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北フランスにある170kmの地獄を全力で駆け抜けた話(後編)

みなさんこんにちは。
4月は頑張りすぎたせいか膝がおかしくなって階段を上るのも一苦労なKです。
前回、前々回と4月8日に北フランスにて参加したパリルーべチャレンジの話を書きました。
今回はその後編を書きます。
後編なので文はもちろん長いです。
良ければ最後までお付き合いください。

もし興味を持たれた方は先にこちらをご覧ください。

いつもの様にお世話になっているKEIMASA CYCLEと一緒に昨年参加した際の動画も貼っておきます。


前回のあらすじ

初めてのアランベールをなんとか走破して第2休憩所まで辿り着いた私は同じく無事に辿り着いた小野くんと第3休憩所を目指して再び走り始めます。

しれっと現れる2つ目の★5『モン・サン・ペヴェル』

第2休憩所を出発するとすぐにセクター14(★3)があり、静かな通りにしれっと現れます。
遠くから見える場所ではないのでいきなり現れて『あっ、いきなり?』って驚きました。

110km地点のセクター13(★3)も同じく静かな通りにあります。
ここはコースの一部が高速道路から見えます。
昨年、70kmを走り終えた後にこの道の前を通ったところ女子のレースが行われている真っ最中で丁度集団が走っているのを見て興奮した場所でもあります。

2.7kmと無駄に長いセクター12(★4)を通り小さな村へ入ります。
揺れは大したことはありませんが2kmを超えると流石に飽きてきます。
ちなみに小野くんとは既にはぐれています。

『いつ終わんの?』ってずっと思いながら走っている

今回のイベントは小野くんと一緒に走りに来たのに後半は何度もはぐれてしまいほぼ1人旅をしていました。
しかしこう言う状況だと1人旅も悪くないなと思いました。

村を走っている最中は石畳がないのでしばしの休息区間です。
この瞬間が1番安心します。

思いがけない邪魔

そんな中1台の車がずっと私の後ろに張り付いて走っていました。
当初は道が狭いから抜かせないのかなと思い道の端へ避けて車に道を譲りました。
私を抜かした車は私の20m程前を走っている女性の横にピッタリと並走すると助手席の窓が開いて何かを話しています。
この時点で若干嫌な予感はしました。

村を出て少しだけ見晴らしの良い道を走ると左手にいきなり黒いゲートが現れます。
セクター11、2つ目の★5である『モンサンペヴェル』です。
『おぉ!?いきなりきた!?』
見晴らしが良い場所なのにその瞬間まで全く気づきませんでした。
唐突に現れる★5、距離は3kmとアランベールより長いです。

早速石畳へ入ろうとする中、先程の嫌な予感が的中します。

なんと車も一緒に石畳へ入って行きました。

そうです、なんと先程の女性の参加者は個人でサポートカーを導入していたそうです。
どのコースもそうですがこのコースも例に漏れず車1台分の幅しかありません。
これがどう意味かわかりますか?

超邪魔です。

後から来た参加者は前にそんな邪魔な物がいるとは知らないので凄い勢いで突っ込んできます。
しかし車が道を塞いでるので減速を余儀なくされ、更に他の参加者が突っ込んできてを繰り返し大渋滞が発生してしまいました。
抜かしたくても抜かせないので他の参加者は大激怒です。

半分を過ぎた頃でしょうか、車が唐突に横に寄って停車します。
おそらくあまりにも後ろの参加者が文句を言い続けたためか、いらない気を利かせて中途半端な場所に車を停車して道を譲ってきたのです。
しかし停車した場所がかなり深い溝の部分で余計に危ない状況になってしまいました。

ほぼ全ての参加者が車を殴って文句を言いながら通り過ぎます。

私が最後尾にいたこともあり私が通り過ぎたら再び走り始めます。
ずっと後ろにビタ付けにされてかなりストレスでした。
あまりのストレスでコースがどれくらい大変な道のりだったのか全く覚えていません。

ただただ迷惑だった

勿体無いことにいつの間にか★5が終わっってしまいました。
せめて終了ゲートの前で写真だけ撮っておきました。

あと10箇所

車の運転手は参加者からめっちゃ文句を言われていました。

10分ほどのんびりしたら小野くんもやって来ます。
小野くんは普通に走れたそうです。

気を取り直して2人で出発します。

セクター10(★2)のほぼ舗装路と9(★3)を無事に通り過ぎ最後の休憩所である第3休憩所に到着します。

第3休憩所

ここの休憩所は見覚えがあります。
昨年KEIMASAと参加した際に休憩をとった場所です。

あの時はまさかもう1度この場所に来る事になるとは思ってすらいませんでした。

小野くんが来るまでの間にシマノのメンテナンスエリアにてディレーラー等の変則部分の最終確認をしてもらいました。
振動が起きる度に勝手に落ちていたフロントディレーラーも調整してもらえました。

調整が終わると同時に小野くんが到着します。

「ここまできたら後少しだ。次はゴールで会おう」

最後の休憩をしたのち、ゴール地点のベロドロームへ向けて出発しました。

1年ぶりの再戦、最後の★5『カルフール・ド・ラルブル』

休憩所を出発するとすぐにセクター8(★2)が始まります。
昨年はここが人生で初めてのパリルーベの石畳でした。
しかし今回はここに来るまでに既に21のセクターをクリアしています。
そしてこの道を通るのは2回目です。
経験値は間違い無く自分を成長させてくれると実感しました
はっきり言ってここはもはやただの舗装路です。

昨年あれだけ大変だったセクター8はもはや休憩の延長と思うくらい楽に走れた

次のセクター7(★3)では案の定、小野くんと離れてしまいここからまた1人旅です。
セクター6(★3)も難なく通り過ぎました。

「あと5つで終わり、あと少しだ。頑張ろう」

石畳の度に全身に力を入れていたからか、声が出にくくなっていました。
それでも掠れた声で自分を励ましながら走り続けます。

そして最後の★4であるセクター5がぽつりと現れます。

昨年写真を撮ろうとカメラをかまえたものの、レンズが曇って撮影できなかった場所でもある

ここもプロレースの中では終盤だけあって勝負どころなのでしょう。
まぁまぁな数のキャンピングカーが停まっていました。

カルフール・ド・ラルブル

セクター5が終わると1kmもしないうちに最後の★5であるセクター4『カルフール・ド・ラルブル』が現れます。
昨年はイベント唯一の★5だったので写真を撮りましたが今回はそのまま突っ込みました。

周りに誰もいなかったのでやっぱり1回戻って撮影してから突っ込みました。

全長2.1km。
今までの★5に比べれば短めですが曲がり道が多くかなり危険で走りにくいです。
どこがでっぱっていてどこが危ないか、走った経験があるのでそこまで苦労はしませんが曲がるたびに転倒防止のためにペダルを回す強度を上げるのでかなり足を使わされました。

更に肘が限界に近かったこともあってか、大した事がない段差で腕の支えが効かずハンドルに全体重が乗りハンドルから手が滑って転倒しそうになります。
なんとか体勢を立て直しますが手にも力が入らず、いつハンドルから手が滑り落ちてもおかしくない状態でした。
一気に終わらせたくてもペダルを回す脚に力が入らなくなっていました。

「あと少し、あと少しだけ…」

自分を励まし続けるも疲れて言葉が出てきません。

短くて長い★5がようやく終わり少し安堵しました。

昨年と少しコースが変わっていた

「よし、★5も終わった。あと3つ。あと3つだ。頑張ろう」

残すは★2が2つとゴール前の★1だけです。
この時点でほぼ完走を確信しましたが最後のセクターに入るまでは油断は禁物だと思いながら再び走り始めました。

セクター4を出るとすぐ目の前にセクター3(★2)があります。
直前まで凄い衝撃を受けながら走っていたからか、ここはほぼクールダウンです。
距離も1kmしかありません。

ほんの数分前まで★5を走っていたからか今回のイベントの中で最も舗装路だと感じたセクター3

残り数kmの不運

セクター3から2までは約7km程あります。

時間は15時半近く、足切り時間まであと1時間はあります。
余程のことがない限り完走はできる時間です。

『あと少し、次が終われば勝ち確。あと少しだ』
ずっとそんなことを思っていました。

163km地点、最後の★2、セクター2が現れます。
ここは両サイドに舗装路がありますがそこを通さないように意図的に置物が置いてあり、いやでも石畳を走らせようとしてきます。

今年度のプロのレースでは優勝したマチューさんが曲がりきれずにあわや壁に激突しそうになった場所でもあります。

この時点で残り9km、ここが終われば残るは★1だけです。

勝ち確から一転、地獄へ一直線

この区間も順調に走っていました。
半分を過ぎた頃でしょうか、ガチャンと音を立ててチェーンが落ちました。
少し前にもチェーン落ちをしていたので『またか』と思いながら道の端へよって修復作業へ入りました。
しかしチェーンは落ちていません。

『じゃあさっきの音はなんだ?』

その時、視線の左端に揺れている黒い物体が目に入りました。

一体何なのか。

「えっ…は?どう言うこと…?」

そこには本来あるべき場所から離れたディレーラーが垂れ下がっていました。

ここまで自分を励ましながらなんとか走り続けていました。

『まだ走れる、まだいける』

私自身はそう思っていましたが自転車はそうもいきませんでした。
序盤から石畳をほぼインナーギアで走り続けた事によりチェーンがありえない程上下し続けハンガーにかなりの負担がかかっていたようです。
ハンガーが根本からへし折れていました。

慌ててなんとかしようと試みますがディレーラーハンガーが折れてしまった以上、もう走ることは出来ません。

それがわかった時、今までの苦労がなんだったのかと一気に怒りが込み上がりました。

「なんでだよ!なんでここで壊れんだよ!あと少しなんだぞ!あと10kmないんだぞ!」

あまりにも怒っていたため他の参加者達が驚いて走るのをやめて近づいてきてくれました。
しかしディレーラーを見た途端、何かを言いながら走って行きました。

なぜ走っていってしまったのか。
そんなの分かっています。

もう走れません、私はここでリタイアです。

あと少しでこの大変なイベントから解放されると思っていたのにその理由がまさかリタイアになるとは思いもしませんでした。
怒るだけ怒ったあと、あまりのショックでしばらくその場で立ち尽くしました。

『どうすれば良い…どうすれば自分に勝てる…』

短い時間ながらも必死で考え続けました。

そして私は決心して顔をあげて一言つぶやきます。

「よし、押して走るか」

164km地点で残りの距離は約8km、足切りの時間までは1時間を切っています。
約8kmの距離なんて本来なら普通に足で走れば余裕で間に合います。
しかしクリートが付いた靴と自転車を押して走る場合、どう考えても間に合いません。
なんとかセクター2を終わらせた後に試しに自転車に跨って地面を蹴りながら走ってみましたが今まで石畳の衝撃に耐えてきたツケがここで来ます。
肘の痛みが酷すぎて身体を支えられません。
と言うのも蹴って進む場合、どうしても今まで以上にハンドルに全体重が乗るからです。
他の方法を考えようとしましたが考えるのをやめました。

『考えてる時間がもったいねぇ、走ろう』

私は自転車を片手で押しながら走り始めました。

素晴らしい人達との出会い、そしてゴールまで

他の参加者達が次々と私を追い抜きますが皆不思議そうな顔をしながら私を見てきます。
それもそのはず、自転車のイベントで自転車に乗らずに押して走っているのですから。
しかし皆私の状況を理解すると何か大声で私に声をかけながら走り去って行きます。
言葉が分からないので何を言っているのか理解できませんでしたがおそらく「頑張れよ」とでも言ってくれていたのでしょう。

私は走りながらどうすれば足切りされる事なくゴール地点のベロドロームへ到着できるかを考えました。

そしてある事を思い出します。

私の後ろにはまだ小野くんが走っているという事です。
ゴールするためには手段を選んではいられません。
小野くんが私に追いつくまで走って距離を稼ぎ合流次第押してもらうしかないと思いました。
しかしいつ彼が来るかはわかりません。
もしかしたら互いに時間切れになる可能性もあります。
しかしそれしか思いつきませんでした。
私はひたすら走り続けます。

1km程進んだ頃でしょうか。
ある集団が私に声をかけてきます。

「おい、どうした!なんで走ってんだ!?」

声をかけてきたのは途中で何度も遭遇していた自転車クラブの人達でした(中編参照)

K「ディレーラーが壊れて!もう走れないので足で走ってます!」
叫ぶように答えます。

「お前、仲間いたよな!どうした!」
K「後ろにいます!待てないから走ってます!」
「じゃあ少しだけ俺が押す!自転車に乗れ!」
K「ありがとうございます!」

私は自転車に跨り押してもらいました。

わずか数回しか会っていないにも関わらず助けてもらえるなんて思ってもいませんでした。
このクラブの人達には本当に感謝しています。

1km程押してもらいましたがどうしても押して走れないトンネルが現れました。

「悪いが、ここは狭すぎてもう押せない、少ししか助けられなかったが…あとは頑張れるか?」
K「大丈夫です!ありがとうございます!必ずゴールしてみせます!」
「あぁ、頑張れよ」

そう言って皆走り去って行きました。

「本当にありがとうございます。頑張れそうです」
そう呟いて再び走り始めます。

その後もひたすら走り続けた168km地点。
小野くんは全く現れません。
合流するまでになんとか距離を稼がないと…

そう思っている時でした。

道中で知り合った方とは違う人ですがマウンテンバイクに乗った年配の参加者の方が声をかけてくれました。
名前は後で知りますがカートさんという方でした。
残念ながらこの人は私同様に拙い英語しか話せなかったのでほとんど意思の疎通を取ることができませんでした。
それでも私に話かけてくれました。

カ「どうした」

私はディレーラーを指さします。

カ「押そう、諦めるな」
K「いいんですか?」
カ「乗れ」

私はまた自転車に跨ります。

後々知りましたがこの方は70km部門の参加者だったそうです。
先程の自転車クラブの方達とは違い道中での接点は全くありません。
それでも困っていた私を押そうと申し出てくれたこと、本当にありがたかったです。

カ「大丈夫か」
K「本当に、本当にありがとうございます」

言葉が通じないため簡単な会話しかできません。
それでもこの方はずっと私を押し続けてくれました。

今イベント唯一の黄色のゲート、セクター1(★1)が見えてきました。

小「何やってるんですか?」

右を見ると小野くんがいました。
なんとか無事にここまで来れたようです。

K「セクター2でディレーラーが完全にぶっ壊れて」
小「マジですか、だから押してもらってるんですね」

小野くんも少しばかり一緒に押してくれましたが私の体重と長旅の疲労もあってか彼の腕には全く力が入っていませんでした。
互いに限界だったようです。

K「先にゴールしてて、うちは後少しだから」
小「わかりました。じゃあゴールで」

小野くんは一足先にベロドロームへ向かいました。

K「本当にありがとうございます…先に行ってください」

私はずっと押してくれているマウンテンバイクの方に声をかけました。

カ「気にするな、後少しだ」

この優しさに感動して泣いてました。

ついに辿り着いたゴール『ベロドローム』

この瞬間、今までの苦労が全て報われる

セクター1を超え右に曲がります。
200m程進むと待ちに待ったベロドロームが見えてきます。
昨年イベント終了後に今回のカテゴリーにエントリーすると決めた際に『なんとかなるでしょ』と思っていました。
しかしここまで大変な目に遭うとは正直、全く思ってもいませんでした。
競技場に入った時、今までの辛かった事を思い出して涙が止まりませんでした。

『長かった、本当に長かった…』

嬉しさと安堵で言葉が出ません。

押してもらいながら半周、とうとうゴールゲートの前へ来ました。

「ほら、ゴールだ。行ってこい」

カートさんはそう言って私を思いっきり押し出してくれました。

後ろの赤いジャージを着た方が私を最後まで連れてきてくれたカートさん
最後のお礼だけが言えなかったのが残念でならなかった

今までの苦労が報われた瞬間です。
ゴールのゲートを通り抜けた時、嬉しさのあまり腹の底から叫んだ姿が写真で撮られていました。

序盤からとんでもない目に遭い終盤はリタイアの状況まで追い込まれました。
しかし諦めず足で走り続けた結果、最後は素晴らしい人達に助けてもらい無事この地へ帰ってくることができました。

感無量です。


先にゴールしていた小野くんと合流してメダルをもらいます。

様々なイベントに参加してきましたがメダルを直接かけてもらえるのは今の所このイベントだけです。
メダルをかけてもらった時、嬉しさと同時に『ようやく終わってくれた』と心の底から安堵して涙が止まりませんでした。
残念ながら私を助けてくれたカートさんは早々とその場を去ってしまったのでお礼を言うことができませんでした。
彼に届くことはありませんが本当に心の底から感謝しています。

この場でメダルを持てたこと自体が奇跡だった

一緒に走り切ったパートナー

今回、パートナーとして連れて来たオルベアは残念ながら部品が壊れてしまったため修理に出す必要があります。
経年劣化とフレームに対して激しい損傷もあったのでもしかしたらこのまま廃車になる可能性もあるそうです。

この自転車をお迎えした時、自転車を始めるきっかけになった人から「パリルーベっていうとんでもないレースがあってね。私はいつかその地を走ってみたいんだ」と言われた事を思い出しました。

偶然とはいえ、まさか私がそれを成し遂げることになるとは思いもしませんでした。

今は自転車にはゆっくり休んで欲しいです。
本当にご苦労様でした。

写真では見にくいがディレーラーハンガーが完全に真っ二つに折れている
フレームも見にくい箇所が削れまくっている

人生初の一般参加部門のモニュメントのフルコース、パリルーベチャレンジ、無事に終了する事ができました。

走行時間7時間、経過時間8時間半
7時半スタートで16時過ぎにベロドロームに到着
足切りまで20分を切っていた

前編、中編、後編と3部作にして書きましたがここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
日本でもこのレースが好きと言う方が本当に多いと聞きます。
昨年KEIMASAと参加した際の動画では『こんなイベントがあるなんて知らなかった』と言う方も多くおられました。
私が言うのもなんですがこのイベントは失う物がかなり多いです。
ですがそれ以上に得るものが多いイベントでもあります。
もし、このブログやKEIMASAの動画を見て『参加したい』と思う方が現れて本当にこの舞台を走ってくれる方がいたら嬉しいです。

本当に最後までご覧くださりありがとうございました。

また1つ、大切な思い出が追加された

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