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かっこいい先輩

「写経」好きな人の文章を書き写して、その人のリズムや文体をまなぶこと。

noteを読んで始めました。

そのお陰で書くことができた文章があります。

最初にわたしが書き写した文章は太宰治さんの作品でした。

ものすごくテンポの速い目くるめくような冒頭シーンは写しているだけでくらくらとするような魅力的なものでした。

多くの方の太宰さんのイメージは「斜陽」とか、「人間失格」とかの重たい内容のものなのかなと思うのですが、私が写した作品はくらくらとするような冒頭となんだかよくわからないような生活をしている人たちをおもしろく描いたちょっとふざけた内容で、勢いのあるものでした。

高校生の頃、わたしはいろんな小説の文庫本をいつもカバンに入れていて、それを読むことで自分を保っていました。

その中の一冊に太宰さんの「女生徒」がありました。

重たいタイプの作品は怖くて読めませんでした。

それにはまってしまったら、抜け出せない迷路にはまってしまうような気がしていたからです。

けれども、いつも行く本屋さんで偶然見つけたこの本はそれまでの私の中の太宰治のイメージとはぜんぜんちがうものでした。

どうしてこの人はこんなに女の人の心の中を見てきたような小説を書けるのだろう?

そのことがずっと気になっていました。

それからかなり経ってから、太宰さんがものすごく努力していろんなタイプの作品を書くために研究をしていたことを知りました。

「女生徒」という作品は太宰さんのファンの女性が送ってきた日記をもとに書かれているのだそうです。

考えようによってはものすごいお話ですが、3か月分の日記を短編にまとめてずっと残る作品に作り上げているのです。

それはなかなかできることではないし、試みることもなかなかない貴重な作品だと思うのです。

実際の若い女性の日記をもとに書かれていることなんて全然知らなかったわたしは、作者の人が怖いような気持ちになりました。

自分の心の中をそのまま覗かれているような感じがしたからです。

けれどもこの作品はわたしにとって魅力があって、なんだかわからないのですが、何度も何度も読み返して、長い間本棚の中に残っていました。

何か心の琴線にふれてくるものがあって手放すことができませんでした。

太宰治さんはきちんと全部読んでみるとものすごく多彩な作品を書いておられるのに、深く自分を掘り下げた作品のイメージがつよいから、こんな風におもしろいものが隠されてしまっていてもったいないと思うのです。

最初に写経した作品も、人から教えて頂くまでまったく知らずにいました。

小説は難しかったり特別だったりするものではなくて、本を読むのが好きな人にとっての楽しいもの、おもしろさや驚きや安らぎが詰まっているものだと思うのです。

読む人のためにあるものです。

多彩な太宰さんの作品をリアルタイムで楽しんでいた当時の人がうらやましくなります。

小説を書きあげるのは大変なことです。

その努力を続けることも大変な労力です。

それを書く力を作り上げることは素敵だけれども大変なことなんだと知りました。

でも時間がかかってしまっても最後まで書きあげます。

必ず出来上がるまでがんばります。

もしもご縁がありましたら読んでみてください。




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