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脚本から作詞作曲、映像編集まで全て一人 完全自作ミュージカルを作ったげんしゅうくん【前編】

日々保護者さんとお話ししていると、色んなタイプのお悩みの声を聞きます。

「うちの子は好きなことや興味のあることを見つけられていないんです」
「好きなことはあるんだけど、それを何かしらの形に表現したいという気持ちにはならないみたいなんです」
「あまりにもマニアックすぎて、親にはついていけないんです」

表出する悩みは違えど、お子さんに対して「探究することを通して楽しく生きて欲しい」「もっと自分の好きなことで自己実現して欲しい」という願いがある点では共通しています。
願うからこそ、親としてどんな風に寄り添っていけば良いのか、何か出来る事はないかと悩みますよね。

今回は、親の理解や予想の範疇を超えるようなトンガリタイプの子どものストーリーをご紹介します。
4月から実践探究(注)に通っていた高梨元秀(たかなし げんしゅう)くんは、夏休みの自由研究で完全自作のミュージカル動画『The Brecker』(注)を制作しました。
なんとこのミュージカル、8人の登場人物を全てげんしゅうくん一人が演じているのです!それだけではありません。脚本、作詞・作曲・演奏、衣装・メイク、大道具・小道具、演出、編集…これら全ての工程もげんしゅうくんが一人で手がけています。
「この子はアーティスト」と形容するほどの凄まじい芸術肌であるげんしゅうくんに、ご両親は日々翻弄されているそうです。

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▼自作のミュージカル動画『The Brecker』はこちらからご覧いただけます!
https://youtu.be/6ZaHHJ5A1QE
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げんしゅうくんは、何をきっかけにミュージカルを作ることに決め、約5ヶ月の製作期間でどんなことを感じ考えたのでしょうか。
そして、ご両親は彼の活動に何を感じながら寄り添っていたのでしょうか。
げんしゅうくんとお母さんに伺ったお話を2回に分けてお届けします。

(注)実践探究
三鷹の教室で行っている、子ども一人一人の「好き」を形にする過程にメンターが伴走するサービス。
お問合せ先は記事の最後に記載しています。

(注)『The Brecker』あらすじ
主人公のブレッカーは、賢くて優しい牛。しかし、ブレッカーに乗る乱暴なデイビス・ジョンはいつもブレッカーを苦しめていました。そんな様子を見かねた魔女が、ブレッカーを二足歩行で人間の言葉がわかるように変えます。自由になったブレッカーに、魔女は「ある願い」を伝えてその場を去ります。その願いを叶えるために動き出したブレッカーを待ち受けていたのは?願いとはなんだったのか?


ミュージカル制作までの道のり

制作のきっかけ
実は、最初からミュージカルを作ろうと決めて走り出したわけではありませんでした。「もともと、“元秀ワールドアイランド”というテーマパークを作るのが夢で、そのキャラクターとして生み出したのがブレッカーやミッチー達。そのキャラクターを活かそうと、今回ミュージカルに登場させた」と語るように、スタート地点は夢であるテーマパークの構想でした。4月から実践探究に通っていたげんしゅうくんは、担当メンターのワッキーに伴走してもらい、手を動かす中で、少しずつ自分のやりたいことの輪郭を掴んでいきました。最初は「元秀ワールドアイランド」の設計図を描き、キャラクターを考えました。メインキャラクターができたら、そのお友達のキャラクターを生み出しました。このキャラクターたちを使って劇みたいなものが作りたい!じゃあ動画制作をしよう…と、少しずつ「今やりたいこと」を重ねて行く中で辿り着いたのがミュージカルという案でした。提案したのはお母さん。この案を採用したげんしゅうくんは、その理由について「とにかく、いま一番興味のあることだったから。本気で興味のあることじゃないと、良いものは作れないと思ったから」と語っています。お母さんが、彼の今一番興味のあることをミュージカルであると見抜いていたんですね。

ミュージカルとの出会い
そんなげんしゅうくんがミュージカルに出会ったのは、赤ちゃんの頃でした。ご両親が連れて行ってくれたのがきっかけです。一度も泣いたり騒いだりせず、じっと観ている様子を見て、お母さんは「この子はミュージカルが大好きなんだ!もっと見せてあげたい」と思い、積極的に連れて行くようになりました。げんしゅうくんの「好き」に誰よりも早く気づいたのは、お母さんだったのです。見立ては大当たり。げんしゅうくんは、大きくなると自分から「ミュージカルに連れて行ってほしい」とお願いするようになったそうです。今では年間5、6回は舞台を観に行くほど虜になりました。特に今年は、ミュージカルを制作したことで更に熱が高まり、ここ半年で既に10回以上も観劇したそうです。「とにかく迫力がすごくて、その感覚が大好き。観終わってからもプログラムを毎日のように眺めて、そのミュージカルに込められた想いなどを知ることで、ますます好きになる」と語るげんしゅうくん。ミュージカルに対する底知れぬ愛を感じます。

大変だけど楽しい制作過程

実践探究での時間
実践探究がお休みに入る8月までは、三鷹の教室とお家での時間を使って作業を進めていきました。教室では、作業を進めるだけでなく、ワッキーと一緒に次にやるべきことを明確にしたり、計画を立てたりしました。そして、お家ではその計画に基づいて作業を進め、撮影に向けて着実に歩を進めていきました。この助走の期間について、お母さんは「最初の期間に実践探究の伴走がなければ、ミュージカルは絶対に作れなかったと思う。何をどれくらいのペースでやっていったらいいのか、一人で考えるのは難しい。それに、元秀の作るものを認めてくれるワッキーの存在が、元秀を“期待に応えたい”と頑張らせていたんだと思う」と語っています。

初めてだらけの経験
そして本格的にスタートしたミュージカル作り。普段から、何か美しいものや芸術的なものを見ると、雷に打たれたようにインスピレーションを受けるというげんしゅうくんの得意とする言語は「絵」。紙とペンを持って、頭の中に浮かんだものを即興で絵に表現する経験は多いですが、それを言葉や音楽で表現したり、一貫性のあるストーリーを作って計画したりするのは初めてのことでした。慣れなくて大変なことも沢山ありましたが、それぞれの制作過程について話を聞くと、初めてのことも目一杯味わい楽しむげんしゅうくんの姿がありました。

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最初のハードル、ストーリー
げんしゅうくんの前に一番最初めに現れたハードルは、ストーリーの考案でした。
「頭の中に、パン!と思いついたのがブレッカーが剣を持っている絵だった。そこからストーリーが生まれたけれど、それを言葉にするのは大変だった」
考えたのではなく「生まれた」と表現するげんしゅうくん。頭の中に浮かんだアイデアを、現実に落とし込んでいくのがげんしゅうくんの制作スタイルです。いつものように頭に浮かんでくるアイデア。しかし、絵で表現することが得意なげんしゅうくんは、言葉に落とし込むことに苦戦したようです。

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一番難しかった、台本作り
げんしゅうくんが一番大変だったと語るのが、台本作りです。
なぜなら、セリフを考えるのは楽しいですが、セリフだけでは台本は完成しないからです。絵コンテをベースに、セリフだけでなく照明や音楽をどうするのかについても書き込んでいく、この総合的に考える作業は慣れていないととても難しかったそうです。それでも、メンターのワッキーなど、他の人に読んでもらって、アドバイスをもらいながら書き直し完成させました。

思いついたから作っちゃった、音楽
作詞・作曲・演奏も一人で成し遂げたことに驚いた方も多いのではないでしょうか。ここまでくると、「幼少の頃から英才教育でも受けていたのかな?」と思ってしまいますが、これらの作業も初挑戦のことでした。
「最初、オペラやクラシックの曲を入れようと思っていたけど、なかなか選べなくて、どうしようか悩んでいた。そんな時、曲が思いついたから、思い切って作曲してみることにした。「最悪なこの運命」という曲が初めに思い浮かんで、その後、他の2曲も思いついて、全部で3曲作曲した。全曲とも、頭の中に浮かんだ曲をピアノで弾いてみて、作っていった。演奏しながら、思いついた歌詞をつけていった。実際にミュージカルの中で使うときは、まずはピアノで演奏しているところを録音して、それを撮影の時に流して、その演奏に合わせて歌を歌ったり、振り付けをしたりした。そこまでは結構順調だったけど、楽譜を書くのが大変で、今でもそこは自信がない。なので、今後楽譜の書き方を習いたいと思った」

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やっぱり絵を描くのは楽しい
一番楽しかったのは、やはり絵を描く工程でした。
例えば絵コンテについては「初めてだったけど、自分のイメージを絵で描いていくのはとても楽しくて、3日くらいで一気に11シーンの絵コンテを作成した」と語っており、圧倒的な熱量を感じます。
また、今回制作したミュージカルは舞台ではなく映像だったため、基本的に大道具は使わず、代わりに背景を絵で描いていました。「背景画は全部で3枚描いた。自分の頭の中にあるイメージを、絵にしていくのはやっぱり一番楽しくて、今回のミュージカル制作全体を通して、一番好きな工程だという事があとからよくわかった」

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大人でも骨が折れそうな作業の連続を、楽しい作業に変えていくげんしゅうくんが印象的です。沢山のチャレンジをする中で、もちろんうまくいかないこともありました。後編に続きます。

記事を書いた人:ちひろ
今は実践探究でメンターをしたり、文章を書いたりしています。
感動したことや葛藤したこと。感じたことを言葉にすることで認識できる自分の世界は広がると信じて、子どもたちの心の中を言葉にするお手伝いに努めています。

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子どもたちの「好き!」「やってみたい!」は千差万別です。
何が正解なのか、成功なのかは誰にもわかりません。
子どもたちとご家族とメンターが、関わりの中で一歩ずつステップを上り、積み上げ、作っていく。そのプロセスが豊かで、尊いものであるということこそ、わたしたちが「実践探究」を通して伝えていきたいことです。

実践探究は現在試行錯誤しながら、探究学舎三鷹教室にて運営しています。
ご入会を検討されている方、どんなプログラムなのか詳しく知りたいという方は、以下のメールまでお気軽にご連絡ください。
practice@tanqgakusha.jp(担当:宮脇)

※実践探究は2023年8月をもってサービスを終了いたしました。今までありがとうございました。
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(編集:藍以)



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