スタートアップ女性役員の育休・産休とはどうあるべきか #国際女性デー #女性管理職264名にコーチング無償提供
自己紹介
私はいま、コーチングサービス「mento」を運営する株式会社mentoで取締役COOをしています。
そしてちょうど30日後、2024年4月7日に出産予定日を控えた35週の妊婦でもあります。
これまで2年以上にわたって不妊治療をしてきたのですが、妊娠したということをどのような形で発信するのが良いのだろうか、様々な状況の方がいるなかでそもそも発信が必要なのだろうか、などと葛藤していたら、気づけば臨月になっていました。
しかし、今日が女性の経済的、政治的、そして社会的地位においてジェンダー平等を尊重する日である国際女性デーであることに背中を押され、私自身に起こった「スタートアップ女性役員の育休・産休」というテーマの特殊性と葛藤について書きたいと思っています。
(すごいニッチではあると思うのですが、それもまた良いかなと)
スタートアップで働く女性に限らず、いろんな人に読んでもらえると嬉しいです。
スタートアップもまだまだ男性社会
内閣府の調査によると日本の上場企業における女性役員比率は13.4%だそうです。比較的女性比率が高いように感じるスタートアップにおいても、管理職比率で30%以下の会社が8割強であることから察するに、女性役員比率も決して高くないだろうと思います。
人数が少ないから当然なのですが、女性役員の育休に関するリアルな事例や情報がほとんど流通していないことが、今回一番困ったことでした。
女性の活躍と子育てをイコールで語るのは全く好きではありませんが、私個人に起きたことや考えたことを共有することで、スタートアップで幹部をやりながら出産を望む女性や、その周囲の方々に少しでも参考になればと思っています。
また、自分のキャリアとスタートアップでの活躍を地続きに感じる女性が少しでも増えてもらえるとすごく嬉しいです。
女性役員の育休・産休の特殊性とはなにか
権利の違い
役員は法律上労働者には定義されていないため、労働基準法で定められている労働者の権利が利用できません。労働基準法以外にも、育児・介護休業法、雇用保険法なども適応外です。
幸い、健康保険法・厚生年金保険法には独自に産前産後休業が定義されていることから産休に関わる手当は適用されますが、産んだ後の育休関連の手当は一切受けられません。
育児休業を取るのは可能ですが、育休手当(育児休業給付金)は出ませんし、育児休業中の社会保険料の免除も対象外です。
簡単に言えば、産むまでしか法的な権利はありません。
主な論点
これらを踏まえ、考えなければならないことはこんな感じでした。
初めての妊娠、何を基準に考えればいいのか
法的なガイドラインが無い以上、自分たちで考え、準備をしていくことになります。
役員報酬の変更が発生する場合には臨時株主総会の開催が必要ですし、組織において適切な権限委譲が行われるためにも、方針が必要でした。
mentoのメンバーは「たんちゃんのしたいようにして欲しい」と、私の意志を尊重し続けてくれました。このことについては、いまも感謝しかありません。
ただ困ったことに、「どうしたいか」と言われても、私にとっても初めての妊娠です。産前の自分はどうなっているのか、産後の自分はどうなっているのか、まるで分からず、曖昧な返事しかできない期間が続きました。
6-12ヶ月ほど産休・育休を取得している友人は多くいましたが、自分が同じような期間休むイメージは全く湧かず、それより短いと何がどう困るのかも想像がつきません。
スタートアップの経営者が育休を取得した、という話は度々耳にしますが、どれくらいの期間、どんな条件で取得したら組織や事業はどうなったのか、という情報はオープンになっていません。
「女性役員」「育休」で調べてみても、上記のような法的な話か、「マリッサメイヤーは産後2週間で復帰した」のようなエクストリーム事例が出てくる程度でした。
"良い母親になりたい"と"仕事にすべてをかけたい"のダブルバインド
ダブルバインドとは、二つの矛盾した要求や情報を受け取ることで、どちらの選択肢を選んでも罪悪感や不安感などの心理的ストレスのある状態のことを指し、日本語では「二重拘束」とも訳されます。
例に漏れず、私も”母親”と"経営者"の二重拘束を受けているように感じます。
「自分のしたいようにすれば良い」「世間の母親像にとらわれなくて良い」といくら声をかけてもらっても、自分の中に理想が2つ分離をしていて、何を選ぼうとしても微妙な気持ちになってしまい、これが私の選択なんだと、前向きになることは簡単ではありませんでした。
「子どもとできるだけ長く一緒にいて愛情を注ぎたい」という想いは、世間様の声だけでなく、私の中にも確かにあります。「費やした時間=子供への愛情の量」だとは全く思いませんが、私自身は母親が一緒にいてくれて嬉しかったですし、子どもにとっての良し悪しだけではなく、私だって一緒にいたいです。
また、支えてくれる家族に「申し訳ない」という気持ちもあります。私が早期復帰するためには、パートナーや両親、義両親による多大な支援が不可欠でした。家族とはいえ、負担をかけることには違いありません。
子育てと仕事の両立について、私自身の価値観はいくらか折り合いはついてきましたが、親世代にとってはまた別の感情があると思います。「私が"普通"の働き方でなかったばかりに迷惑をかけて申し訳ない」という気持ちが湧いてきてしまうことは止められませんでした。
(それでも私の気持ちを尊重し、支援すると言い続けてくれる家族には本当に感謝してもしきれないです。)
一方で、人生のすべてをかけてmentoを成功させたい私も本当の私です。スタートアップは圧倒的に時間との戦いであるとを痛感しているからこそ、自分がこのタイミングで育休・産休を長く取りすぎることは合理的ではないように思われ、本当にこれで良いのか、後悔することはないのかと強く葛藤しました。
仕事とプライベートの両立を支援する文化や制度も広がってきており、とても良いことだと心から思っている一方で、「責任ある役職者は『仕事=人生』であってなんぼである」という悪しき固定概念も自分は少し持っているように感じます。
「母親として」「嫁として」「娘として」「女性として」「経営者として」。自分の中にいろんなバイアスがひしめき合い、その理想像に一貫性が全くない、というのが役員をはじめとした女性管理職特有の難しさのように思います。
そして何より、「自分の気持ちは産んでみないと分からない」。
情報も相談相手も少なく、圧倒的な不確実性を抱えたまま、産休育休について決断する必要がありました。
何から始めるか
そんな中でも私は環境に恵まれており、穏やかな気持ちで産休・育休に向かうことができているので、やってよかったことや嬉しかったことを共有します。
やってよかったこと
やってもらって嬉しかったこと
役員の育休は誰のものか
「経営者自らが育休を取って、従業員も取りやすい風土を作ろう」というような話をよく耳にします。
実際、経営や管理職の振る舞いが会社全体の流れを作っていくことは事実なんだと思います。
自分がCOOとして、mentoで初めて育休を取る女性として、どんな背中を見せられるといいのだろう、とずっと考えてきました。
2015年、当時米ヤフーのCEOだったマリッサメイヤーが産後2週間で仕事復帰したというニュースに対して、「しっかり休んでほしい」「彼女はロールモデルなのだから、自分の選択がただのプライベートなものではないということを知るべきだ」などという批判の声が集まりました。
この問題は、私が今感じている葛藤や違和感にも通じるものがあると思っています。
「役員だから」「みんなが見ているから」「ロールモデルだから」といった理由で、妊娠・出産という非常にプライベートで重要なライフイベントに対してどう向き合いたいかを自己決定することができないとしたら、とても苦しいことです。
出産は、本人とその家族のものであって、会社のものでもなんでもないです。本人以外の誰かが、会社のためのツールとして消費することを強要してはいけないと私は思います。
誰がどんな選択をしたって良い。咎められるべきは、「上司やロールモデルと同じ選択をしなければならないのではないか」という同調圧力の方なのではないでしょうか。
私は今回、3ヶ月間の育休を取得しようと思っています。これが長いのか、短いのか、普通なのかもわかりませんし、自分自身にとってもこれが正解なのかも全然わからないです。そして、私の背中を見てくれている人がいることも何となく感じます。
それでも、私がいま守りたいものの優先順位やいろんなトレードオフを考え続けて、やっと出した私の選択です。
その上で私が願うことは、役職に関わらず、周りに流されず、すべての女性が、自分のために自分で決めてほしい、そしてどんな選択も応援されてほしい、ということです。
結局、私は何に悩んでいたのか
スタートアップ役員が育休を取ることは別に珍しいことではないです。それなのにこんなに悩ましかったのは、私の中にそもそもジェンダーバイアスの葛藤があったからです。
スタートアップ経営のやりがいはすごくありますし、ジェンダー関係なく心から楽しんでやれている人ももちろんいると思うのですが、私は人並み以上に気にしいなので、例に漏れず、自分自身や周囲が持つジェンダーバイアスに悩んできました。
代表的なものとしてあげられるインポスター症候群は、自分の力で何かを達成し、周囲から高く評価されても、自分にはそのような能力はない、評価されるに値しないと自己を過小評価してしまう傾向のことです。
経営者と聞いて思い浮かべるリーダー像と自分のキャラは全然違うし、価値観も違う。「自分はこの立場にふさわしくないのではないか」と思うことも、やはりありました。
初めて会った人に自分の役職を説明するとき、「この人で大丈夫なんだろうか」と思われているように感じる。それが無意識だったとしても、一方的な思い込みだったとしても、自分の見た目が女性であることによって仕事で不利に働いているような恐れを抱いてしまうことを、ステレオタイプ・スレッドと呼ぶそうです。
スタートアップ同士の交流や営業、調達の場でも男性の比率は高く、自分は十分に役割を果たせているのだろうか、会社にとって不利な印象を与えていないだろうかという後ろめたさを抱えてしまいます。COOだと自己紹介すると「代表も女性ですか」と聞かれることも何度かあり、「女性がCOOをしている会社」というもの自体にも固定概念があるのだと感じます。
振り帰ると、自分はなんて自信がなくて暗いやつなんだろうという想いでいっぱいですが、インポスター症候群やステレオタイプ・スレッドは、世界的な才女である女優のエマ・ワトソンや軍需国防分野の巨大企業BAEシステムでCEOを務めたリンダ・ハドソンも自身に存在したと語っています。世界的に偉大な女性にも大なり小なりみんなあるのです。よかった。
こういったジェンダーバイアスの葛藤に加え、出産・育児というライフイベントとの両立の葛藤が追加されることで、なおさら後ろめたくなっていた自分がいたように思います。
そんな状況にありながら、役員の産休・育休は法的権利も限られており、いろんな条件や選択肢をゼロベースで考え、コミュニケーションしていかなければならないことが、難しさの本質なのかなと思います。
次の世代に、どんなバトンをつなぐのか
女性として役員をすることは、正直居心地はあまり良くないです。
仕事にも不利だと感じることのほうが多いし、仕事中だけ見た目のアバターを変えられるのであれば、私は迷わずスーツが似合う男性を選びます。
母親としての自分も、ちょっと浮いています。病院でも両親学級でも、「ゆっくり休んで」「子どもと一緒に」「仕事には代わりがいる」という言葉ばかりが聞こえて、自分は間違っているんだろうかと思うこともあります。
自分でした選択ではあるけれど、安寧の選択ではないですし、正解かも全然わからないです。私がスタートアップにいなければ、この立場でなければ、いまの選択もしていなかったと思います。
それでも、補ってあまりあるくらい、スタートアップは楽しい。
だから、難しそうに見えるかもしれないけど、実際大変かもしれないけど、スタートアップや管理職、役員というものを自分のキャリアと地続きで考えられる女性が1人でも増えてほしいと思うのです。私たちにしか出来ないこと、変えられない社会があると信じています。
『I am Remarkable(私は素晴らしい)』というGoogle発の取り組みがあります。女性は周囲にも、自分自身にも、過小評価をされ続けてきました。
どんな役割にも、私たちはふさわしい。
どんな選択をしても、すべての女性が素晴らしい。
「女性だから」「母親だから」「経営者だから」よりも先に、「自分だから」を考えたい。どうしたいかは、全部自分たちで決めて、作っていきたい。
もうすぐ生まれてきてくれる我が子は、女の子です。
居心地は良くない。迷ってもいる。
それでも、この難しい選択にとどまって、踏ん張って、少しでも生きやすい社会と新しい"ふつう"を作ることが私が娘に繋ぎたいバトンなんだと思っています。
迷っている女性たちに「大変だけど、なんとかなるよ、一緒にやろうよ」と、いまはまだ居心地の悪いこの場所で伝え続けたい。これまでたくさんの女性たちがそうしてきてくれたように。
娘が胸をはって、夢中で生きられる社会をつくりたいです。
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謝辞
本当に多くのmento登録コーチの皆さまのご協力により今回の取り組みが実現しています。心より、感謝申し上げます。
こんなに想いを持ったコーチに支えられているmentoは、必ず社会を変えられると、改めて勇気をもらうことができました。
本当に素敵なコーチばかりですので、彼らと出会う機会としても是非ご活用ください。
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