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内川の 旧源流から 河口まで 辿った先で 平和を祈る “ 東京そぞろ走り #3 “
私の家は丘の上にある。
この場所は、多摩川崖線の際地になるらしい。最寄りの地下鉄駅から帰宅する際には、坂を上ってすぐに下り、下りきったところで脇道に入り、そこからさらに階段を47段も上がらねければならない。毎日の通勤だけでも、私の足腰はかなり鍛えられているに違いない。
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階段の下、脇道に入る手前の道を挟んだ向こうに、私が子どもの頃は内川という名の川が流れていた。たまに友人たちと川に降りて、水遊びをしたものだ。その川も、いつの間にか塞がれて今では暗渠となっている。
そういえば、あの川はどこへ向かって流れていたのだろうか?
ある日曜日の昼下がりに、私はふと内川の川筋をたどるランニングをしてみようと思いついた。
さっそくスタートしよう。
*
まず、地元では「お化け階段」と呼ばれている石造りの階段を下る。下から階段の上を見上げてみる。
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階段の左右で土地の高さが全然違うことが一目瞭然だ。
脇道を抜けると、マンションの隣に遊歩道が伸びている。ここが旧内川源流だ。
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現在では上流は暗渠化し、下水道の幹線とされているそうだ。臭いの問題などもあるので、川面をあらわにするわけにはいかないのだろう。
遊歩道を進み階段を上る。足元に標識が設置されているのに気づく。
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「桜のプロムナード」というニつ名が付いているようだ。
目の前には環七が通っている。ちょうど向かいにあるマンションの1階に入っていたステーキ屋で、私は学生時代にアルバイトをしていた。信号も横断歩道もない道を、当時の私は横切って通勤していた。
しかし、今ではそれは困難なようだ。
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中央分離帯ができて、環七の両側がすっかり分断されてしまっている。ここを渡ることは諦めて右に舵を取り、歩道橋を渡って対面に渡った。
昔のバイト先の脇道が内川の暗渠になる。
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1フロア分くらいの高さを階段で下り、進んでいく。右手にはレスリング一家を率いる山本郁榮氏が経営しているジムがある。KIDはお亡くなりになり聖子さんはアメリカに嫁いでいったが、美憂さんは今でもここでトレーニングをしている。
しばらく遊歩道を進むと、両側にマンションが立ち並んでいる一帯に行き着いた。
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マンションの敷地内、すなわち私道を走っている気になるが、少なくともこの道は桜のプロムナードに指定されているのだ。おそらく部外者が通っても大丈夫なのだろう。
マンションの間を抜けると右に向かって細い道が続く。
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ウネウネと曲がりくねった道のりを進んでいく。
何本かの道を渡りながら進むと、暗渠は新幹線のガード下に消えていった。
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ここでまた迂回が必要になる。
ちょうど良いところに、迂回路の看板があった。
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左から回り込んでガードをくぐり、元のルートに合流する。
かつては都営地下鉄の馬込工場だった場所に、立正大学付属立正中学校・高等学校が建っている。
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あきらかにその学校の敷地内であろう道を駆け抜けていく。先ほどのマンション同様に公道とは思えない道だが、先ほどの看板には間違いなく「ここを進め」と書いてあったのだ。
学校を抜け国道1号に向かって進む。左手に、かつては母がハンダ工として働いていた工場があった。私も高校時代の春休みにアルバイトさせてもらったのだが、この工場もすでになくなってしまった。
国道1号の横断歩道を渡る。直進すると、その先には桜並木がある。
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交差点を左折し、桜並木を進む。この通りは花見の名所として、地域住民に親しまれている。3月も終わりになると多数の屋台が軒を並べ、桜の周りにはレジャーシートを敷いて歓談する人たちで大賑わいになる。
左手にはスーパー『キタムラ』がある。ここ以外には店舗を構えていない、地域密着のスーパーだ。バーベキューの食材調達などで、若い頃にはかなりお世話になった。以前は右の建物もキタムラだったのだが、今ではそちらだけスギ薬局に変わっていた。
桜並木通りの末端、ほとんどの歩行者は緩やかに左に曲がり臼田坂に出るルートを通っていく。しかし、暗渠になっているのは右側の細道の方だ。私は生まれてはじめて細道の方を進んでいくことにした。
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道なりに細道を進んでいくと、佐伯山緑地にぶつかった。
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緑豊かな丘陵地になっている。立地的には、この丘を越えた向こうが池上本門寺になる。私は生粋の大田区生まれ大田区育ちだが、この存在を今はじめて知った。
しばらく緑地沿いを進んでいく。ここも崖線だ。
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T字路を左に折れ、一方通行の路地を進んでいく。
どうやら車道が元々の川筋のようで、十字路を挟んで歩道の位置が右側から左側に変わっている。この歩道の間に、かつては橋が架かっていたのだろう。
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そのまま進み、池上通りを渡る。
そういえば、ここまでほとんど起伏のない道を進んでいる。おかげで息が切れることもなく、快適に走れている。坂道だらけの街でも、川筋に沿って走ればアップダウンを避けられるのだな、と至極当たり前なことに気づいた。
さらに直進すると、京浜東北線のガードにぶつかった。このガード下を潜って渡る。屈まないと入れないほどに低い。
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階段を数段下って、ガード下のスペースに入る。それでもまだ屈んで進まないと頭を打ってしまうくらいの高さだ。
ここで、はじめて内川の川面を見ることができた。
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かつて私が遊んでいた上流部よりも、川幅は広い。
振り向くと、水門があった。
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ここが今の源流になる。
ここからは川沿いを進んでいく。
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だんだん日が傾いてきた。日曜日なのに人通りは少ない。障害物がなくアップダウンも少ないので、快調に進んでいく。
しばらく進むと、左手に廃墟とおぼしき居酒屋を発見した。テント看板もボロボロだ。近くに寄ってみよう。
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いや、「営業時間短縮のお知らせ」が貼ってある。どうやら、この店は営業しているらしい。
気を取り直して、さらに進む。東邦医大通りを越えた辺りから、川沿いが遊歩道になっている。
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植栽やベンチが設置され、水と親しむことができるようになっている。
そして、内川の歴史があちこちに記されている。
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そのまま川沿いを進んでいく。
川底からジャグジーのように泡が吹き上がっている一帯があることに気づいた。
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後で調べたところ、あれは曝気装置というものらしい。大雨などで上流から下水が流れ出しても、ここで水質を多少なりとも浄化するための装置だ。
その先では、護岸工事や橋の架け替えがあちこちで行われている。
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川を維持していくためには多大な労力とお金が必要になるのだ、と当たり前の事実を思い知った。
京浜急行のガードをくぐると、目の前にはふたたび環七が見える。
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私はほぼまっすぐに近いルートを走っているのだが、環七の方が大きくカーブして通っているのだ。
ここに至るまで、様々な路に遭遇した。川が流れる暗渠から始まり、幹線道路に歩道橋、川に架かる橋に陸橋、鉄道の線路まで。縦横無尽かつ立体的に多様な用途の路が通っている。
環七に突き当たる。ここでも目の前に横断歩道はなく、遠回りを強いられた。左から回り込み、内川に戻る。
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ここからは、少し川幅が狭くなる。人も車も往来がほぼなくなり、静かになる。民家が途切れ、工場や学校が目立つようになった。
一旦川筋を離れてからまた合流すると、目の前に大きな水門が現れた。
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この水門の先がゴールだ。
内川を通った水は、ここから太平洋に注ぐ。
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ここは、大森ふるさとの浜辺公園。
知る人ぞ知る人口海岸だ。
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もう少し暖かい時期になると、地元の若者や家族連れで賑わう。最近では砂浜にテントを立てている人も目立つ、憩いのスポットだ。
*
あとは家まで帰るだけ。
復路は左に折れて、平和の森公園を横切ることにした。
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公園に「平和の森」と名付ける背景には、どのような思想性が存在していたのだろうか?気になるところではある。
日が暮れかかっているので、人通りもまばらで静かだ。この道の左右は、フィールドアスレチックになっている。日中は子ども達で賑わっている。
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さらに進み道路を渡る。
一転視界が開け、犬の散歩をしている人たちや、広場でフリスビーなどに興じている家族連れが目立つようになった。
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この道を走り抜けたところで、平和島競艇場に突き当たった。平和を冠した島で競争が行われるとは、冷静に考えるとなかなかアイロニカルである。
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帰るには左に進めば良いのだが、今日はもう少し走りたいので右に折れて遠回りすることにした。
大きな歩道橋を渡り、トラックターミナルを越え、
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橋を渡る。
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左に折れ、大井埠頭中央海浜公園に入る。
運河沿いの遊歩道を進んで行く。
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こんな時間でも芝生でピクニックしている人たちがけっこういる。
公園を突っ切ったところで、小休止する。運河越しに、対岸にある大井競馬場を眺める。競馬場越しに沈む夕陽がきれいだ。
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競馬場の中は見えないが、高架をモノレールが走り、その上空を飛行機が飛んでいく。いい眺めだ。
私は休憩を終え、左に折れ橋を渡る。ここからほぼまっすぐ4kmちょっと進めば我が家に帰れる。
大井競馬場の正門に差し掛かる。なんか眩しいなと思い入口に視線を移すと、今日は『東京メガイルミ』が開催されていた。
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せっかくだから入ってみることにしよう。入場料1,000円を支払い、競馬場の中に入った。
大井競馬場といえばトゥインクルレースの印象が強い。学生時代はよく友人たちと夕涼みを兼ねて来場したものだ。コロナ禍の今、せっかくの施設をイルミネーションで活用しようという試みなのだろう。
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カップルと家族連れのみで構成されている観客の中に、汗だくのおっさんがひとり混じっている。冷静に観察すると不審者でしかないが、細かいことは気にせずにイルミネーションを堪能する。
ついでに人目を盗んで、光のトンネルを走ってみる。
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これが、思いのほか気持ちよかった。まるで私が走るために設えられたような錯覚に陥るほどだ。
身体が冷えてきたので、そろそろ退散しよう。
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ふたたび走り、立会川から西大井に向けて進む。あたりはすっかり暗くなっている。
家から1kmほどのところまで戻ってきた。
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右手に『ピース湯』の看板がある。
なぜにこの一帯の人たちは、折に触れ平和を冠するのだろうか?
それはそれとして、すっかり身体も冷え切っているので、湯に浸かって帰ろう。
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路面のすべり止めの線がないとつんのめってしまいそうなほど急な坂を慎重に下り、私はピース湯に向かった。
おしまい
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【今日の一句】
川縁を 春日の尻尾 追いかけて (かわべりを はるひのしっぽ おいかけて)
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