見出し画像

「小学生が自分で考えたロボットを商品化する話【前編】」

昨今、小学生が起業したり、企業と協力してアイデアを商品化したり、といったことは珍しいことではなくなってきました。
特に探究学舎の子どもたちはそういった挑戦に意欲的で、「これ売れるかな?」「商品化してみたい」といった呟きを耳にすることが多々あります。
挑戦することのハードルが低くなってきていることを感じる瞬間です。

しかし、挑戦することのハードルの低さは、実現することのハードルの低さを意味しません。
というのも、挑戦から実現までの道のりはブラックボックスだからです。
「個人がアイデアを商品化する」と聞いて、一体どれほどの人がその具体的なプロセスを思い描けるでしょうか?
商品化を実現するのは容易ではありません。

今回紹介するのは、コロナ禍で見直された「手洗い」に課題を見つけ、手洗いロボット「シャルくん」を考案し、商品化にチャレンジする根木あやみちゃん(小5)のストーリーです。

あやみちゃんも、商品化までのプロセスを全く知らなかった挑戦者の1人でした。
そんな彼女が、ついに商品化実現への切符を手にしました。
そう、製品化してくれる企業を見つけたのです!
この切符を手に入れるまでに、あやみちゃんはこれまでに経験したことのないような苦難をいくつも乗り越えてきました。

今この瞬間も挑戦を続け、「シャルくん」の商品化に向けて奔走しているあやみちゃんの道半ばの物語を前編・後編に分けてお届けします。

きっかけ

手洗いロボットを作ろうと思ったのは、新型コロナウイルスが流行し、手洗いの重要性が見直された2020年のことでした。学校で30秒間洗うことを指導されるも、ほとんどの児童がやっていない現状を目の当たりにし、「楽しく一緒に洗ってくれるロボットがあったら良いのにな」と思ったことがきっかけでした。そんな中、11月に通っていたプログラミング教室で「ウイルス感染対策ロボットコンテスト」が開催され、「シャルくん(Shall we wash! “一緒に手を洗おう!” に由来)」のアイデアを応募したところ見事優秀賞を受賞。そして、お母さんの「こんな商品があったら、ママだったら買いたい!売れるよ!」という言葉で、商品として世の中に売り出すことを決意。
ここから、商品化に向けたあやみちゃんの山あり谷ありのチャレンジがスタートしました。

画像3

「初期投資に一千万必要」

商品化しよう!と決意したは良いものの、どうやったら良いんだろう?商品化までの道のりは未知のもの。2021年1月、あやみちゃんとお母さんは、まずロボット作りをしている会社に訪問し、製品化の相談をしました。コンテストに出したアイデアをレゴブロックで形にし、資料と共に「これを製品化できないか」と持ちかけたところ、この会社に製品化を依頼した場合「初期投資に一千万は必要」と衝撃的なコメントが返ってきました。そんなお金は用意できません。呆気に取られている母娘に会社の担当者は続けます。「もう少し自分で作ってみたらどうなんですか?ミニPC とか売ってますし、スクラッチとか3Dプリンターを使ったらできますよ」「ミニPC?スクラッチ?3Dプリンター??何それ??」知らない言葉の羅列に不安が募ります。ロボット作りをしたことはあったけれど、0から自分が考えたアイデアをロボットという形にしたことはなかったあやみちゃん。「サクッと作ってくれるんじゃないか」と思っていた母娘にとって、現実は非常に厳しいものでした。泣きながら帰路につき、「商品化はもう諦めよっか」と気持ちは撤退の方向へ向かっていました。

プログラミングと3Dプリンターにチャレンジ、プロトタイプ制作へ

その二日後、再び商品化に向けて動き出す急展開が起こりました。いつものようにプログラミング教室に行き、先の出来事を教室長に伝えたところ、「アルバイトの学生なら手伝ってくれるかも」と思いがけない一言が。その学生さんは工学部に所属しており、一緒にプログラミングをしてくれるとのことでした。このことをきっかけに、あやみちゃんは自分自身で試作品を制作するチャレンジに挑むことにしました。学生さんに週に2,3回、スクラッチでのプログラミングに伴走してもらいました。プログラミング教室で使っていたソフトとも似ていたため、難易度こそ高くはなかったものの、使用するミニPCやモニター画面、カメラなどの選定や、それらの接続を1からやることに時間を要しました。不慣れさから生じる失敗に何度もやり直しを重ねたと言います。そして、伴走してくれた学生さんにとってもこのようなことは初挑戦。あやみちゃんと一緒に調べながら、試行錯誤の3ヶ月を過ごしました。
ちょうど同じ時期、通っている学校の中等部に3Dプリンターがあることを知ったあやみちゃんは、担任の先生に相談して使用させてもらえることになりました。3Dプリンターがあればボディの設計ができます。スクラッチ同様、3Dプリンターも初めて触れるものです。出力に何度も失敗する中、粘り強く放課後にラボへ通い続けて試行錯誤を重ねました。
こうして、3Dプリンターでのロボットのボディ作りは10回以上ラボに通って、プログラミングは3ヶ月以上かけて試作品を完成させました。
最初はスクラッチも3Dプリンターも知らなかったあやみちゃん。
しかし、身の回りにはあやみちゃん自身がそれらに挑戦することを助けてくれる環境や人が揃っていました。助けてもらいながら、根気よく挑戦を続け、プロトタイプ製作というハードルを気づいたらひょいと越えていました。

画像1

園児たちの心をわし摑みにしたモニター利用説明会

「こんにちは。私は五年前にこの幼稚園を卒業しました。年長の時はひまわり組でした。今ひまわり組の人手挙げてー!」
5月のある日、元気な声で軽快に語りかけるあやみちゃんに、園児たちは元気に手を挙げこれから始まる話に興味津々。
そう、試作品を完成させたあやみちゃんは、実際にこの手洗いロボットにニーズがあるのかを調査するため、卒園した幼稚園にモニター調査をしに行くことに。このアイデアは同世代の小学生より、幼稚園児に親しまれると判断したあやみちゃんは、ターゲットを幼稚園児に定めていました。そして、卒園した幼稚園へ、園児にモニター利用をしてもらえないかと相談したところ、園長先生から快諾され実施に至りました。冒頭の場面は、園児たちに協力のお願いをするため説明会を行った日のことです。挨拶の後も、幼稚園での思い出を話したり、「私には好きなものがあります。それがこれ!さて、これはなんでしょう?」とレゴが好きであることをクイズ形式で紹介したり、さらには高揚感のある効果音を入れたり…プレゼンの巧みな技の数々と、園児たちへの優しい問いかけと優しい応答が、園児たちの心をわし掴み。もちろん、すごいのは説明の方法だけではありません。あやみちゃんは手洗いの大切さと同時に、手洗いがどうして大事なのか、10秒、20秒、30秒洗った時で殺菌効果がどれほど違うのか、洗い方によって汚れの落ちる程度が異なることなどを実験動画を通じて説明。「どれくらい汚れが落ちるんだろう?」「次はどうなるんだろう?」と、見ている園児たちはドキドキワクワク。「時間をかけて正しく洗うこと」の大切さをしっかり伝えました。そして「でも、面倒くさいよね?」と園児たちの気持ちを先取り。そこで、シャルくんが一緒に応援しながら洗ってくれるという特徴的な機能を伝えました。手洗いの重要性への理解と「楽しそう!」が合わさり、園児たちは快く協力してくれることになりました。

「あやみちゃんのおかげで手洗いが上手くなったんです!」

90人の園児に実施したモニター利用。事前と事後に取ったアンケートからは、園児、先生、保護者の全員からこのロボットへの強いニーズがあることがわかりました。そして、モニター利用のために貸し出していたロボットを回収しに幼稚園へ行った日、あやみちゃんは何にも変え難い嬉しい言葉をもらいます。幼稚園に通う園児の保護者の1人から「根木あやみちゃんですか?」と声をかけられたあやみちゃん。「はい、そうです」と答えると、「実はうちの子はとても手洗いが苦手だったんだけど、あやみちゃんのロボットのおかげで上手くなったんです!ありがとう!」と、ロボットへのこれ以上ない感謝の言葉を告げられました。この経験から、あやみちゃんは「この手洗いロボットは世の中の役に立つ」と強い確信と自信を得ます。

画像2

***

コロナ禍で見つけた「手洗いを楽しくする」という身近な課題から始まった挑戦。
右も左もわからないまま試行錯誤を重ね、一歩一歩着実に前進して自信を得たあやみちゃん。
このまま一気に商品化!?と思える勢いですが、実はこの後には号泣するような出来事が待っていました。
製品化に協力してくれる企業が見つかるまでの道のりで、あやみちゃん母娘はどんな困難を乗り越えていったのでしょうか。後編に続きます。

▼後編はこちらからお読みください。
https://note.com/tanq_unofficial/n/n789c0ad87791

記事を書いた人:ちひろ
今は実践探究でメンターをしたり、文章を書いたりしています。
感動したことや葛藤したこと。感じたことを言葉にすることで認識できる自分の世界は広がると信じて、子どもたちの心の中を言葉にするお手伝いに努めています。

企画・写真・編集:あい
探究学舎広報担当。【価値ある接点の最大化をデザインする広報】を目指し、日々楽しく奮闘中。趣味はドライブと朝活。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<お知らせ>

★探究学舎の1-2月テーマは「ロボット編」★

画像4

▼詳細はこちら!
https://bit.ly/3GL233P

『ロボット編』のコンセプト
「いいロボットをつくるには?」
人類ははるか昔からこのような問いをかかげてロボット開発に挑戦してきました。

探究学舎のロボット編では、「ロボットを実際につくること」や「プログラミング」のみにフォーカスしません。

なぜなら、実はロボットは、物理学や数学といった科学分野だけでなく、生物学や心理学、文学にいたるまで、多分野にわたる知恵が結集してつくられているものだからです。
ロボットはいわば、”人類の叡智の結晶”なのです。

授業ではヒューマノイド(人型)ロボットを主に取り上げて、小学生に向けて、ロボットに結集している様々な知恵を、驚きや葛藤と共にお届けします。

「ロボット」にもともと興味があるお子さんはもちろん、
いきものが好きなお子さんは、いきものとロボットのつながりから、
物語が好きなお子さんは、文学とロボットのつながりから、
自分の「好き」と「ロボット」とのつながりを見つけることができるでしょう。

ロボットやプログラミングなどの知識が全くなくても楽しく、見る・知るだけでも驚きがあり、理解すればするほど色んな経験や知識と結びつき学び味が深くなる、そんな2ヶ月間を一緒に過ごしませんか?

これから先、ロボットと私たちとの関わりはますます深くなっていきます。
その先にはどんな世界が広がっているのか・・・
わたしたちと一緒に未来をのぞきにいきましょう!

この記事が参加している募集

探究学習がすき

記事を読んで下さり、誠にありがとうございます! 気に入って頂き、「スキ」や「フォロー」を押して頂くと、授業に登場する偉人の名言がランダムで表示されます! 記事を通して少しでも共感したり、楽しめたり、感動したり、日常が豊かになれば嬉しいです。