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遊ぶように気圧の授業を! 仮説実験授業《空気と気圧》(中2・理科)

 最近,中学2年生と仮説実験授業の授業書《空気と気圧》をたのしんでいます。目に見えない空気の粒を想像しながら,予想を繰り返していくこの授業書。「からっぽのビンを水の中に入れたら水は入ってくる?」という質問からはじまるこの授業書。その後, 空気を抜く道具,真空ポンプを使って起こる現象を予想していったり,気圧(=空気が押す力)差が起こす現象などを考えていきます。

●学校公開にて

 先週,学校公開がありました。ちょうど《空気と気圧》の生徒体験の部分が内容として含まれていました。問題は次のような問題です。

【問題2】薄い下敷きを切って、真ん中にひもをつけた板を作ります。その板をプラスチックのコップの口にあて、コップの中の空気を押し出すようにして押しつけます。コップにすきまができないようにして、ひもを上に引っ張ったら、コップを持ち上げることができると思いますか?
 ア.できない イ.できる ウ.一瞬できるがすぐ落ちる

仮説実験授業 授業書《空気と気圧》第二部 問題2より 詳細は原書をご確認ください

「これは廊下で見学している保護者にもぴったり!(コロナ対策のため,教室内には入って見学できない)」と思い,実験道具(コップ・下敷き・ビー玉・吸盤)を置き,興味がある人にはやってもらうことに。すると,保護者の方からは,こんな声。

「こんな簡単に落ちなくなるんですね…。不思議です…。」
「これ,どうやって作ってるんですか?普通の下敷きでいいんですか?」
「せんせい!わたしたち,吸盤で机もあげちゃいましたよ!」
「せんせい!小学6年生の息子がこの場所(実験道具が置いてある廊下)から全然離れないんです…。他のクラスに見学行けなくて…(汗)」

授業を外で見学しつつ,一緒に体験もしてもらうと,教室の中(生徒たち)も外(保護者たち)もアタタカイ雰囲気になるのを感じたのでした。

●高級なテーマ

 生徒に体験してもらう一方で廊下にでて保護者とおしゃべりすると,「たのしそう」「よくみんな考えている」という,生徒たちの様子をたくさん好評価してくれる言葉。でも,それ以上に「これ,どうしてこうなるんですか!?」「私たちが中学生だった頃,こんな勉強したかしら…?高級な勉強しているのね…」といった言葉をもらいます。自分の子どもの様子を見に来た保護者の方たちも,授業の内容に引き込まれているようです(笑)。
そんなおしゃべりを廊下で聞いていたので,ボクは生徒たちに「いまね,廊下でお父さん・お母さんと話をしたらね,まず第一声は「どうしてこうなるの?」っていう声だったよ。やっぱりね,とっても高級な内容をボクらは勉強してるんだね。でも,みんななら説明できるんじゃないかな。誰かさ,廊下にいる保護者にもわかるように説明してくれないかな~?」と声をかけると,元気のよい女子が友達を引き連れて説明してくれます。(生徒名は仮名です)

生徒が説明している様子

あのね…。コップの中で飛び回っていた空気の粒がね,プシュってやると,外にちょこっと飛び出すの。するとね,コップの外で飛び回っている空気の方が押す力が強くなるから,くっつくの!!!

教室の中と外からも届く拍手に,笑顔で戻っていく井森さん(左)と,とりあえず一緒に立たせられて,黒板に貼り付けてある空気の粒だけ移動する役として登場したため,役不足で照れながら戻る新藤さんだったのでした(右)。

●実験つづく

 コップの問題の後は,吸盤を使った作業が続きます。吸盤を使ってともだちと一緒に机を持ち上げると,男子も女子も,普段学校に来ていないような子たちも関係なく,そこに笑顔や拍手が生まれていて,「吸盤1個(10円)で笑顔で生まれるなら安いな 笑」と思うボク。

吸盤数個を使って机を持ち上げている様子

 その次は,気圧計を使って「教室から階段を降りて生徒玄関までいくと気圧計の値はどうなる??」「真空保存容器の中に気圧計を入れて空気を抜くと気圧計の値はどうなる???」といった,授業書にはないけれど,「気圧と遊ぶような問題」を追加でたのしんでいきます。
 他にも,「天気(温度?気圧?)の変化で結晶模様が変化するオブジェ(ストームグラス)」を見せて,「昔の航海ではこんなものを使って天気を予測したといわれてるんだよ…。小説『海底2万マイル』でも登場するよ。」なんて話をすると,「ディズニーだ!」「ワンピースのナミみたいだ!!」と元気よく反応する子どもたちだったのでした。
 そういえば昨日こんな出来事も…。アイプチ問題をきっかけに,学校に来たり,来なかったりの女子生徒が,放課後,友達を待って教室の前の廊下で立っていました。「やぁ」とボク。「せんせい,最近授業受けられてないな」と彼女。明るく授業を受けてくれる子なので,授業にいたかどうかは覚えていて,「ううん。休んだのは前回くらいじゃない?」とボクは実験道具を台車で押しながら会話します。まだ友達を待っているみたいなので,廊下でそのまま欠席した時の「海の上の気圧が変化したら,海面はどうなるか」という問題を…。1週間ぶりに問題を考える彼女。最初は気圧という言葉と空気の粒がつながらなかった様子でしたが,次第に,「低気圧…ということは,空気が押す力が弱いんじゃない?」と思い出していきます。その後,実験道具を使いながら,「そっか。低気圧が来ると,空気が押す力が弱まるんだね。だから,真空ポンプを引いたのとおなじなんだ!だから海の上に低気圧が来ると,海面があがるんだね!へぇ~!これが高潮なんだ!私,カシコくなったよ!」笑顔で答えてくれます。その後,友達が戻ってきたので手を振り帰っていきます。授業書の問題を通して,ほんわかした一瞬でした。
そんな,オトナも子どももたのしんだ《空気と気圧》。この授業書をはじめるまでは,「気圧」なんて言葉を聞かされても特に何も感じない,リクツもよくわからない言葉。でも,天気予報などでは聞こえてくる言葉。そんな言葉をたくさん駆使して授業書の問題を考えている・たのしんでいる姿を見て,改めて教材のステキを感じたのでした。

●おわりに

 ボクは半年前ほどに中学2年生とこの授業をおおよそ10時間かけて1部・2部をたのしみました。でも,この授業書にはじめて出会ったのは2年ほど前。そのときは「絶対やろう!」とまでは思わず時が過ぎていきました。
 はじめるきっかけは,京都の中学教師,吉竹輝記さんが「中学2年生の地学分野に入る前に行う定番の授業書だ」という話をしていて,それをボクもマネしてみました。というのも,ボクは高校教師の経験は7年ほどあるのですが,中学2年生の授業ははじめて。なので,先輩中学理科教師のマネをたくさんすることからはじめようと思ったわけです。そんなわけで,中学2年生とは《空気と気圧》を含め,《自由電子が見えたなら》《ものとその電気》《電流》《電流と磁石》といった物理分野の授業書を実施してきました。
 そして,最後の授業。感想文を読むと,生徒たちの多くが「一番たのしかったのは《空気と気圧》!」ということを書いてきたのです。たとえばこんな感想文。

空気を今までは「気体」というよくわからない物質として考えていたけど,空気の粒という考え方でめちゃわかりやすくなった。真空ポンプは面白いなと思ったけど,使い道があまりないので買うのはやめた。空気の力が水や馬とかよりも強くてびっくりした。普段そこら中にあってもおどろくようなところが空気にはたくさんあった。空気の粒の量の差は,つなひきで一人抜けると大きくパワーバランスが崩れるのと同じように,わずかでも大きな変化をしていた。気圧計を使えば天気を予測できるんじゃないかなと思った。風もよくよく考えてみたら何で起きるかわかんなくて,それが気圧の差によるものだと知ってなるほどと思った。

(中2・男子)

 「へぇ~!そうなんだ!」と発見のボク。授業実施時間が長いこともあるかもしれませんが,教師実験で示すだけでなく,グループで自ら手を動かして実験結果を体感していく…。その現象を見るだけでもたのしい。そんな魅力が《空気と気圧》にはありそうです。ネットでも学習動画があふれている現代だからこそ,五感を感じながら学ぶ時間を作りたいなぁ…なんてことを思っています。

P.S.実際に「この授業をやってみたい!」と思った方へ…。本内容は仮説実験授業という、「授業書」という紙面を使いながら科学上の最も基礎的な概念や原理・原則を教えることを意図した授業です。授業書・授業ノート(進め方が記載された本)は仮説社で購入できますので下記からご購入ください。また、ボク自身の本授業の具体的な進め方をサブスク「たのしい教師生活へのトビラ」にて公開中です。会員登録すると本授業書を進めるにあたっての具体的ノウハウが下記より読めますので、ご興味がある方はご登録くださいませ。

●《空気と気圧》授業メモ

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