見出し画像

相談:荒れたクラスの授業参観で、良い漢字指導がしたい(小3)

子どもの言語能力を伸ばす楽しい国語の授業を実践して50年、今も現役教員の卯月啓子です。
現場の先生から受けた、質問・相談をご紹介します。


小3担任の新採用の男の先生からの相談です。

お悩み内容

クラスが荒れていて子どもが言うことを聞いてくれません。今日も一人荒れて、机といすを放り投げました。そんな中で、国語の授業参観が予定されています。
国語の読み取り指導は非常に難しく、自信がありません。漢字の指導なら何とかできそうなのですが、おうちの方の前でどうやったら良い授業ができますか。 


卯月啓子の答え


では、授業参観のタイミングに合わられる漢字単元「漢字の音と訓」(小3 教育出版 上)で、具体的に指導を考えてみましょう。

今回ご紹介する指導のテクニックはこちらです!

【テクニック1】全員が教師に注目させるために「教科書を開かせない」

教科書を開くと、子どもは教科書に目を落とすので、教師を見なくなります。教科書を開かないことで、児童全員が前を向いて教師を見る状態を作ることができます。

〔声掛けの例〕
今日の勉強は漢字のクイズをやります。みんなできるかな。
みんながこちらを向いたら始めますよ。

  • 「全員が教師の方を見ないと、クイズが始まらない」ということがわかると、子どもはほとんど全員が注目するようになります。 

【テクニック2】全員がリラックスして自由に発言できる問いかけをする。

間違った答えが出た場合、絶対に無視したり否定はせず、笑って拾って受け答えましょう。子ども全員が間違ってもよい、自由に答えられる雰囲気を作ります。

〔声掛けの例〕
クイズ1です。(「先」を黒板に書いて)これの読み方は何?
 子供の反応 → 「セン」音読み、「さき」訓読み
使い方は?
 子供の反応 → 「先生・先週」「店先・あて先」

  • ここで子どもは我先に答えます。子どもは、何個も答えがある簡単な問いなら失敗を怖がらずに発言できます。

  • 自由に発声させ、それを拾って黒板に書いていきます(黒板に残るほかの子の答えで、発言がより活発になります)。

  • 子どもが活発に発言している様子を、参観されているおうちの方に見せられます。

【テクニック3】教師の話を聞きたくなる「蘊蓄(うんちく)」「小ネタ」をもつ。

今度は、子どもがすぐに答えられない蘊蓄(うんちく)・小ネタを先生が語ります。(「これ先生が調べてきたんだけど」と始めてもOK)

〔声掛けの例〕
音読みはカタカナで書きます。訓読みはひらがなで書きます。どうしてでしょう。

(蘊蓄)
漢字は今から三千年以上前に中国で生まれて、それから日本に伝わってきました。その時、進んでいた国は中国でしたから、言葉も取り入れました。でも、発音がわからないので、中国人が言っている音をそのまま書きました。
例えば「雨」。中国人」が「ウ」と言っているのは日本語で「あめ」のことだと分かりました。中国から来た言葉は外国語です。今の英語のように外国から来た言葉は片仮名で書くでしょう。だから、音読みは片仮名で書くのです。そこで、「雨」は「ウ」で「あめ」。外国語の音と意味が分かったんです。「訓」は日本語の読み方です。漢字はなんと、外国語だったんですよ。それを日本語に直したんですよ。

  • 「音読みはカタカナ、訓読みはひらがな」という全員が知っている切り口にします。

  • 子どもも大人も、へえ、と思われるような内容を教師が自信を持って語る姿を見せることで、信頼を得られます。

  • 教科書にも、音と訓の説明が書かれていますが、この蘊蓄はその内容よりも詳しく具体的に話すことで価値があります。

※この蘊蓄を相談者の先生に教えたら、「そうなんですか。初めて知った」と目を輝かせて言いました。私は「あなたが目を丸くしたんだから、子どももおうちの方もびっくりしますよ。」と言いました。
また、教師自身がこの蘊蓄を知った喜びが、授業で出るのも良い効果になったのではないでしょうか。

【テクニック4】一人一人に個別の声掛けをする。

教科書の例題(読み仮名をふる)を「一人一人で」取り組ませます。

校庭、庭  人命、命  炭焼き、木炭  平ら、平たい、平等、平和

「漢字の音と訓」(小3 教育出版 上)

ここでは、全員が確実にすべての問題に取り組んでほしいので、一斉に挙手で答えさせることはしません。挙手させると、できない子が埋没していきます。そこで、個別学習に集中させ、「困っている子を個別に見つけて、声掛け・指導できる」時間を作ります。

〔声掛けの例〕
教科書を開いて、例題をノートにやりましょう。
国語辞典を使って調べてもいいですよ。

〔個別の声掛け〕
・できている子 → よくできているね。漢字が得意なのかな。字が上手だね。(努力を認める言い方。赤ペンで〇をつけてもよい)
・できていない子 → どの字が読めない? その字はね、国語辞典で調べよう。教科書の後ろの方にある「漢字のふろく」を見てもいいよ。(書いている内容が間違っている子を見つけても「×」は絶対につけず、一緒に調べるか、正しい答えを教えてあげる。横に書いてあげてもOK)
・国語辞典がうまく調べられない子 → 自分で調べようとしていることが偉いね。その字はこの頁にあるね。(ほめながら、一緒に辞典の引き方を教えます)

  • ここでは読み方と使い方がわかれば良いので、書きは教えなくていいです。

  • 個別学習にして、一人で調べられない子(困っている・手が動いていない)を探し、指導援助していきます。

  • できている子にも声掛けは忘れずにします。(ただし、時間は短くてよい)

  • おうちの方は自分の子どもに先生はどんな声掛けをしてくれているかを見ているので、できる限り全員見回る。


【相談者の感想】

相談者の先生より、授業がどう変わったか感想をいただきました。

私の態度が変わった。おどおどしていなくて自信満々でいた。漢字の蘊蓄を知った驚きを伝える喜びを知った。子どもを自在に操れた。クイズで子どもの気持ちを教師に向かわせ、活発に発言させ、活気のあるクラスになった。

漢字の音訓について「へー、そうなのか、初めて知った。」と、おうちの方も子も驚いて、聞いて知ったことで利口になった、勉強になったと感じたという声がたくさん上がった。先生を見直したという陰の声も聞こえた。

動線に無駄がなかった。黒板の前で全員に話して活発にやり取りをした。その後、一人で勉強している子に寄り添って机間指導と支援を十分にしたので、おうちの方からの信頼を勝ち得た。子どもも先生が身近に教えにきてくれたので質問もでき満足した。

話す、書く、発表するという行動のメリハリがあった。教師のしゃべりすぎも、子どもの茶化したことばも入る余地がなかった。授業内容が充実しているので集中して勉強しないといけないという感覚になった。

思考時間のメリハリがあった。わからない、答える、教えてもらう、考える、わかる、応用できたなど、子どもの頭が動いているのを感じた。時間の経過とともに思考力を育てた。


終わりに

自由に発言をしてよい時間、先生の話を聞く時間、個別に学習する時間、という行動のメリハリが指導される側の子どもにとってわかりやすい授業ができたようですね。うまく集中させる授業ができると、クラスの雰囲気も良くなっていくはずです。ちなみに、授業参観などでおうちの方がいても集中できないクラスもあるので、おうちの方がいるから緊張してそのときだけいいクラスになるということはありません。何と言っても授業の良しあしで変わります。

今回お伝えしたテクニックは、他の授業でも取り入れやすいと思いますので、ぜひ、試してみてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?