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【二周年】進水記念日

 我らが兄弟航路は、お読みいただく皆々様のお陰により、旗揚げに当たる進水から丸二年を迎えた。些か気取った物言いで恐縮だが、我らは文学の海を自由気儘に旅する兄弟と標榜し、作品の公開を “航海” に準えている。当アカウントは、二人乗りの “舟” である。小さく漕ぎ出した際の初心を刻み、船という字に置き換えることはない。

 本稿の筆者は、兄弟航路の兄である。必然的に弟は、編集を担う最初の読者になる。その役割は、作品の航海ごとに入れ替わり、兄弟が交互に執筆する形式(五作目以降)で進んでいる。即ち、自作の小説や童話などと、短詩系文学(俳句・短歌)や書籍に関する紹介などは、同一人物の筆ではない。
 有り体に言えば、本稿の筆者は短詩系文学に疎い。だからこそ、素人目線で読んだ分かり難さを航海前に伝えることができるわけだが、お気づきの通り、それは二人乗りの理由として乏しい。互いに認め合う実の兄弟とはいえ、やはり文学性が異なるのだから、別々に舟を出した上で、航海前に意見を随時求めれば良いのかもしれない。

 だが、兄弟どちらも一人旅では、恐らく今日に至る継続はなかった。筆を折ることはないにしろ、note上で同じように続けられなかったと思われる。
 なぜなら、目的が曖昧というか、我らは野心を持って航海していない。これを足掛かりに名を挙げようとか、専業作家になろうとか、華々しい終着点を想定していない。そして、急かされることのない趣味の範疇であり、航海が滞ったところで誰も困らない。スキの数やフォロワーの方々が順調に増えたり、温かいコメントをいただいたりすると、執筆の大きな励みになるが、逆に追い風が弱まり、潮が引くような状況に陥れば、航海意欲の減退をきたす。
 要するに、我らはどちらも大した文才がない。

 では、文才とはなんであろうか――
 持論だが、より多くの人に褒められる文章を書くことではない。寧ろ、褒められもしない、金にもならないのに、書く情熱が溢れ出る才能のことであろう。世の中には、例え猛烈な批判に晒されても、まるで息を吸うように書き続けられる人がいる。

 そうではない我らは、些か気乗りしないことがある。苦し紛れに航海したことがある。自由気儘な旅とはいえ、なにかしら尻を叩かれなければ、長らく休航したまま再出航が困難になりかねない。
 思い返すと、交互に執筆する形式は、暗黙の了解に過ぎないが、それこそが互いの尻を叩くことになっていたのではないか。
 本稿を航海した後も、しばらくすると弟が原稿を上げてくるであろう。それを読んだ筆者は、また次を書かなければと、使命感とも言える航海意欲を掻き立てられる。
 同じ舟に乗っている以上、どちらかが投げ出せば休航せざるをえない。それは筆者であれば弟の、弟であれば筆者の、航海する手段を奪うことであり、忍びない気持ちになる。
 もしや我らは、相棒の作品を自分のそれ以上に、多くの方々にお読みいただきたいのかもしれない。遠回しに尻を叩いてでも。

 君の作品を待っている人がいる――
 それを裏付けるような皆々様からのスキ、コメント、サポートなどに、改めて感謝を申し上げる。航海を通じて得たご縁は、かけがえのない宝である。

 弟が執筆した前回は、推薦図書として五冊を取り上げた。どなたかが興味を持つきっかけとなれば大変嬉しく思う。
 五冊の中から、筆者の思い入れのある作品について触れると、二十年余り前の高校時代、日蝕(数年前に最年少の芥川賞受賞作として話題になった)は初めて自分の小遣いで買った小説であり、難解な文体に打ちのめされた記憶が鮮明である。辞書を片手に悪戦苦闘して、なにやら利口になった気がした。こんな文章を書いてみたいと思った。当時の駄文を読み返すと、その影響がありありと滲んでいる。そして、漫画ばかり読んでいた筆者は、度々小説も手に取るようになり、文章のみで構築する世界の面白さ、並びに美しさを知った。
 無論、それまでも小説を読む機会というか、読まされる機会があったわけだが、受け取る感性が備わっていないと、不思議なもので作品の魅力に気づけない。

 言葉の持つ美しさに初めて気づいたのは――
 覚えている限り、日蝕を買った際のレシートである。“文芸書” と印字されていた。すぐに文章芸術を意味する言葉だと理解して、まさにその通りの、過不足のない言葉に衝撃を受けた。高校生にしては浅学と言わざるを得ないが、学ラン姿で書店を出た日盛りの夏、文芸書という言葉に芸術を見た。

 あれから多くの学びを得て、曲がりなりにも執筆活動が形になっているが、この広い世界には、まだ知らない言葉が星の数ほどあり、多種多様な考え方がある。旅は発見に満ちている。

One's destination is never a place, but a new way of seeing things. ――Henry Miller.(私たちの目的地は決して場所ではなく、物事を新たな視点で見る方法である。――ヘンリー・ミラー)

 いざ、三年目の航海へ。読書と並行する旅は、今後も兄弟二人で続いてゆく。

                          令和四年六月八日

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