「求められる」ものづくり、「やりたかった」ものづくり
はじめに
2019年11月私は友人とともにゲームマーケットに参加し、自主制作のボードゲーム「ウリカイ」約400個を完売させることができました。
アートとデザインの違い、などでもよく語られることですが、世界にはある程度他者や自分からの期待に「求められてやる」ものづくりと、自分が「やりたかったからやる」ものづくりがあり、それらは進み方も、読後感もまったく違うということを改めて実感したので、それについて書きたいと思います。
「趣味でつくりたいものあるんだけど時間ないんだよなあ」って方とかに読んでいただきたいです。
完成にいたるまでの経緯やこだわりはだいっちぇのnoteによくまとまっているので、こちらも是非読んでほしいです。
1:結果を意識しないでつくり始めるとめっちゃ楽しい
私が日頃仕事として行う「求められる」ものづくりは、目的と結果を強く意識して行います。
それを何故やるのか、誰のために作るのか、何を作るのか、どうやって作るのか、どうやって振り返るのか、どうやって評価するのか。
「求められる」ものづくりではそれらすべてを想定しておくのが作法であり、どれかひとつでも抜けていると何かいけないことでもしたかのような反応が私達を待っています。
しかし今回、私達は単純に「ボードゲームが好きだから作ってみたい」という気持ちだけでつくり始めました。
ボードゲーム制作にはそれなりの初期費用がかかるのですが、私達は費用対効果を全く考えませんでした。わからなかったのではなくて、本当に思いつくことすらなかったのです。これまで散々やってきたはずの、何個くらい売りたいとか、いくらくらいの儲けがほしいとか、こういう人に刺さるはずとか、そんなことは全然考えませんでした。
すると何が起きるか。
めっちゃ楽しい
はじめて良いねされたとき、事前予約が入ったとき、最初の1個が売れたとき、最初に感想が投稿されたとき、少しでもポジティブな反応があればそれらは全て絶対値として100%嬉しいものになりました。
例えば『ウリカイ』の告知Tweet良いね数は303、初出店時の事前予約数は72、初めてにしては恐れ多いほどの反響をいただいたのですが、たとえこれが10分の1だったとしても私は同じくらい嬉しかったと断言できます。
目標に対してどうとか、他のサークルと比べてどうとか、そういう相対的な比較の中での一喜一憂ではなく、「私達がドキドキしながら作ったこの初作品を、良いと思って買おうとしてくれている人がこの世のどこかにいるんだ」そう思うだけで感じたことのない感動を得ることができました。
これは明らかに「やりたいからやった」ことで得られた喜びだなと思います。
2:リーダーもファシリテーターもアジェンダもいらない。そして楽しい。
ウリカイはEnjoy Boardgame Club という5名ほどのサークルで制作しているのですが、基本はファシリテーターもアジェンダもない状態で好き勝手話すので打ち合わせの構成もめちゃくちゃだし、困ったときに最終決定をするようなリーダーもいません。
それでも不思議と物事は決まっていくし、喧嘩もしないし、ボードゲームも無事完成・完売することができました。私自身本当にびっくりしています。
会議の目的設定をする、アジェンダを決める、意思決定者を決める、タスク分担をする、振り返りをする、報連相をする、こういった当たり前にやってきたお作法は「どんな人と、どんな案件を、どんなモチベーションで進めても安定的にパフォーマンスするための方法」であって、本当に気の合う仲間と本当にやりたいことをやっているときには全部取っ払えるんだなという風に感じました。
そしてEBCのみなさん、本当にありがとう。ズッ友だよ。
3:自分たちのコンセプトが伝わるとめっちゃ嬉しい
『ウリカイ』のコピーはこちらです。
お金は大事。でも人生は、それだけじゃない。
このコピーを作ったナガサコとかいうやつは、後輩ながら本当にすごいなあと思うのですが、私達がウリカイで表現したかったことは
人生はお金を持っているだけではだめでモノを買って使ってEnjoyしたほうが良いこと、最初の役職や収入に関わらず工夫次第で人生はいくらでもEnjoyできること、USEDだったとしてもモノは変わらずEnjoyを私達にくれるということ、純粋にモノが売れるって楽しいということです。
これらのコンセプトは顧客の声からの逆算で作ったものではなく、フリマアプリで私達が感じていた魅力を、ボードゲームという全く別のツールでも感じてほしいというとても一方的な想いでした。
だからこそ、買ってくれたお客様にそのまま伝わって共感してもらえたときの感動はひとしおでした。
4:たくさんの人が無条件に助けてくれた
ウリカイは私達にとって、本当に初めてのことだらけ、わからないことだらけでした。そのため、序盤から大手ボードゲーム印刷会社の萬印堂さんに依頼できないことが確定したり、ロット数の相場がまるでわからなかったり、本当にドタバタでした。
しかし他のボードゲーム製作者のみなさんも同じように「やりたくてやってる」人ばかりです。だからこそ他にも「やりたい」人がいると見返りなく助けてくれる、温かい言葉をかけてくださる本当に素晴らしいコミュニティでした。
「やりたい」ことが同じだからこそある横のつながりみたいなものを強く感じることができたように思います。
5:誰かのお気に入りになれた
ウリカイの制作のなかでも特に思い出深いのは、「娘(息子)のお気に入りです」という声を何度かいただけたことでした。
私はこれまで仕事で「便利なもの」を作ることが多く、「楽しいもの」を作ったのはほとんど初めてでした。しかし今回、自分たちが楽しいと思うものをフルスイングで作りきったからこそ、誰かの胸に届いたのかな、なんて思える場面にも多く出会えました。
秋ゲムマで最後の1個を買ってくれたお客様は、11歳くらいの男の子です。彼は春ゲムマのときからウリカイを気にしてくれていて、予約キャンセルになった最後の1個を買ってくれました。購入できたときの彼は本当に嬉しそうで、この年齢の定価3500円はとても価値が重いものだと思うので、背筋が伸びるような、こそばゆいような、なんとも言えない気持ちになりました。
それ以外にも、ウリカイを「推しへのプレゼント」として選んでくださったお客様もいました。
家族で遊んでいただける方も。。。
6:「やりたい」が「求められる」に変わることもある
やりたくて始めたウリカイですが、本当に本当に有り難いことに大きな反響をいただいて初版が完売し、再版や通販をご要望くださるお客様の声を受けて第2版を出したのが今回でした(それも完売)。
SNS上でウリカイを欲しがってくださる皆さんの声を見ながら、こんな幸せなことってあるのかよ......!!!!!って思ってました。
そしていま、ウリカイ拡張パック&新作を作ってます!!!!!!!(※2020年春発売予定)
欲しがってくれる人いるかな、いるといいな、前回とは違いそんな淡い期待をいだきながら鋭意製作中です。
最後に
私は今回の経験を通して、学生時代に憧れ、夢中になっていたのはこういう過程だったはずなのに、いつの間にか社会で「求められる」ものを作ること、ひいてはそれを通して自分自身が評価を受けることに慣れてしまい、それこそが唯一無二の目的であるような勘違いをしていたということに気づくことができました。
ここまで「求められる」ものづくりと「やりたかった」ものづくりを対比して書いてきましたが、私は決して
「やりたいことだけやるの最高〜!フゥゥゥゥゥ!!!!」
と、思ってるわけではありません。「やりたかった」ものづくりをしたからこそ得られなかったこともあると思います。
それはお金と再現性でした。
私達はウリカイにおそらく数百時間かけてきましたが、初回ゲムマ出展時の利益はゼロ。最近では少し利益が出るようになりましたが、時給換算するととんでもないことになります。また、狙ってやったものではないからこそもう一度同じようなクオリティの作品を作ろうと思ったときの難易度も高いと感じています(それでも頑張りますが...笑)。
「求められる」という拠り所がないまま365日、この熱量でものづくりをし続けることもまたとてもしんどいのだと思います。
改めて、「やりたい」ものづくりで生計を立てている全ての皆さまに尊敬の念を感じつつ、求められること、やりたいことをバランス良くやりながら、より良い人生をEnjoyしたいなあと思う出来事でした。
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