豊かにする励みになります。 もしこの記事が役に立ち、面白かったならサポートしていただけると嬉しいです。シェアしてくれたり購入や寄付などで応援してくれるなら、その気持ち心から感謝いたします。あなたのサポートが未来への一歩となりますように!!