羽もがれ駆け出す蝶の触覚に陽が照りつけて焼き切る真昼
彼女はビルの谷間に降り立った、妖精だった。
ピーターパンがティンカーベルの妖精の粉をふりかけて、彼女を特別な存在に変えてしまったのだ。
その日から彼女は、それまでの平穏なしあわせから切り離されて、背中に生えた薄紫色の淡く光る蝶の羽をひらひらと動かして心許無く羽ばたきながら自分の居場所を探す旅に出るしかなくなってしまった。
薄紫色の蝶の羽。
その羽がもう枯れてしまったのはピーターパンの気まぐれで、私は灼熱の街の中を自分の足でとぼとぼと歩くしかなくなってしまった。
もがれてしまった薄紫色の羽は、ピーターパンの手の中にある。
彼は私の羽をもう握りつぶしてしまったのだろうか?
それともガラスのケースの中に入れて陽に当てたり、日にすかしたりしてその色を眺めて楽しんでいるのだろうか?
私にはわからない。
羽を返して。
もし、私にその羽を返してくれたら、私は多分最後までその羽で飛び続け、彼を讃え続けるだろう。
その日が来るのはいつだろう?
最初は飛ぶのが怖かった。
そしてだんだん飛ぶことに心が躍るようになり、喜びさえ感じるようになっていった。
ふぅわりと地上から浮き上がる時彼女の心は柔らかく震えた。
柔らかで穏やかな気持ち。
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